整形外科・リハビリテーション科・リウマチ科・骨粗鬆症外来

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腰・背中の痛み

脊椎関節炎(SpA)

脊椎関節炎(SpA)とは

脊椎関節炎は、脊椎や仙腸関節を主に侵す慢性の炎症性疾患です。この病気は、脊椎の関節やその周辺の軟部組織に炎症を起こし、最終的には脊椎の関節が固まる強直化がみられるという特徴があります。

SpAは、国際脊椎関節炎評価学会により分類されています。この分類では、

①仙腸関節炎と脊椎に関節炎が存在する体軸性SpA

②末梢関節に優位な関節炎が存在する末梢性SpA

に分けられます。末梢性SpAには乾癬性関節炎(PsA)や炎症性腸疾患関連脊椎関節炎(IBD-SpA)、関節以外の部位の細菌感染症後に起こる反応性関節炎、いずれにも分類されない分類不能型SpAがあります。関節リウマチ(RA)とSpAは、関節炎としての症状は似ていますが、RAでは滑膜に炎症の起点があるのに対し、SpAでは靱帯や腱が骨に結合する部位「付着部」に炎症の起点があります。

脊椎関節炎(SpA)の原因

脊椎関節炎の中で最も有名な強直性脊椎炎(AS)はHLA-B27という遺伝子型との強い関連が示されています。しかし、手足などの末梢関節が主な罹患部位である乾癬性関節炎(PsA)や炎症性腸疾患関連脊椎関節炎(IBD-SpA)などの末梢性SpAは、最近の食生活での糖質や脂質の過剰摂取が原因で増加傾向にあると考えられています。

脊椎関節炎(SpA)の症状と身体所見

SpAの付着部炎は無治療であっても痛みが増悪と緩解を繰り返す性質があります。ある部位に腱付着部炎が発生してもしばらくして治っては、他の部位が炎症をきたす場合もあり、「痛いところがあちらこちらに移動する」という感覚になり、関節リウマチとの鑑別に役立ちます。

脊椎関節炎はさまざまな病態を含むため、①脊椎炎・仙腸関節炎、②付着部炎・指趾炎・末梢関節炎、③爪病変、④骨・関節外症状の4つに分けて述べます。

①脊椎炎・仙腸関節炎

仙腸関節や脊椎の付着部炎により、炎症性腰背部痛を呈します。発症時の年齢が40歳以下、潜在性発症、運動により改善する安静では改善しない夜間の痛みの5項目中4項目に合致し、3か月以上続く痛みはIBPの可能性が高いとされています。乾癬性関節炎など末梢性SpAでの腰背部痛は、体重増加などの環境的リスクによる中高年での発症も珍しくありません。仙腸関節炎の殿部痛は、片側性に交互に出現することが多く、乾癬性関節炎の頚部症状は、痛みではなく首の強ばりのことが多く、「よく寝違える」と表現されます。

仙腸関節炎の診察は、腹臥位で仙腸関節部を上から押して仙腸関節の圧痛を確認(Newton test)、患側の膝を曲げながら股関節を外転・外旋させ、足を反対側の膝あたりに乗せて仙腸関節痛が誘発されれば陽性(Patrick’s test)、仰臥位にして健側の膝を抱えて股関節を屈曲させ、患側は下肢を台上から下して股関節を伸展させたとき、伸展させている側の仙腸関節に痛みが出れば陽性(Gaenslen test)等を用います。また、仙腸関節炎では、上後腸骨棘や坐骨結節付近に圧痛を認めることも多いです。

脊椎炎の診察は、棘突起上に圧痛があれば付着部炎の可能性があり、SpAを疑います。進行した症例では脊椎の可動域制限も認められ、前屈での腰椎可動域測定(Schober’s test)や胸郭拡張測定により判定します。末梢性SpAの中で最も体軸病変を有する症例が多いのはPsAであり、頚椎や腰椎に非連続性の病変を有するのみで、仙腸関節炎を伴わない症例もあります。PsAの診断にはCASPAR基準がよく用いられます。

②付着部炎・指趾炎・末梢関節炎  

腱や靱帯の付着部に圧痛があれば付着部炎を疑い、関節裂隙に圧痛があれば関節炎を疑います。付着部炎の診察では、体軸や四肢の関節だけでなく、胸鎖・胸肋関節や大転子、骨盤帯、恥骨結合、坐骨結節なども触診して圧痛を確かめます。アキレス腱付着部炎や足底腱膜炎では、片側性に踵の腫脹や圧痛が認められることが多いです。

