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首の痛み
バレリュー症候群(Barré-Lièou syndrome)
バレリュー症候群は、交通事故などの外傷(むち打ちなど)を契機として発症する難治性の疾患であり、外傷性頸部症候群の亜型と考えられています。首の痛みだけでなく、めまい、耳鳴り、頭痛など多彩な自律神経症状を引き起こします。
画像診断や客観的な神経学的所見に異常が現れにくいため、周囲の理解が得られず「不定愁訴(原因不明の体調不良)」や精神的な問題として誤解されやすい側面があります。また、むち打ち症や脳震盪後症候群と症状が重なる部分が多く、片頭痛やメニエール病などと誤診されやすいため、正確な診断が下されていない「隠れバレリュー症候群」の患者様が多く存在すると考えられています。正確な診断と適切な治療が非常に重要な疾患です。

記事監修:曽我部 祐輔 医師 (三国ゆう整形外科 院長/日本整形外科学会認定 整形外科専門医)
バレリュー症候群の原因
バレリュー症候群は、自律神経(特に交感神経)が刺激され、過剰に緊張・活性化することが主な原因と考えられており、これまでに頸部交感神経過緊張説や椎骨動脈の循環障害説などが提唱されています。この交感神経の過緊張を引き起こす根本的な理由が「頸椎の不安定性」です。
頸椎が不安定になる要因としては、まず、交通事故(むち打ち)やスポーツ外傷、転倒などによる頸部靭帯への直接的かつ急激な外傷が挙げられます。それに加えて近年では、スマートフォンやパソコンの長時間使用など、不良姿勢が長期間続くことで首の靭帯が徐々に引き伸ばされて緩んでしまう「クリープ現象」も大きな要因となっています。さらに、自分で首をボキボキと鳴らす行為(自己マニピュレーション)や、過度に強い力での頸部調整(一部の整体など)といった首への不適切な負荷も、靭帯の弛緩を招く原因です。
こうした様々な要因によって頸椎の関節がひとたび不安定になると、周囲の交感神経や神経根、血管が持続的に圧迫・刺激されることになり、結果として全身にわたる多彩でつらい症状が引き起こされるのです。

バレリュー症候群の症状
症状は多岐にわたり、複数の症状が同時に、あるいは時期をずらして現れることがあります。首の痛みだけでなく、全身の広範な部位に自律神経症状が現れるのが特徴です。
| 部位・系統 | 具体的な症状 |
| 頭・頸部 | 頭痛(後頭部や首を中心とした重苦しい痛み)、片頭痛、頭重感、首の痛み、筋肉の痙攣 |
| 内耳・眼 | めまい、耳鳴り、耳の閉塞感、目のかすみ・疲労感、視力低下、眼球の圧迫感 |
| 顔面・咽喉頭 | 顔の痛みやしびれ、歯痛、副鼻腔の詰まり、声のかすれ(嗄声)、喉の不快感、嚥下困難 |
| 胸・背部 | 胸痛、背部痛、不整脈、息苦しさ |
| その他(全身) | 手や前腕のしびれ・感覚異常、全身の強い疲労感、吐き気、不眠、不安感、うつ状態、便秘 |
バレリュー症候群の検査・診断
バレリュー症候群は客観的な指標に乏しいうえに、「痛みのために首の筋肉が緊張(スパズム)して関節を固定してしまい、画像検査で首の不安定性が隠れてしまう」という特徴があり、通常の検査では「異常なし」と診断されやすい難しさがあります。そのため、問診による丁寧な症状の確認とともに、他の疾患(脳脊髄液減少症など)を除外するための検査を行います。
画像検査では、X線、CT、MRIなどの画像検査を用いて骨折や脱臼、椎間板や脊髄の異常がないかを確認するほか(※一部の専門機関では、首を動かしながら撮影する動態X線撮影が有用とされることもあります)、頸動脈超音波(エコー)検査によって脳幹へ血液を送る椎骨動脈に血流不全がないかを調べます。
MRI検査が必要と判断された場合は、当院の提携病院にてMRI撮影を行っていただきますが、撮影後の画像確認と詳細な結果説明、および今後の保存方針の決定については、引き続き当院にて行うことができます。最終的には、これらの各種検査の所見に加え、外傷歴や長時間のスマホ使用などの生活習慣、首を鳴らす癖の有無、自律神経症状の広がりなどを踏まえて総合的に診断を下します。
一連の検査で明らかな異常がないにもかかわらず自律神経症状が顕著であり、かつ自律神経をブロックする薬(αブロッカーなど)を服用して症状が改善する場合に、バレリュー症候群が強く疑われます。
バレリュー症候群に対して当院で行う治療
当院では、患者様のお身体への負担を第一に考え、投薬、リハビリテーション、生活指導、装具療法を組み合わせた保存的加療を中心に行っております。基本的には頸椎捻挫(むち打ち)に準じた治療を行いますが、一時的な症状の緩和(対症療法)だけでなく、根本原因である「頸椎の不安定性」の改善を目指す治療が重要になります。
まず、つらい自律神経症状に対しては、交感神経の過剰な興奮を抑えるお薬(交感神経遮断薬やαブロッカーなど)を処方し、症状の緩和を図ります。それと並行して行うリハビリテーションでは、温熱療法や電気治療といった物理療法を用いて首まわりの筋肉の緊張を優しくほぐし、血流を改善していきます。強い力でのマッサージや牽引はかえって靭帯に負担をかける恐れがあるため、患者様の状態をしっかりと見極めながら慎重に進め、首に負担をかけない正しい姿勢の維持や、関節を安定させるための運動療法を丁寧に指導いたします。
また、日々の過ごし方も回復において非常に重要です。生活指導では、靭帯をさらに緩ませる原因となる「自分で首をボキボキ鳴らす行為」は厳禁とお伝えし、首への負担を減らす動作について具体的なアドバイスを行います。さらに、症状に応じて一時的に頸椎カラー(ソフトまたはハード)を装着する装具療法を取り入れ、首の過度な動きを制限して安静を保つことで、靭帯の修復を促していきます。
基幹病院へのご紹介となる治療
当院での投薬やリハビリ、生活指導・装具療法のみでは改善が乏しい場合や、より専門的な介入が必要と判断されるケースについては、星状神経節ブロックや頸部硬膜外ブロックなどの神経ブロック注射、緩んだ靭帯の修復を促す特殊な注射(プロロセラピー/増殖療法)といった専門的な介入が適応となる場合は、当院では実施していないため基幹病院へご紹介することになります。
手術療法に関しては、バレリュー症候群は原則として保存的加療で治療を行う疾患であり、安易な頸椎固定術などの外科手術は他の頸椎への負担を増やすリスクがあるためほとんど適応になりません。しかし、万が一、状態の著しい悪化や他疾患の合併などにより、手術等を含めた高度な専門治療がどうしても必要となった場合につきましても、信頼できる基幹病院へと速やかにご紹介いたします。
参考文献)
・Morinaga Y, Nii K, Sakamoto K, Inoue R, Mitsutake T, Hanada H. Focus on diagnosis, treatment, and problems of Barré-Lièou syndrome: Two case reports. Drug Discoveries & Therapeutics 13(4): 239-243, 2019.
・Ross A. Hauser, Danielle Steilen, Ingrid Schaefer Sprague. Cervical Instability as a Cause of Barré-Liéou Syndrome and Definitive Treatment with Prolotherapy: A Case Series. European Journal of Preventive Medicine. Vol. 3, No. 5, 2015, pp. 155-166. doi: 10.11648/j.ejpm.20150305.15