DISEASE DETAILS 疾患一覧
膝の痛み
変形性膝関節症
変形性膝関節症とは
膝のクッションである関節軟骨が、おもに加齢による長年の負荷によってすり減ってしまい、関節の痛み、炎症、関節の変形がおこる病気です。ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の主な原因ともなっています。変形性膝関節症は男女比は1:3程度で女性に多い疾患です。特に閉経後の女性がリスクが高く、閉経後のホルモンバランス変動が影響していると考えられています。
高齢者にとっては非常に一般的な病気であり、65歳以上の人の約40%が膝の症状を経験するとされています。全年齢層を通じてみると、成人の約10-15%が何らかの程度の膝の変形を持っていると推定されています。
変形性膝関節症の原因
変形性膝関節症は、大部分が原因がはっきりしない一次性変形性関節症とされています。明確な原因がある場合は二次性変形性関節症として分類されます。発症危険因子はいくつか判明しており、女性は男性よりもリスクが高く、閉経に伴う女性ホルモンの減少がその理由とされています。加齢も大きな要因で、経年的な軟骨の摩耗や骨密度の低下、筋力の減少が挙げられます。また、遺伝的な要素も膝の問題に関与していることが示唆されています。
肥満は過剰な体重が膝に負担をかけ、痛みを引き起こす可能性を高めるため、体重管理は非常に重要です。膝関節周囲の筋力の低下も同様に、膝関節にかかる負担を増やし、発症リスクを高めることが知られています。さらに、重労働や激しいスポーツによって膝に負担がかかること、過去に膝にけがをした経験がある人も、将来的に痛みが発生する可能性があります。
変形性関節症が進行すると、軟骨の破壊や腱・靭帯・筋肉の弱化、軟骨の下の骨の硬化や骨棘の形成、半月板の薄化や断裂などの変化が関節内で起こります。これらの変形は元に戻すことはできないため、適切な予防策や早期治療を行うことが重要であり、適切な運動や体重管理、仕事やスポーツ時の膝への負担を減らすことが膝の問題を予防するための鍵となります。
変形性膝関節症の症状
最初の症状としては椅子からの立ち上がり、歩き始めの膝の痛みです。初期は安静にすると痛みはよくなりますが、進行すると階段昇降や正座ができなくなったり、膝がピンと伸びなくなります。関節に水がたまったり、膝がO脚やX脚変形をきたしてきます。徐々に歩行距離も短くなってきます。筋力低下も生じるため、歩行時に膝がガクッと崩れる「膝崩れ」も生じます。
良い時と悪い時を数カ月単位で繰り返す(波がある)のが特徴ですが、長期的には徐々に変形が進行します。
変形性膝関節症の検査
レントゲンが有用です。関節裂隙の狭小化は軟骨が摩耗し、関節間の隙間が狭くなるために起こります。この結果、膝の痛みが発生し、膝の周囲の靭帯や筋肉が緩むことで関節の安定性が低下します。次に、骨棘の形成があります。これは骨のとげが形成され、骨の破壊や圧迫により関節の周辺に骨が過剰に成長することにより生じます。骨棘は痛みや動きの制限を引き起こす原因となります。また、皮質骨の硬化も見られることがあり、これは関節軟骨の下にある骨が負荷によって硬く変形して起こります。
骨嚢胞は骨内に空洞ができる現象で、骨の荷重分散能力の低下や内部圧力の上昇によるものです。変形が進行すると、O脚やX脚といった外見上の異常が生じることがあります。加えて、関節リウマチや痛風など他の疾患を除外するために、採血検査や関節液検査を行うこともあります。
変形性膝関節症の保存治療
まずは手術以外の保存加療を行います。
薬物療法として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や湿布、軟膏などを使用して痛みや炎症を緩和します。膝の変形による痛みは神経障害性疼痛の側面もあることがわかってきており、プレガバリンなどの薬剤を使用することもあります。また、ヒアルロン酸の関節内注射は日本整形外科学会のガイドラインで推奨されており、関節の動きを改善する効果が期待できます。
生活習慣の改善も重要で、減量や栄養指導を行い、健康的な体重を維持することで関節への負担を軽減します。特に重要なのはリハビリテーションで、運動療法や物理療法を実施し、膝関節周囲の筋力を向上させることで関節の安定性を高めます。大腿四頭筋訓練、浅いスクワット、下肢伸展挙上訓練(SLR)を中心としたホームトレーニングも行いましょう。
装具療法も有効で、O脚などの変形に対して足底板(インソール)を利用して関節の安定性を向上させ、痛みを軽減することができます。
私はいつも、「軟骨は鍛えることができない組織なので、周囲の筋力を鍛えることで軟骨の摩耗を防ぎましょう」と説明しています。
グルコサミンやコンドロイチンなどのサプリは効果がある?
残念ながら、現在のところグルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントは有効ではないと言わざるを得ません。害はないかもしれませんが、痛みを和らげたり、軟骨を保護して変形の進行を予防する効果もありません。高いサプリメントを購入することは当院においても推奨していません。ただしヒアルロン酸の関節内注射は、疼痛を緩和する効果があり、ガイドラインでも推奨されています。
減量すると変形性関節症の痛みが減る!
肥満に対する減量は、あきらかに膝の疼痛を改善します。体重が1㎏増えると、膝にかかる力は3Kg減ります。ランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスにより、膝の変形性関節症(OA)におけるWOMAC(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)を用いた疼痛の緩和や機能の改善をもたらすと報告されています。体重を5%以上減少させることで、膝OAの臨床症状は改善するとされます。もともと肥満がある状態なら、体重の減少量を5~10%、10~20%、及び20%を超える減量で分けると、改善度は体重が減少するほどに大きくなるということです。さらに、減量に運動訓練を組み合わせると、疼痛の緩和や機能の改善の有効性が高まると報告されています。
変形性膝関節症に良い運動は?
これに対して、ウォーキング、サイクリング、弾性バンドを用いた等尺性訓練、水泳、エアロビックエクササイズなど、多岐にわたる運動訓練の有効性に関する研究も報告されています。エアロビックエクササイズは、早期(6~12週間)の疼痛緩和や機能改善をもたらすと報告されてもいます。
私は、自転車やエアロバイク、水泳、エアロビクスなど、膝の関節にやさしく、筋肉を鍛えられるような運動が良いとお伝えしています。ただし、痛みがなく、楽しんで続けられる運動であれば、ヨガ、太極拳、軽いジョギングでも、なんでもかまいません。WHOも楽しんで続けられる運動が良いと提言しています。
変形性膝関節症の手術加療
これらの保存治療で効果が十分でない場合は、手術が検討されます。
骨切り術や人工関節(TKA)などの手術が選択肢となり、それぞれの状況や患者さんの希望に応じて適切な手術方法が選ばれます。治療方法は症状や生活習慣によって異なりますので、相談のうえで最適な治療法を見つけてゆきましょう。各々のライフスタイルや通院頻度の希望に合わせた最適な治療プランをご提案します🍀
参考文献)
・変形性膝関節症診療ガイドライン2023
先生から一言
膝関節の変形による痛みは、すぐに改善するのは難しいとされています。ヒアルロン酸の関節内注射や薬物療法も効果的ですが、何より大切なのは、太ももの前面にある大腿四頭筋をはじめとする下肢の筋力トレーニングです。
膝周りの筋肉を強化することで、膝関節への負担を軽減し、痛みの長期的な改善や変形の進行を防ぐことができます。当院では、「生涯自分の足で歩く」ことを目指して、リハビリを中心としたチーム医療による集学的治療を行います。