指趾炎は腱鞘滑膜炎が主体で、典型例では指趾がソーセージ様に腫脹し、関節部の皮膚が紫がかっていることもあります。腫脹が目立たない症例では、超音波検査による観察が有用です。末梢関節炎では、四肢の関節に疾痛や運動制限が起こり、片側性のこともあります。指趾の関節炎は、PsAでは指の第一関節(DIP関節)にも病変がみられ、X線や超音波検査が有効です。  

③爪病変  

爪の変形は、伸筋腱の末節骨付着部炎が爪母や爪の下層に及ぶことにより、炎症性角化症が爪に生じると考えられています。高度な爪変形と仙腸関節炎との関連が明らかになり、乾癬患者では、爪病変が最も関節症状の発現に関係するとされています。爪変形は、点状陥凹や横溝、爪甲縦溝、爪甲粗造化、爪甲白斑などが爪母の病変に含まれ、爪甲剥離や爪甲下角質増殖、線状出血、油滴などが爪床の病変に含まれます。これら爪母と爪床の病変が組み合わさってみられる場合には、爪乾癬と考えても良いとされています。爪乾癬と爪白癬の鑑別は困難であり、両者が合併する場合もあります。また、爪白癬では、爪甲の表面は硬く光沢もあり、爪が欠けてくることはないので、爪に欠けた部分があれば爪乾癬の可能性が高いとされています。若年者では手の爪は異常がなく、足の爪のみが変形していることも多くあります。

④骨・関節外症状  

SpAでは、増加したサイトカインの影響で皮膚の新陳代謝が活性化され、踵や足底、趾に皮膚の角化が目立つことがあります。典型的な乾癬皮疹は、境界が明瞭に発赤して皮膚が盛り上がり、その表面に銀白色の垢(鱗屑)が見られます。好発部位は、頭皮、眉毛や項などの髪の生え際、耳介内側や基部、肘や膝などの関節伸側、前脛骨部、膀胱、殿裂部、単径部、肛門周囲などです。

SpAの関節外の関連症状として、ぶどう膜炎や炎症性腸疾患による症状の有無を聴取します。前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)では、眩しさや眼痛、眼球充血、視力低下などの症状が起こります。炎症性腸疾患については、クローン病や潰瘍性大腸炎と診断されていなくても、腸粘膜の軽度炎症により軟便や下痢気味の状態が続いていることがあり、便の状態についての確認が必要です。心筋伝導異常による不整脈や大動脈基部の異常、大動脈弁閉鎖不全をきたすこともあります。

脊椎関節炎(SpA)の検査

血液検査  

SpAでは、血沈やCRPなどの急性反応蛋白が炎症に伴って上昇します。MMP-3も、関節炎の活動性指標として有用です。しかし、疾患活動性が高い時期であっても、これらの炎症マーカーの上昇が認められない症例も多いです。リウマチ因子(RF)や抗シトルリン化ペプチド(CCP)抗体、抗核抗体は通常陰性ですが、RFや抗CCP抗体が陽性となるSpA症例も稀ではありません。PsAでは、増加したサイトカインの影響でインスリン抵抗性やメタボリック症候群の有病率が高く、高脂血症や耐糖能異常、高尿酸血症が見られます。

X線写真

胸椎・腰椎2方向、仙腸関節3方向(正面像および斜位像)が基本で、頚部症状がある場合には頚椎側面を追加します。脊椎のX線写真では、椎体縁での付着部炎に始まる椎体変形の進行過程を示す所見として、椎体縁のびらん(Romanus lesion)、硬化(shiny corner)、椎体の方形化(squaring)、靱帯骨棘(syndesmophyte)、椎間関節裂隙不鮮明化や消失(強直)が見られ、重症例ではbamboo spine(竹様脊椎)やAndersson lesion(偽関節様状態)を呈することもあります。仙腸関節炎のX線診断には、ASの改訂ニューヨーク基準が用いられますが、正面像のみでは判断が難しく、仙腸関節斜位像やCT、MRI画像を参照することが勧められています。  末梢関節でも、びらん性骨病変にとどまるRAとは異なり、SpAでは付着部炎による骨びらんに続いて組織修復機構が働き、骨形成・骨増殖を生じます。

CT

SpAにおける炎症性病変の描出はされませんが、骨構造を明瞭に描出でき、X線写真では判別が困難な椎体での靱帯骨棘の発生部位や、検出困難な程度の仙腸関節の骨びらんや骨硬化、関節裂隙の狭小化、骨棘を検出できます。仙腸関節での骨びらんなどの骨吸収所見は、体軸性SpAの診断に有用です。

