DISEASE DETAILS 疾患一覧
膝の痛み
膝関節骨壊死症
膝関節骨壊死症とは
膝関節骨壊死症(ONK:osteonecrosis of the knee)は1968年にAhlbackらによって報告された疾患で、膝関節を構成する大腿骨、脛骨に骨壊死が生じ、疼痛がでます。膝関節は股関節に続いて、骨壊死が2番目に多い関節です。膝関節骨壊死症は、特発性、二次性、そして関節鏡視下手術後(post-arthroscopic)の3種類に分類されます。
膝関節骨壊死症の原因
膝関節骨壊死症はあきらかな原因が指摘できない特発性、なんらかの疾患がもとで生じる二次性骨壊死(続発性)、関節鏡手術後に生じるものの3つに大きく分けられます。
①特発性膝関節骨壊死症(SONK)
特発性膝関節骨壊死症(SONK)は50歳以上の中高年に多く見られ、急な膝内側部の痛みで発症します。男性よりも女性に多くみられ、夜間痛や荷重時の痛みを伴うことがあります。65歳以上の慢性的な膝痛を持つ患者のMRIにおいて、9.4%に膝骨壊死が見られるという報告もあります。
かつては血流不全(虚血)によるものとされていました。当時注目されていた大腿骨頭壊死に似ていたため、骨壊死とみなされていました。Yamamotoらは、SONKが軟骨下での脆弱性骨折であり、骨壊死は骨折が治癒しなかった部分の病態であると報告しています。早期には軟骨下の骨折のみが見られ、進行期には骨壊死が認められましたが、それは骨折部の末梢側に限局していました。このことから、SONKの進行期における骨壊死は、軟骨下骨折の結果であるとされています。脆弱性骨折が骨髄内の循環を停止させ、虚血を伴う骨髄浮腫を引き起こします。SONKは大腿骨内側顆に多く見られますが、それは大腿骨内側顆の血流が外側顆に比べて乏しいためとされています。脛骨病変は稀ですが、Yangらは脛骨内側顆SONKの病変部位について、脛骨内側顆前方が32%、中央が68%であり、後方の病変は認められなかったと報告しています。その理由として、歩行時に脛骨の前方と中央に荷重がかかるためとされています。
現在では、この軟骨下脆弱性骨折がSONKの原因であることが広く支持されています。さらに近年、高齢者の軟骨下脆弱性骨折は、半月板断裂や逸脱に伴う過負荷によると報告されています。Pareekらは223例の軟骨下脆弱性骨折を調査し、58%が大腿骨内側顆、48%が脛骨内側顆に発生しており、内側コンパートメントには89%、外側コンパートメントには15%に発生していたと報告しています。また、骨髄浮腫は99%に見られ、平均下肢アライメントは内反であったとされています。半月板損傷は84%に見られ、その大多数が放射状断裂と後根断裂であったと報告されています。このことから、半月板損傷の存在が骨壊死の発生に寄与していると示唆されています。
②二次性膝関節骨壊死
ほとんどがアルコールやステロイドの使用により、比較的若い年代(45歳以上)で発症します。大抵は片側のみに起こり、女性に多くみられます。痛みは徐々に増強していきます。アルコールやステロイドが脂肪細胞を肥大させ、骨内圧を増加させることで虚血を引き起こすことが壊死の原因と主訴くされています。
③膝関節鏡手術後の骨壊死
稀ではありますが、半月板切除や軟骨形成術後に発生することがあります。膝関節鏡手術時に高周波デバイス(radiofrequency device)を使用した場合、4%に骨壊死が生じたという報告もあります。症状は術後6~8週以降に現れることが多いです。半月板切除後に接触圧が変化し、軟骨下の脆弱性骨折を引き起こすと考えられています。
膝関節骨壊死症の症状
骨壊死は徐々に進行する病気です。
最初の症状として多いのは、膝の内側に感じる痛みです。この痛みは突然現れることもあり、特定の動作やちょっとしたけがが引き金になることがあります。病気が進むにつれて、膝に体重をかけるのが難しくなり、関節を動かすと痛みを伴うようになります。
