DISEASE DETAILS 疾患一覧
けが(外傷)
動物咬傷(animal bite)
動物、ペットにかまれて傷ができることを指します。動物による咬傷の加害動物として多いのは、犬と猫です。他にも、蛇、サル、ねずみなどのげっ歯類、またヒトによる咬傷も報告されています。 世界では、年間に数千万件の犬による咬傷事故が発生しています。日本では、環境省の統計によれば、令和2年(2020年)における犬による咬傷事故は4602件報告されており、そのほとんどが飼い犬でした。
全体の咬傷の90%以上はイヌ、ネコ、ヒトによるものであり、そのほとんどをイヌ咬傷が占めています。イヌやネコの咬傷は学齢期の男児で最もよくみられます。幼児や未就学児の咬傷の多くは家庭で慣れ親しんでいるイヌによるものですが、思春期の子どもは見知らぬイヌに咬まれることが多い傾向にあります。
また、イヌ咬傷の部位は年齢により異なり、未就学児では頭部、顔面、頸部が一般的ですが、年齢が上がるにつれて四肢の咬傷が一般的となります。

危険な感染症を引き起こす動物咬傷
動物咬傷は侮られがちな怪我ですが、高確率に創部の感染を引き起こします。包丁などの刃物で切った傷よりも圧倒的に感染率が高く、しかも重症化しやすいので甘く見てはなりません。
創部感染症の主な病原微生物は、動物の口腔内細菌叢と人の皮膚常在菌です。Streptococcus属やStaphylococcus aureusなどの好気性菌、Fusobacterium属、Bacteroides属などの嫌気性菌が関与し、複数の菌種による混合感染がおこります。特に、犬の咬傷ではPasteurella canisやCapnocytophaga canimorsus(脾臓を摘出していると重症になりやすい)が、猫の咬傷ではPasteurella multocidaが、人ではEikenella corrodensが特徴的な菌として知られています。その他の病原微生物としては、猫ひっかき病を引き起こすBartonella henselae、狂犬病ウイルスによる狂犬病などがあります。
それぞれの動物によって、傷や感染の特徴が異なります。
イヌ咬傷:イヌ咬傷後の感染率は5~10%と比較的低く、これはイヌ咬傷が挫滅創であるため洗浄やデブリードマン(debridement)が容易なことが多いためです。しかし、感染症よりも組織損傷が問題になることが多く、死亡は感染症よりも大量出血や小さな子どもの頭蓋内損傷によっておこります。
ネコ咬傷:刺し傷のような傷となり、一見軽症にみえますが、実際は深い穿刺創になっていることが多いのが特徴です。洗浄が難しく、関節包や骨膜にまで達していることもあり、感染率が高く50%程度が感染するため注意が必要です。また、創部感染のほかに、ネコひっかき病、野兎病(Tularemia)、ジフテリアなどの全身感染を起こすことがあります。
ヒト咬傷:子どものヒト咬傷は指しゃぶりによる爪周囲炎、咬合による咬傷、喧嘩によって起こる拳の咬傷に分類できます。特に喧嘩によって起こる拳の咬傷は、相手に殴りかかり拳が相手の歯にあたることで起こる最も重症なヒト咬傷です。皮膚の傷自体は2~5mm程度と小さいものの、傷は靭帯・関節・骨にまで達し、創部感染から周囲へと広がります。関節炎や骨髄炎を併発し、特にEikenella corrodensによるものは治りにくく切断を要する場合もあります。なお、ヒト咬傷の場合、虐待や性的暴行の結果としての咬傷ではないかにも注意が必要です。
咬傷創部が感染を起こした場合、通常は咬傷後24~48時間で発赤、腫脹、疼痛、圧痛などの症状が出現します。しかし、ネコ咬傷でPasteurella multocidaが原因の場合は、12~18時間というより早い経過で症状が出現する傾向にあります。免疫が低下している人では咬傷から敗血症や髄膜炎を発症することもあるため、迅速な対応が求められます。
動物咬傷のチェックポイント
感染が生じていないかを観察することが最も重要です。表面上は小さな傷でも深部に感染が波及していることがあり注意を要します。「見た目の傷が小さく見える」ことが動物咬傷を侮ってしまう大きな要因となります。感染を放置すると深部の組織が感染で溶かされてしまい、骨がおかされたり、血中に細菌が移行して敗血症となることがあります。 傷から出血が続いている時は止血する必要があります。血管、神経、指の腱などの重要な構造物が損傷していないかの確認も行います。動物の折れた歯などの異物の残存や、骨折の有無を確認し、適切な処置を行います。
骨折や異物が混入している疑いがある場合は、レントゲン検査などの画像検査を実施します。 感染症を疑った場合は、傷を洗浄する前に創部培養(好気・嫌気)を採取することが重要ですが、原因となりやすい嫌気性菌は培養されにくいことにも注意が必要です。 顔面における複雑な咬傷、骨・腱・関節に達する深い咬傷、神経や血管の障害を伴う咬傷の場合は特に詳しい画像検査や大病院への紹介を検討します。

