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膝の痛み
滑膜ひだ(タナ)障害
滑膜ひだ(タナ)障害とは
膝関節の中にある滑膜ひだという組織が関節の中でひっかかり、膝の伸展・屈曲時のひっかかり感、膝蓋骨内側の有痛性クリック、膝の違和感や重だるさなどを生じる疾患です。膝関節滑膜ひだは、膝蓋上滑膜ひだ、膝蓋内側滑膜ひだ、膝蓋外側滑膜ひだ、膝蓋下滑膜ひだの4つが存在し、胎生期に膝関節腔を分割していた隔壁の遺残と考えられています。その隔壁は胎生10週を過ぎると退縮して一つの膝関節腔となり、それぞれの隔壁の遺残が滑膜ひだと呼ばれています。
内側膝蓋滑膜ヒダは、その形態から「タナ」とも呼ばれています。通常、タナは生理的状態では障害になりませんが、打撲などの原因で断裂したり、瘢痕化して硬くなると、大腿骨内側顆関節面の軟骨に不整や変性が生じ、インピンジメント現象を引き起こすと考えられています。
滑膜ひだ(タナ)障害の原因
膝関節腔の発生過程で生じる隔壁やその遺残として、いくつかの滑膜ヒダが生理的に存在し、膝蓋上ヒダ、内側滑膜ヒダ、外側滑膜ヒダ、膝蓋下ヒダなどがあります。これらの滑膜ヒダが大きい場合や、外傷によって断裂、出血、瘢痕化が生じ、弾性が低下した際には、膝蓋上ヒダでは膝蓋上腔の閉塞による膝上部の腫脹、内側滑膜ヒダや膝蓋下ヒダでは膝関節運動障害が発現することがあります。この状態を総称してタナ障害と呼びます。スポーツ障害では、内側滑膜ヒダが問題となる頻度が高いです。
滑膜ひだ(タナ)障害の症状
症状としては、膝の伸展・屈曲時のひっかかり感、膝蓋骨内側の有痛性クリック、索状物の触知や圧痛などがありますが、違和感や重さなどの軽い症状のみを訴えることもあります。
滑膜ひだ(タナ)障害の検査
内側滑膜ヒダは、T2強調像で、膝蓋骨の内後方や大腿骨前面に索状の低信号構造として描出されます。MRIでは描出が困難なほど滑膜ヒダが小さく、明らかな瘢痕などの病的所見がないにもかかわらず症状が出現することもあります。膝関節伸展機構による機械的刺激に基づく炎症が原因と推定されており、この場合、画像による診断は困難で、MRIで異常がないというだけで滑膜ひだ障害を完全に否定することはできません。
逆に、内側滑膜ヒダは健常人の約半数が有する一種の正常変異であるため、MRIで滑膜ひだが描出されることだけでは病的であると断定できません。症状および理学所見と比較検討する必要があります。また、関節液が少ない場合には滑膜ヒダそのものの同定が困難となるため、タナ障害が疑われる場合には、関節鏡下手術の術前検査としてMRI・CT関節造影の追加が必要です。
また膝蓋下ヒダは幽間窩の前十字靱帯(ACL)の腹側に位置しますが、前十字靱帯が完全に断裂している場合、膝蓋下ヒダを正常の前十字靱帯と誤認する可能性があり、注意が必要です。
滑膜ひだ(タナ)障害の治療
まずは保存療法が第一選択となります。保存療法では、超音波ガイドを使用し、膝蓋内側滑膜ひだに局所注射(トリアムシノロン5mg+1%キシロカイン1ml)を行います。安静や消炎鎮痛剤の投与による局所炎症のコントロール、ストレッチなどの理学療法も有効です。
これらの治療で症状の改善しない難治例では関節鏡視下でのタナ切除術を検討します。以前は膝前内側部痛の原因の多くが滑膜ひだであるかのように扱われ、鏡視下滑膜ひだ切除術がよく行われていましたが、1995年以前に行われた手術969例のメタ解析では、術後に完全に痛みが消失したのは64%のみであり、残りの36%では痛みが残存したと報告されました。そのため、必ずしも疼痛の原因が滑膜ひだにあるとは断定できず、手術適応の判断は慎重に行うべきであると現在では考えられています。
一方、MRIで膝蓋内側滑膜ひだ直下の大腿骨に信号変化を呈している場合は、軟骨損傷を合併していることが多く、鏡視下滑膜ひだ切除術が適応と考えられます。鏡視下滑膜ひだ切除術後は速やかに症状が消失し、約4週間でスポーツ活動に復帰できることが多いです。
参考文献)
・MB Orthop. 27(10):25-31, 2014. 膝関節のインピンジメント. 高澤祐治
・MB Orthop.35(1):91-98,202.
先生から一言
滑膜ひだ障害は診断が難しい膝関節疾患のひとつです。MRIで診断できない小さな滑膜ひだが症状の原因となることもあり、関節鏡手術が必要になることがあります。