その他の症状としては、膝の前や内側の腫れ、膝周りを触ると痛い、関節の動きが制限されるなどの症状がみられます。病状の進行には数か月から1年以上かかることもあります。早期に診断することが大切で、早期治療がより良い回復につながるという研究結果もあります。
膝関節骨壊死症の検査
〇画像診断
SONKの単純X線分類としてKoshino分類がよく用いられています。Stage Iは症状があるものの画像上の所見がないもの、Stage IIは荷重部の平坦化と骨吸収像、軟骨下骨の辺縁硬化像が見られる段階です。Stage IIIは荷重部の軟骨下骨の陥没、Stage IVは変性が加わり、関節裂隙の狭小化と骨棘形成が見られる状態です。
SONKの発症初期は単純X線では病巣を確認できないため、MRIがゴールドスタンダードとされています。MRIは同時に半月板や軟骨の状態も確認できる利点があります。ただし、診断可能な期間(diagnostic window time)があり、壊死病巣の確認は発症から4週以降に可能となります。骨シンチグラフィは初期に病巣部に取り込まれるものの、MRIより感度・特異度ともに劣ります。
膝関節骨壊死症の治療
保存的治療
病巣部の面積が3.5cm²未満で、大腿骨顆部に対する病巣部の割合が45%未満のStage Iの早期例に対して行います。治療には、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、筋力訓練、ヒアルロン酸関節注射、免荷、外側足底板の使用、ビスフォスフォネート、パルス磁気刺激などが報告されています。保存的治療については、Yatesらが平均4.9か月、Lotkeらが9~15か月で症状が消失したと報告しています。自験例では、内反変形がない症例において症状の消失時期は平均5.9か月でした。
手術的治療
進行例が手術の適応となります。人工膝関節単顆型置換(UKA)、人工膝関節全置換(TKA)、高位脛骨骨切り術(HTO)、骨移植、関節鏡下の骨減圧術(core decompression)、および骨軟骨柱移植などがあります。Koshino分類でStage IやIIに該当し、活動性が高い場合は関節温存手術を検討しますが、圧壊が存在する場合は人工関節の選択が適切です。
発症後4~6週以降にMRIで壊死巣を確認し、内反の有無、非線状、軟骨下骨の低輝度領域、focal deformityがある症例は予後不良と判断し、早期の手術的治療を検討しています。MRI所見で予後が良好と判断される場合でも、保存的治療では症状の消失まで平均5.9か月を要するため、早期の社会復帰を目指して手術療法を行う場合があります。下肢アライメントの確認は、両脚立位での下肢観察を用いて行います。
手術内容については、骨軟骨欠損が大きくない場合はHTOまたはUKAを選択することが多いですが、活動性が高い患者にはHTOを選択します。変形が早期の場合は内側開大式HTOを選択し、近年では膝蓋大腿関節症の進行を防ぐ目的で内側開大式脛骨近位骨切り術を選択しています。半月板損傷がある場合は、関節鏡視下で縫合して温存を図ります。内側半月板後根断裂に対しては、脛骨外側から骨孔を作製し、pull-out固定を行っています。骨壊死病巣にはドリリングを施行します。フルマラソンなどのインパクトスポーツへの復帰を希望する患者には、骨軟骨柱移植を併用することがあります。圧壊が進行し、高齢で活動性が低い場合はTKAを選択します。
参考文献)
・膝関節骨壊死症の診かた. MB Orthop.33(9):9-16,2020.
・Diseases & Conditions Osteonecrosis of the Knee. American Academy of Orthopaedic Surgeons.
先生から一言
膝関節骨壊死は特に高齢の方では、単なる変形性関節症とおもわれ見過ごされることもあります。レントゲンのみで診断が確定できない場合は速やかなMRI検査が必要で、関節の破壊が起こる前に適切な対応を取らなくてはなりません。