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腕・手のしびれ
神経痛性筋萎縮症(Neuralgic amyotrophy)
神経痛性筋萎縮症(Neuralgic amyotrophy)とは
突然に片側の腕に強い神経痛が生じ、その痛みが少しずつ軽くなった後に、同じ腕の筋肉がやせ細り、力が入りにくくなる病気です。主に腕の神経の束である腕神経叢(わんしんけいそう)やその枝の部分に障害が起こることが原因と考えられています。
欧米での調査では、年間10万人に2〜3人程度の発症が報告されており、40歳以降に多くみられ、男性にやや多い傾向があります。強い痛みは数日から数週間で落ち着くことが多いのですが、その後に腕の筋力低下や筋萎縮が出現します。経過は必ずしも良好ではなく、発症から3年後の時点でも4人に3人は後遺症を残しており、およそ4人に1人は仕事に大きな支障があると報告されています。

神経痛性筋萎縮症(Neuralgic amyotrophy)の原因
発症のきっかけとして、風邪などのウイルス感染や、スポーツや外傷といった身体への負担が関与することが知られており、免疫の異常や遺伝的な要素も関連していると考えられていますが、はっきりとした原因はまだ解明されていません。
神経痛性筋萎縮症(Neuralgic amyotrophy)の症状
診断の際には、神経痛性筋萎縮症に特徴的な経過や症状が参考になります。まず、首や肩、腕に強い痛みが現れることが最初のサインであり、この痛みが軽くなってくると、同じ腕の筋肉が弱り、細くなっていきます。症状の中心は筋力低下であり、しびれや感覚の異常は出ても比較的軽度であることが多いとされています。障害される筋肉は肩甲骨まわりや上腕の筋肉に多く、すべての筋肉が一度に弱るのではなく、まだらに障害が出るのが特徴です。まれに横隔膜や腰の神経など、腕以外の部位にも影響が出ることもあります。
神経痛性筋萎縮症(Neuralgic amyotrophy)の診断に必要な検査
神経痛性筋萎縮症は、病気の認知度がまだ低いため、他の病気と間違われやすく、早い段階で正しく診断することがとても大切です。MRI検査で腕の神経に炎症を示す信号が確認されることもあり、筋電図や神経伝導検査では神経の障害を裏付ける所見が得られる場合もありますが、診断を確定させる検査手段はいまだ明らかではありません。
一方で、この病気は頚椎症や肩関節の病気、糖尿病による神経障害、運動ニューロン病、あるいはがんによる神経浸潤など、似た症状を示す他の病気と区別する必要があります。そのため、診断にあたってはこれらの病気を除外するための検査が主になります。
神経痛性筋萎縮症(Neuralgic amyotrophy)の治療
症状は時間をかけて少しずつ改善していく場合が多いですが、回復には半年から数年を要することもあり、完全に元に戻らない場合もあります。そのため、適切な診断とリハビリテーション、そして必要に応じた薬による治療を受けながら経過をみていくことが重要です。
治療に関しては、現在のところ確立された方法はありません。急性期にはステロイド薬が使用されることもありますが、効果を裏付ける十分な科学的根拠はまだなく、日本で行われている免疫グロブリン療法(IVIg)についても治療効果は不明瞭です。腕や手の末梢神経に障害が出るタイプでは、手術で神経の圧迫を取り除いたり、神経をつなぐ手術が行われることもありますが、これについても効果はまだ十分に確立されておらず、外科治療の効果もいまだ不透明です。
神経痛性筋萎縮症(Neuralgic amyotrophy)の治療予後と頚椎症との比較
これまで神経痛性筋萎縮症は多くの場合自然に回復するため予後は良好と考えられてきましたが、必ずしも順調に改善しない例も報告されています。それでも、頚椎症性神経根症に比べると自然な回復が期待できる点は大きな特徴です。特に神経痛性筋萎縮症では、重い麻痺が出た場合でも半年から1年以上かけて筋力が戻ることがあります。一方、頚椎症性神経根症では発症から早期に回復する軽症例を除けば、重い麻痺では回復が難しいとされています。
神経痛性筋萎縮症は自然回復が期待できる一方で、症状の改善には時間がかかり、後遺症が残ることもあります。リハビリを継続しながら経過をしっかりと観察し、必要に応じて薬物療法を取り入れることが、少しでも生活の質を高めていくために大切です。
参考文献)
・神経痛性筋萎縮症 臨床診断ガイドライン / 神経痛性筋萎縮症 臨床診断基準. 末梢神経 35(2): 390-391, 2024.
・神経痛性筋萎縮症. 末梢神経 34(2): 178-183, 2023.

先生から一言
神経痛性筋萎縮症は診断が難しい病気で、経過により後遺症を残すこともあります。まずはほかの疾患を除外することが大切ですので、腕の疼痛でお困りの方はまずは診察にお越しください。