DISEASE DETAILS 疾患一覧
けが(外傷)
運動器不安定症
運動器不安定症とは
運動器不安定症は「高齢化により、バランス能力および移動歩行能力の低下を生じ、閉じこもりや転倒リスクが高まった状態」と定義されています。2006年4月に、日本整形外科学会、日本運動器リハビリテーション学会(現日本運動器科学会)、日本臨床整形外科学会により提案されました。
日本整形外科学会のホームページでは、「運動器不安定症」について、「歩行時にふらついて転倒しやすい、関節に痛みがあって思わずよろける、骨に脆弱性があり軽微な外傷で骨折してしまう」などの病態を一つの疾患として捉え、それに対する運動療法などの治療を行うことで重篤な運動器障害に発展することを防ぐことを目的として提唱された疾患単位と説明されています。
運動器不安定症の原因
運動機能低下を引き起こす疾患として、以下の疾患が挙げられます。
・脊椎圧迫骨折および各種脊柱変形(亀背、高度脊柱後湾、側弯など)
・四肢の骨折(大腿骨頚部骨折など)
・骨粗鬆症
・四肢の変形性関節症(股関節、膝関節など)
・腰部脊柱管狭窄症
・脊髄障害(頚部脊髄症、脊髄損傷など)
・神経・筋疾患
・関節リウマチおよび各種関節炎
・四肢切断
・長期臥床後の運動器廃用
・高頻度転倒者
運動器不安定症は、より広義の概念であるロコモティブシンドローム(運動器症候群)との区別が重要になります。ロコモティブシンドロームとは、運動器の障害により要介護状態や要介護リスクの高い状態を指し、フレイル(老人虚弱)との関連性もあります。超高齢社会に突入するまでは、多くの人々が運動器をこれほど長期間使用し続ける時代はありませんでした。寿命の延伸に伴い、新しく生じた疾患概念であるととらえることができます。
運動器不安定症の診断基準
レントゲンや骨密度検査と合わせて 医師による問診、身体診察を行います。一般的に以下の条件を満たすことが「運動器不安定症」の診断基準とされています。
①運動機能低下をきたす疾患(またはその既往)が存在すること
②日常生活自立度判定がランクJ(生活自立)またはA(準寝たきり:要支援+要介護1, 2)であること
③運動機能評価テストの項目で、片脚立位保持時間が15秒未満、もしくは3m Timed Up and Goテストが11秒以上を満たすこと
運動器不安定症のチェック(ロコチェック)
本疾患は予防も大切ですが、すでに衰えが来ている方ができるだけもとの運動機能を取り戻せるように医師や理学療法士の継続的な指導を受けることが何よりも重要です。家庭でもできる運動プログラムなど、整形外科クリニックが果たす役割は重要です。
これまでの高齢者に関する研究や臨床経験をもとに、「ロコチェック」という質問紙によるスクリーニングが提案されています。このロコチェックでは、「階段を上る際に手すりが必要、15分くらい続けて歩けない、片脚立ちで靴下がはけない、横断歩道を青信号で渡りきれない、家の中でつまずいたり滑ったりする」などの評価項目が含まれます。これらのエピソードが見られた場合には、運動機能評価テストとして「開眼片脚起立時間」と「3m Timed Up and Goテスト」を実施します。
ロコチェックの該当例に対するロコトレーニング
上記にあげたような疾患(骨折や変形性関節症など)がある場合には、その疾患に対する治療を適応します。すぐに特定の疾患に結びつかない場合や、複数の疾患がありいずれも関与していると考えられる場合には、「ロコトレ」と呼ばれる運動療法が有効であると考えられています。これらの運動療法では、複数の体操を組み合わせて実施する方法が推奨されています。
運動器不安定症は、疾患が単独で存在するのではなく、例えば変形性膝関節症や骨粗鬆症を含む脊椎病変など、複数の疾患が合併していることが多い点が問題となります。体幹や四肢を一体として評価する病態像を考え、様々なリハビリメニューを継続していくことが大切です。運動を生涯続行けるという意思が大切です。
出典:日本整形外科学会公認ロコモティブシンドローム予防啓発 サイト
参考文献:
・赤居正美ら. 運動器不安定症. MB Medical Rehabilitation (176): 38-43, 2014.