動物咬傷の治療
最も大切なことはアルコールでの消毒ではなく、「噛まれた傷をすぐに水で洗うことです」。大量の水でしつこく洗い流して傷口の細菌を少しでも減らすことを意識してください。

そして傷パワーパッドやケアリーブなどで傷を密閉しないように注意してください。感染がある場合は密閉すると逆効果になり、細菌が培養しているのと同じことになります。

当院では、創部を洗浄したのち、その深達度を評価します。異物は取り除き、壊死組織を取り除くデブリードマンを行います。傷があってもすぐに縫合せずに開放創のままにしておき、感染がひどくならないことを確認してから縫合することもあります。
抗菌薬の予防投与は、免疫不全や無脾症などの基礎疾患がある場合に加え、特定の条件を満たす傷に対しても考慮されます。具体的には、顔や手足、生殖器、人工関節の近くにできた傷や、関節、骨、腱、血管などにまで達する深い傷などが該当します。また、皮膚を貫通するようなネコ咬傷や挫傷、受傷から8時間以上が経過した傷、著しい汚染や動物の歯などの異物が残存している傷も対象となります。さらに、創部周囲に浮腫がみられる場合や、深い刺し傷(穿刺創)、血管・リンパ管障害の可能性がある場合にも、予防的な抗菌薬の投与を検討します。
実際に感染を治療する際の抗菌薬としては、アモキシシリン・クラブラン酸、もしくはST合剤とクリンダマイシンを併用します。抗菌薬の投与期間は、予防目的であれば3~5日間程度ですが、感染に対する治療目的の場合は、単純な皮膚軟部組織感染症で7~14日間となります。ただし、関節炎や骨髄炎などの合併症を引き起こしている場合は、それぞれの状態における標準的な治療期間に準じて投与を延長します。
感染症対策として、破傷風の予防も重要です。被害者の破傷風トキソイドの接種歴(小児の場合はDPT-IPVワクチン、DPTワクチン、DTワクチンの接種歴)を確認し、予防の必要性を検討します。過去の接種状況や傷の汚染度合いによって、抗破傷風ヒト免疫グロブリンの投与やワクチンの追加接種が必要かどうかを判断します。また、ヒトに咬まれた傷(ヒト咬傷)の対応においては、B型肝炎予防についても併せて検討する必要があります。
一方で狂犬病については、狂犬病ウイルスに感染した動物に咬まれることで発症しますが、現在日本では狂犬病は存在しないため、国内での動物咬傷による発症の心配はないと考えられています。ただし、狂犬病のリスクがある海外で動物咬傷を受けた場合には狂犬病ワクチンの接種が不可欠となるため、速やかに感染症を専門に取り扱う病院を受診してください。
参考文献)
・的野多加志. 動物咬傷・動物刺傷. 日本医事新報. 2026;(5318):42-43.
・咬傷関連感染症. 福島慎二. 小児内科 Vol. 55 No. 4,2023‒4
・Harper MB:Infection following bites. In Long SS,Pickering LK, Prober CG:Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseases, 3rd ed, Elsevier, pp525‒530, 2008
記事監修:曽我部 祐輔 医師 (三国ゆう整形外科 院長/日本整形外科学会認定 整形外科専門医)
最終校正日:2026年8月7日

先生から一言
動物咬傷は日常的に遭遇する頻度の高い外傷です。
見た目の傷が小さく見えることが多く侮られがちですが、深刻な感染症を引き起こすことも少なくありません。
感染がひどくなる前にすぐに整形外科を受診しましょう。
私は自分自身が猫にかまれてひどい感染を起こした体験から、重症化する前に治療を行うことの必要性をしっかり患者さんに説明するようにしています。