DISEASE DETAILS 疾患一覧
けが(外傷)
マレット指
マレット指とは
マレット指は、指先のDIP関節が伸ばせなくなる疾患です。多くは突き指によって受傷し、DIP関節が下垂して、曲がって見えます。指がまるで木槌(マレット)やハンマーのような形状に見えることからマレットフィンガー(槌指)と呼ばれます。
マレット指には腱性マレット指と骨性マレット指の二つのタイプが存在します。腱性マレット指は、指をのばす伸筋腱の断裂、骨性マレット指は末節の伸筋腱付着部の骨折です。
マレット指の原因
多くは外傷性で、球技中にボールを取り損ねたり、突き指によって、DIP関節が伸展しながら強制屈曲されるなどしたときに伸筋腱の断裂や、末節骨の骨折を生じます。スポーツでは、野球などの球技で発生しやすく、「baseball finger」とも言われます。スポーツ外傷での発症は、青年や中年の男性に多く見られ、環指、小指、中指、示指、母指の順に発生頻度が高いとの報告があります。
突き指以外にも、重い物を持ち上げるなどしてDIP関節が強く曲がったときや、皿洗い中に力を入れすぎたり、引き出しに服を入れる際に物にぶつかったりすることや、ナイフや鋭利な物体で深い切り傷を負った場合にも、伸筋腱が切断されて受傷することがあります。
外傷以外では、関節リウマチなどの疾患によっても発症することがあります。
マレット指の症状
指先の関節であるDIP関節が自分で伸ばせず、痛みがあります。ほかの指でつまんで伸ばすことはできます。医学的には、自動伸展不可、他動伸展可と表現されます。腱断裂の場合は、疼痛がないかわずかであることもあります。
マレット指の検査
X線や超音波を用いて骨折の有無を確認します。多数の骨折片がある場合は、CTが有効です。子供では、骨端線損傷が合併することもあります。骨が露出している開放性マレット指は、感染を防ぐために緊急に治療する必要があります。
腱性マレット指の治療
①腱性マレット指、②骨性マレット指、③受傷から時間が経過したマレット指に分けて治療方針を考える必要があります。
①腱性マレット指の治療
シーネやギプスを用いた保存治療を行います。PIP関節の固定は3週間で解除しますが、DIP関節の常時固定は6~8週間行います。保存治療で重要な点は、副子の自己着脱を禁止することであり、それが困難な場合は、手術によってキルシュナー鋼線によるDIP関節の伸展位の仮固定を考慮します。固定期間が終了した後は、手指の自動可動域(ROM)訓練を開始しますが、DIP関節の伸展不全を軽減し、増悪を予防するためにも、夜間の副子固定が必要です。これを十分に説明し、6ヶ月間を目安にDIP関節伸展位シーネまたは装具を装着します。
保存治療の問題点としては、皮膚の循環障害が挙げられますが、これを未然に防ぐためにも、極端な過伸展位固定や布絆創膏の締めすぎは避けるべきです。週1度の頻度でシーネを外し、その際に皮膚を空気に曝すとともに、罹患指全体の清拭を行います。
手術治療は、初診時の伸展不足角度が概ね40度以上のときは、整容的に伸展不全を10度以下にとどめ、かつ機能的に十分な屈曲可動域の獲得を目指し、断裂した終止腱の縫合を行うことがあります。
②骨性マレット指の治療
関節内骨折であり、正確な整復と強固な固定が必要です。手術治療が主体となり、伸展ブロックピンを利用した石黒法を施行しています。
鋼線の繰り返し刺入による終止腱や背側骨片の破損が起こる場合があるため、非観血的操作がうまくいかない時は石黒法にこだわらずに観血的整復・内固定に切り替えます。観血治療では、DIP関節背側にH型またはY型の皮切を行い、爪母を損傷しないように注意しながら遠位皮弁を起こします。近位爪郭側面よりDIP関節側面を通り、近位1.5cmまでの皮切を用いることもあります。骨折部は石黒法または終止腱と末節骨遠位骨片を軟鋼線で水平マットレス縫合するBaseley法で固定します。
術後は2週間はシーネでPIP関節まで固定し、その後は鋼線抜去までDIP関節のみを固定します。骨癒合が確認できた術後4~6週で鋼線を抜去して可動域訓練を開始し、少なくとも鋼線抜去後12週間は装具による夜間伸展位固定を継続します。
③受傷から時間の経過したマレット指の治療
受傷後4週以上経過した腱性マレット指に対する治療では、DIP関節の伸展位固定を8週間以上施行することで、日常生活動で不便がない程度まで指の動きが回復することが多いとされます。ポケットや手袋に手を入れる際に指が引っかかるなど、「白鳥の首変形(Swan neck deformity)」を起こしている指の治療は非常に難しいとされており、手術が必要です。再建手術は指の伸展機構のバランスを回復することを目的とし、腱修復や移植、移行などによる腱の緊張を高める方法と、相対的に短縮してしまった腱を切離する方法の2つがあります。
受傷から3~5週経過した骨性マレット指に対しては、手術が必要です。骨折部を新鮮化した後に石黒法を行います。骨欠損があれば、橈骨遠位端からの海綿骨移植を併せて行います。
参考文献)
・American Society for Surgery of the Hand. Mallet Finger
・臨床スポーツ医学、第29巻、第6号、2012年6月号
先生から一言
マレット指は、診断は比較的簡単です。受傷してから時間が経過すると治療に苦労することが多いので、突き指してから指が伸びなくなった場合は早めに整形外科を受診するようにしましょう。