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股関節の痛み
大転子滑液包炎
大転子滑液包炎とは
大転子(股関節の外側の出っ張った骨)の周りには、腱や筋と骨がこすれるのを減らす「滑液包」というクッションがあります。ここに炎症が起こり、股関節の外側〜太ももの横に痛みが出る状態を大転子滑液包炎といいます。多くは保存的治療(安静・薬・注射など)で良くなりますが、まれに痛みが長引き、歩行が困難になるほど強くなるケースでは手術が必要になることもあります。
こんな症状があれば受診してください
- 股関節の横(太ももの付け根の外側)を押すとピンポイントで強く痛い
 - 階段の上り下りや立ち上がりで股関節の横が痛む
 - 股関節の横の痛みで足を引きずる(跛行が出ている)
 - 横向きで寝ると、股関節の横が痛い
 - 夜中や安静にしていても股関節の外側が痛い
 - 股関節を曲げて内側にひねる動きで「コリッ」「ポキッ」と引っかかる感じが出る
 - 痛みがおしり・太ももの外側・膝の外側まで広がっている
 - 市販の湿布や痛み止めを飲んでも良くならない
 - 注射やリハビリを受けたことがあるが、再発した
 
大転子滑液包炎の原因
股関節の外側に繰り返し負担がかかることが大きく影響します。長時間の立ち仕事やしゃがみ作業、階段の昇り降り、スポーツ動作のくり返しなどで腸脛靭帯(太ももの外側を走る強いバンド状の組織)と大転子の骨がこすれ、その部にある滑液包が炎症を起こします。股関節のつくりや動きのクセ(臼蓋形成不全、脚の長さの左右差、体重増加、股関節炎、snapping hip=外側で腸脛靭帯が引っかかってポキッと鳴る状態など)もリスクになります。整備・介護・運転など中腰姿勢が多い仕事の方、階段を多用する方、スポーツで走る・蹴る動きが多い方にみられやすいとされています。
大転子滑液包炎の症状
股関節の横(大転子のあたり)を押すと強い圧痛があることが特徴で、歩くときや階段の上り下りでズキッと痛みが出たり、その痛みのために足を引きずる(跛行)が目立つことがあります。しゃがみ込む動きや、股関節を曲げて内側にひねる動きで痛みが再現されることがあり、その際に「コリッ」「ポキッ」といった引っかかり感(クリック感・スナッピング)を感じる方もいます。夜間や安静時にも痛みが続くことがあり、「横向きで寝ると当たって痛い」「痛みで目が覚める」と訴えることも少なくありません。
痛みは股関節の外側だけでなく、おしり、太ももの外側、さらには膝の外側まで広がることもあります。こういった「股関節の横の一点を押すとすごく痛い」という所見は大転子滑液包炎で典型的にみられ、股関節の痛みを訴える患者さんのなかには、関節そのものの変形や関節内の炎症ではなく、この滑液包の炎症が原因になっている場合もあります。
大転子滑液包炎の検査
股関節の外側(大転子部)を押して強い痛みがあるか、特定の動きで痛みや引っかかり(クリック感・スナッピング)が再現されるかを診察で確認し、股関節や腰から来る別の病気(感染や腫瘍など)でないことをまず除外します。
画像検査としては、まずレントゲン(X線)で股関節の形や骨の出っ張り、石灰化、関節のすり減り(関節裂隙の狭小化や骨棘、骨嚢胞など)を評価します。大転子滑液包炎そのものはレントゲンに直接は写らないこともありますが、臼蓋形成不全やFAIなど、股関節の形の問題によって外側に負担がかかりやすくなっていないかを確認する意義があります。
より詳しく調べる必要がある場合はMRIを行い、滑液包やその周囲に腫れや炎症がどこまで及んでいるかを確認します。MRIでは炎症部位が高信号(白くはっきり)に写るため、診断の決め手になります。つまり、診断は「どこを押すと痛いか」と「どの動きで再現できるか」という局所所見に加えて、股関節全体のアライメント異常や形態異常が背景にないかを画像でチェックする、という流れになります。
大転子滑液包炎の治療
まず保存療法から行います。痛みを悪化させる動作や姿勢を一時的に控え、消炎鎮痛薬や湿布などで炎症と痛みを抑えます。リハビリでは股関節外側〜おしり周りの筋バランスを整えたり、腸脛靭帯の緊張をやわらげるストレッチや筋力トレーニングを指導します。痛みが強い場合には、痛い部分に局所麻酔薬やステロイドを注射し、局所の炎症と疼痛を短期間でしっかり落とすこともあります。
これらの保存治療で多くの方は改善しますが、それでも長期間よくならない難治例では手術を検討します。手術では、炎症で分厚くなった滑液包を切除したり、腸脛靭帯を部分的に切り離して(Z延長など)こすれを減らす方法が行われます。さらに重症例では股関節外側の骨の出っ張り自体を調整する骨切り術(trochanteric reduction osteotomy)を追加することもあり、これにより「引っかかって擦れる」メカニズムそのものを解消することを目指します。当院では、保存的治療で十分な改善が得られない場合には、手術加療を目的として基幹病院へご紹介いたします。
参考文献)
・大泉 樹,山田 則一,大山 正瑞,坂本 敬,北 純.観血的治療が必要であった大転子滑液包炎の1例.Hip Joint.2017;43(2):979-982.
・中村 好成,内藤 正俊.変形性股関節症.関節外科.2012;31(suppl-2):212-219.