DISEASE DETAILS 疾患一覧

股関節の痛み
変形性股関節症
受診の目安(こんな症状が続くときはご相談ください)
- 足の付け根(鼠径部)の痛みが数週間以上続く/夜間も痛む
- 歩行や階段で痛みが強い、歩くと不安定になってきた
- 靴下の着脱や爪切りが難しい、しゃがみにくい
- 跛行が出てきた、脚の長さが違う気がする
- 以前より歩ける距離が短い、転びやすい
- 学校・仕事・家事・運動に支障が出ている
変形性股関節症とは
変形性股関節症は、関節軟骨の変性・摩耗とそれに伴う骨の変化によって、股関節の痛みや動かしにくさを生じる病気です。原因が特定できないものを一次性、他の疾患や形態異常に続発するものを二次性と分類します。日本では80%以上が寛骨臼形成不全(生まれつき股関節の受け皿が浅い状態)に由来する二次性とされ、壮年期以降の女性に多くみられます。発症しやすいのは40~50代で、仕事・家事・育児が忙しい年代のQOL(生活の質)に影響しやすい疾患です。近年は、FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)と呼ばれる骨形態の問題が、一次性の一因として注目されています。

変形性股関節症の原因
日本では、発育性股関節形成不全(DDH)に続発する二次性の股関節症が主な原因の一つです。DDHは幼少期から股関節の形の問題が背景にあり、痛みは40~50歳ごろに出てくることが多く、女性に多い(男女比約1:5~9)ことが知られています。近年は、大腿骨と寛骨臼がぶつかりやすい形態によって起こる大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)も、原因の一つとして注目されています。
そのほかの二次性の原因として、関節リウマチや感染性股関節炎、大腿骨頭壊死、急速進行型股関節症、Perthes病、大腿骨頭すべり症、外傷、腫瘍などがあります。これらを見逃さないために、幼少期からの病歴や治療歴・手術歴の確認が大切です。
危険因子としては、DDH(寛骨臼形成不全)や股関節脱臼の既往、肥満、重い物を扱う作業が挙げられ、欧米の報告では長時間の立ち仕事や高強度のスポーツ歴も関連が示されています。進行しやすい所見の例として、寛骨臼形成不全の程度が強いことや痛みが持続することが挙げられます。診療では、骨盤・脊椎のバランスや日常の動作・姿勢といった体の使い方も、痛みや進行に影響するため合わせて評価します。
隣接関節障害:股関節は腰と密接に関係する
股関節のすぐそばにある腰(脊椎)の状態にも注意が必要です。ヒップスパインシンドローム(HSS)といわれ、股関節と脊椎の病気が互いに影響し合うことを指します。股関節の変形が背骨の配列や動きに影響し、その逆に、背骨の変化が股関節の負担を増やすこともあります。
高齢になると腰椎の前弯が減って骨盤が後ろに傾きやすくなり、その結果、大腿骨頭の前方の被覆が不十分となって、寛骨臼形成不全に近い状態を生じることがあります。さらに、骨粗しょう症を伴う高齢者では、背骨などの微小骨折がきっかけで、急速に股関節症が進むリスクも高まります。
変形性股関節症の症状
関節症の初期は、立ち上がりや歩き始めに股関節の違和感や痛みを自覚します。軟骨の摩耗と関節の変形が進むと、歩行などの動作時に痛みが出やすくなり、場合によっては安静時にも続くことがあります。可動域が低下すると、爪切りや靴下の着脱といった深く曲げる動作が難しくなります。
変形が進行すると、患側の脚が相対的に短くなり、中殿筋の筋力低下により跛行(足を引きずる歩き方)やふらつきが生じることがあります。痛みの部位は鼠径部(足の付け根)が最も多く、殿部・太もも・膝周囲・下肢に広がることもあります。
なお、腰椎の病気でも似た症状が出るため、診察では腰との鑑別が重要です。
変形性股関節症の検査
問診では股関節疾患の既往や幼少期の治療・手術歴、家族歴を確認し、古い手術痕が手がかりになる場合もあります。続いて身体診察では、可動域や歩行の状態、筋力を評価し、外転筋力低下に伴うトレンデレンブルグ徴候の有無を確認します。さらに、股関節を屈曲・外転・外旋して痛みを誘発するPatrickテストが陽性となることがあり、鼡径靱帯・長内転筋・縫工筋に囲まれたScarpaの三角(直下に大腿骨頭が位置)に圧痛を認めることがあります。
画像検査はX線が基本で、関節裂隙の狭小化、骨棘、骨硬化、骨嚢胞、寛骨臼や大腿骨頭の変形、両者の位置関係を確認します。必要に応じてCTで骨形態を詳細に評価し、MRIで早期の関節唇損傷や軟骨変性、関節水腫を把握します。なお、痛みが強いにもかかわらず画像変化が乏しい場合には、痛みの感じ方が過敏になる中枢性感作が関与している可能性も考慮します。
変形性股関節症の保存治療
保存療法の基本は、体重管理と運動、補助具の活用、症状に合わせた薬・注射の組み合わせです。まず、肥満はリスクになるため減量を心がけ、股関節にかかる荷重を減らすことが大切です。歩行時の負担を軽くする目的で、杖などの歩行補助具の使用も検討します。杖は痛む側と反対の手で使うと効果的です。脚の長さに差がある場合には、足底板(インソール)で歩きやすさとバランスを補います。