MRI

体軸性の仙腸関節や脊椎の評価にはMRIが有効です。骨髄炎、骨髄浮腫、骨炎はSTIR像で高信号、T1強調像では低信号を示します。体軸性SpAの分類基準であるASAS分類基準で画像上の仙腸関節炎とは、①改訂ニューヨーク基準のX線基準を満たす仙腸関節炎、もしくは②仙腸関節炎を強く示唆するMRI所見を認めることが必要です。MRIでの仙腸関節における炎症所見はSpAに特異的ではなく、健常人や他の疾患でも認められるため決め手にはなりません。脊椎炎は、椎体の前方か後方の隅にSTIR像で骨髄浮腫を示す高信号として見られ、前方成分の脊椎炎所見はRomanus lesionと呼ばれます。これらの所見が3か所以上に認められて骨棘・Schmorl結節を認めなければ、体軸性SpAが疑われます。椎体の四隅や終板周囲がT1強調像で高信号、STIR像で低信号を示す、脂肪変性所見が若年成人に認められた場合には、体軸性SpAを示唆します。

脊椎関節炎(SpA)と鑑別すべき疾患

体軸性SpAに特異的な臨床症状や臨床検査、画像所見は存在しないことを理解し、鑑別すべき疾患を念頭に置いてASAS分類基準などにより診断を進めることが重要です。鑑別を要する疾患は、SAPHO症候群・掌聴膿庖症性骨関節炎(PAO)、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、びまん性特発性骨増殖症(DISH)、硬化性腸骨骨炎、OA・変形性仙腸関節症、化膿性脊椎炎・転移性骨腫瘍などです。しかし、SpAとこれら鑑別すべき疾患(特にOAやDISH)が重複している症例も多いので、総合的な判断が必要になります。

体軸性SpAの疾患活動性の評価は、強直性脊椎炎疾患活動性スコア(ASDAS)を用いて行います。他に活動性を測る指標としてBASDAIや日常生活の動作に関わる指標BASFI、脊椎の可動性の指標BASMIがあります。

脊椎関節炎(SpA)の治療

①リハビリテーションと疾患教育

脊椎の強直や付着部炎に対する理学療法や作業療法が推奨されており、ストレッチなどの筋肉の柔軟性低下を予防する運動は、症状の緩和だけでなく関節可動域や姿勢の維持に効果があります。また、急に動いたり、前屈みや長時間同じ姿勢を取るのを避け、体を冷やさないようにするなどの生活指導が必要です。病気に対する不安や生活上の精神的ストレスもSpAの病態を悪化させる可能性があり、カウンセリングが必要な場合もあります。

②薬物療法

脊椎や仙腸関節の体軸関節病変に対しては、付着部炎に関与するPGE2の生成を抑制するため、ロキソプロフェンなどのNSAIDsを使用し、効果があれば継続することが推奨されています。NSAIDsはASの脊椎における靱帯骨棘の進行を抑制するという報告があり、疼痛時に頓用するのではなく継続使用を推奨されています。通常2種類以上のNSAIDsを投与しても効果が不十分な場合には、TNFα阻害薬やIL-17a阻害薬の生物学的製剤を使用します。炎症性腸疾患やぶどう膜炎がある症例では、TNFα阻害薬が望ましいです。またJAK阻害薬もASやPsAに対する有効性が示されています。メトトレキサート(MTX)はPsAに保険適用があり、末梢関節炎に対しては有効ですが、PsAの体軸病変やASに対しては無効です。ステロイドの全身投与は無効とされていますが、末梢関節への関節注射は有効とされています。

③生活習慣の改善

糖質や脂質の過剰摂取による体重増加や肥満は、PsAをはじめとするSpAの病態を悪化させ、治療反応性を低下させることが知られています。SpAに合併するOAやDISHについても、SpAと同様に肥満や脂質異常症、糖尿病などが発症や進行のリスクとなるため、生活指導による体重のコントロールが大切です。RAと同様にSpAでも、喫煙は薬物療法の反応性を低下させ、予後に影響を与えるので禁煙指導を行います。過剰なアルコール摂取が、PsAの発症リスクを増加させるとする報告もあります。また、PsAでは乾癬関連疾患と言われる、耐糖能異常や高尿酸血症、脂肪肝、メタボリックシンドローム、冠動脈疾患、うつなど炎症誘導性サイトカインが関与する疾患を合併することが多く、あわせて検査する必要があります。

参考文献)

・MB Orthop. 36(9): 67-78, 2023 特集: 実地医家は腰背部痛をどう診るか 脊椎関節炎による腰背部痛の診断と治療

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