DISEASE DETAILS 疾患一覧
股関節の痛み
ロコモティブシンドローム(ロコモ)
ロコモとは
ロコモとは、「筋肉や骨などの運動器の障害によって移動機能が低下してしまう状態」です。立つ、歩く、走る、座るなど、日常生活を送る上で基本となる機能が低下します。「ロコチェック」というチェックリストを使用し、該当する項目がある場合にはさらに詳細なロコモ度テストを実施します。ロコモ度1の場合は運動や食事療法、ロコモ度2の場合は整形外科の受診を勧められ、ロコモ度3では専門的な治療が必要とされます。
ロコモは要支援、要介護の原因となる
国民生活調査(2019年)によると、要介護・要支援の原因として骨折・転倒が12.5%、関節疾患が10.8%、脊髄損傷が1.5%と、ロコモ関連の疾患・外傷が全体の約24.8%を占めています。ロコモが進行すると転倒リスクが高まり、要支援・要介護の原因になります。そのためロコモを克服し、健康寿命を延ばすことが大切です。
ロコモの原因
加齢、運動不足、生活活動の低下、栄養不足などが原因で、骨、関節軟骨、椎間板、筋肉、神経系など運動器の構成要素に障害が生じます。これにより、痛みや関節の動きの制限、柔軟性の低下、姿勢の変化、筋力やバランス能力の低下が起こり、結果として移動能力の低下を招きます。
ロコモの症状:ロコチェック
以下のような症状があります。ロコモの診断の目安になるロコチェックです。
- 階段を上るのに手すりが必要
- 15分くらい続けて歩けない
- 片足立ちで靴下がはけない
- 横断歩道を青信号で渡りきれない
- 家のなかでつまずいたり滑ったりする
- 2㎏もの(1Lの牛乳二本)を買って持って帰れない
- やや重い家事(洗濯物を取り込むなど)が困難
ロコモの診断
日本整形外科学会が提唱するロコチェックは、ロコモのリスクを簡単に判定するツールとして活用されており、運動能力や日常生活レベルの評価との高い関連性が報告されています。
ロコチェックに該当する項目があれば、ロコモ度テストで重症度を評価します。ロコモ度テストは、「立ち上がりテスト」(垂直方向の移動機能評価)、「2ステップテスト」(水平方向の移動機能評価)、そして運動器の症状や機能に加えて社会生活状況も評価する「ロコモ25」の3つのテストで構成されています。いずれかのテストで年代相応の基準を満たさない場合は、将来ロコモになる可能性があるとされています。
さらに、ロコモがどの程度進行すると医療介入が必要になり、治療によってロコモがどのように改善するかを明らかにした結果、2020年には新たな臨床判断値として「ロコモ度3」が設けられました。「ロコモ度3」は、移動機能の低下が進行し、社会参加に支障を来たしている段階と評価されます。判定基準として、「立ち上がりテスト」では両脚で30cmの台から立つことができない、「2ステップテスト」の値が0.9未満、「ロコモ25」の得点が24点以上であり、年齢にかかわらず、これら3項目のうち1つでも該当する状態が「ロコモ度3」とされます。
ロコモと骨粗鬆症は密接に関連する
筋肉と骨は遺伝的要素や性ホルモンの影響を強く受けており、ビタミンDやIGF-1などが関係します。このことから、骨折のリスク因子を持つ場合は筋肉がやせやすいといわれています。治療に関しては、栄養や生活習慣の改善に共通する点が多く、運動療法ではレジスタンス運動やバランス運動が重要になってきます。
ロコモと骨粗しょう症は互いに関連し、病態の悪化は一緒に進みます。これらの予防や改善には、運動療法やリハビリテーションが重要です。骨密度の維持に関する運動療法では、健康な高齢者の場合は、週3回、約30分間の高負荷レジスタンス運動が推奨されます。既にロコモが進行している高齢者の場合は、簡単で低負荷、かつ高頻度で続けられる全身運動が勧められます。
当院では怪我無く筋肉と骨を鍛えられるよう、ロコモアドバイスドクターの指示のもと、リハビリテーションを中心に治療を行っております。
ロコモの治療
特に高齢者に対しては、ロコモ対策を実施することで、運動器の症状を緩和するだけでなく、運動機能や移動能力の維持や向上に努めることが推奨されます。外来診療では、ロコモ度テストを用いた運動機能の評価や、骨粗しょう症検査、単純X線で変形性関節症などの運動器の疾患を評価します。
ロコモ度1と判定された場合は運動の習慣づけと食事療法が推奨され、ロコモ度2と判定された場合は整形外科医の受診が勧められています。また、ロコモ度3の場合は、自立した生活が難しくなるリスクが非常に高いため、運動器疾患に対する専門的な治療が必要となり、整形外科専門医による治療が必要です。
ロコモーショントレーニング(ロコトレ)は、ロコモを予防し、また改善するために日本整形外科学会が提唱している運動です。高齢者でも簡単に、短時間で実践できる運動内容であり、特別な道具や広いスペースが不要で、家の中で気軽に行えるため、継続しやすいです。ロコトレでは、主に「片脚立ち」と「スクワット」があり、他にも「膝あげ」、「つま先立ち」もケガをしにくくお勧めです。これらの運動は、主に高齢者に多いバランス能力や筋力の低下に対処することを目的としていますが、結果として筋肉だけでなく、骨や関節、神経など、加齢によって弱まる運動器を鍛えることができます。
しかし、ロコトレだけでなく、ウォーキング、ジョギング、水泳など、自分が好きな運動を楽しんで長く続けることが何よりも大切だと私は考えています。楽しくない運動は、結局続きません。
ロコモの原因となる疾患に対する手術
ロコモの原因疾患には、腰部脊柱管狭窄症、変形性関節症、骨粗鬆症などがあり、超高齢社会を迎えた日本では、関節や脊椎などの運動器の障害を持つ患者さんが増えています。中でも腰部脊柱管狭窄症や下肢の変形性関節症に対する外科的治療がロコモ対策として有効である可能性を示す報告があります。
Fujitaらの研究では、後方除圧または固定術を受けた腰部脊柱管狭窄症の患者さん166名において、手術前と比較して、手術後半年後、1年後にはロコモ度が改善していたことが報告されました。変形性股関節症については、Taniguchiらが88名の人工股関節置換術(THA)後のロコモ度を調査し、手術後2年時点で17.0%の患者さんがロコモから脱却し、56.8%がロコモ度が改善していることを報告しました。
これらの報告から、腰部脊柱管狭窄症や変形性股関節症に対する手術は、臨床症状の改善だけでなく、日常生活における活動性の向上やロコモ度の改善が期待できることが示されています。
参考文献)
・金治有彦ら. ロコモの予防と治療, MB Med Rehaの第274号(2022年)p50-54.
先生から一言
ロコモを予防し、生涯自分の足で歩く、もしくはできるだけ元気に過ごすため早期発見・治療がとても大切です。またロコモの予防は認知症の予防にも効果的と言えます。
院長はロコモアドバイスドクターとして専門的かつ分かりやすく予防方法、治療についてご説明いたします。ご自身のこと、ご家族のことでもお気軽にご相談下さい。