薬物療法では、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(ロキソプロフェンなど)が痛みの改善に有効です。症状に応じて、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(デュロキセチン)やトラマドールを検討する場合があります。関節内注射は、ヒアルロン酸やステロイドにより短期的な痛みの軽減が得られることがありますが、感染などの合併症リスクがあるため、回数や間隔は医師が慎重に判断します。サプリメント(グルコサミン等)は有効性がはっきりしておらず、現時点では積極的な推奨はできません。PRP注射は効果が期待されるものの研究段階で、適応は個別に検討します。
当院のリハビリテーション
当院のリハビリテーションは、痛みのコントロールを行いながら、股関節周囲の筋力を高めて関節の安定性を向上させることを目的に、段階的に進めます。日本のガイドラインでも運動療法は推奨されており、短期から中期の痛み軽減や機能改善が示されています。
鍛える主な部位は、大殿筋、内転筋、大腿四頭筋、ハムストリングスです。具体的なメニューとして、椅子からの立ち座り練習、ヒップヒンジ(お尻を引いて立ち上がる動作)、軽いスクワット、横向きでの足上げ、内もものトレーニング、太もも前後のエクササイズ、股関節まわりのストレッチを、症状と可動域に合わせて処方します。ロコモーショントレーニング(片脚立ちやスクワット)も、転倒予防に配慮しながら適切な回数と負荷で実施します。
安全性を最優先し、つかまれる場所で行う、痛みが強い日は負荷を下げるまたは中止する、正しいフォームを守る、といったルールを徹底します。必要に応じて杖の併用を提案し、減量、睡眠、栄養など生活面の見直しも併せて支援します。脚長差がある場合は足底板を用いてバランスと歩行の安定を図ります。
手術が必要と判断されるケースでは、術前から筋力と柔軟性を整える術前リハビリを行い、術後は回復段階に応じたプログラムで可動域、筋力、歩行能力の順に再獲得を目指します。術前から術後まで一貫して計画を共有し、日常生活への復帰時期や目標もわかりやすくお伝えします。
変形性股関節症の手術治療
保存治療で十分な改善が得られない場合は、症状と進行度に応じて手術を検討します。主な選択肢は、関節温存手術(股関節周囲骨切り術)、人工股関節全置換術(THA)、股関節鏡手術の三つです。
関節温存手術は、寛骨臼形成不全など骨配列の異常を矯正して関節の負担を減らし、症状の緩和と病期進行の抑制を目指します。適応を満たす若年~中年で活動性の高い方に有効で、報告では長期成績も良好です。股関節鏡手術は、FAIや関節唇損傷が主体で関節面の損傷が軽い場合に検討され、痛みやスポーツ機能の改善が期待できますが、効果持続に関しては症例により差があり、寛骨臼形成不全を伴う場合は成績が低下しうるため慎重な適応判断が必要です。
人工股関節全置換術(THA)は、末期で日常生活に強い支障がある場合に有力な選択で、痛みの除去と機能改善に優れ、長期成績も確立しています。インプラントは一般に、若年で骨質が良好・活動性が高い方ではセメントレス型、高齢で骨がもろい方ではセメント固定型を検討します。近年はナビゲーションやロボット支援の導入により、設置精度向上や合併症リスク低減が期待されています。
当院では、手術が必要と判断される方に対しては、適切なタイミングで基幹病院や人工関節センターへご紹介し、術前評価から術後リハビリまで連携してサポートします。
予防・再発予防(今日からできること)
①体重管理:5~10%の減量でも股関節の負担は大きく軽くなります。
②週2~3回の運動:股関節まわりの筋力維持と可動域ストレッチを継続。痛みが強い日は負荷を下げる/中止。
③姿勢・動作の見直し:過度な深屈曲・ねじれを避け、正しい立ち座り動作を身につける。
④履物・杖の活用:滑りにくい靴・適切なインソール、必要に応じて杖を反対側の手で使用。
⑤合併症ケア:腰や膝の痛み、骨粗しょう症の評価も同時に行うと、全体としての負担軽減につながります。
参考文献)
・大江 隆史,岸田 俊二.第4回 ロコモの要因とは?(3)変形性股関節症・変形性膝関節症.整形外科看護.2025;30(1):90-93.
・岩佐 諦,山本 幸祐,三木 秀宣.変形性股関節症患者における筋萎縮および脂肪変性とQOLの関連.Hip Joint. 2025;51:51-55.
・岡上 裕介.『変形性股関節症診療ガイドライン2024改訂第3版』を読み解く.ペインクリニック.2025;46(2):191-197.

先生から一言
変形性股関節症は、股関節の痛みを引き起こす代表的な疾患の一つです。変形そのものを完全に防ぐことは難しい一方で、減量やリハビリテーションによる股関節周囲筋の強化は有効と考えられています。当院では、痛み止めに頼るだけでなく、積極的なリハビリを組み合わせることで、できる限り人工関節手術を回避することを目指しています。必要に応じて治療方針を見直し、患者さん一人ひとりに合った方法をご提案します。