DISEASE DETAILS 疾患一覧
けが(外傷)
中手骨骨折
中手骨骨折(metacarpal fracture)とは
中手骨骨折は、手のひらの中にある「中手骨(ちゅうしゅこつ)」が折れるけがで、手の骨折の中でも比較的よくみられます。中手骨は「握る」「つまむ」といった手の働きに直結するため、骨がくっつくこと(骨癒合)だけでなく、指の向きや動きが元どおりに近づくことが重要です。骨折する場所は、指に近い部分(骨頭・頚部)、真ん中(骨幹部)、手首に近い部分(基部)などがあり、場所や骨折の形によって骨のずれ方や治療の考え方が変わります。特に小指側の中手骨で起こりやすい傾向があります。

中手骨骨折の症状
受傷直後から手の甲や手のひらに痛みが出て、腫れや内出血(青あざ)を伴うことが多くなります。物を握る、ペットボトルのふたを開ける、文字を書くなどの動作がつらくなったり、力が入りにくく感じたりします。骨のずれが大きい場合には、手の甲側の出っ張りやへこみなど、見た目の変形が目立つこともあります。
特に注意したいのは、指の向きがねじれてしまう「回旋変形(rotational deformity)」です。見た目の変形が強くなくても、指を曲げたときに指先が重なったり交差したりする感じ(交叉指変形:cross finger deformity)がある場合は、治ったあとも握り動作に支障が残ることがあるため、早めの評価が大切です。
中手骨骨折の原因
原因として多いのは、転倒して手をつく、スポーツ中に手を強くぶつける、拳を硬いものに当ててしまうといった外力です。いわゆる「壁を殴って小指側の手の甲を痛める」タイプでは、第4・第5中手骨(薬指・小指側)に骨折が起こりやすい傾向があります。強い外力が加わった場合には、骨折だけでなく関節のずれなどを伴うこともあるため、受傷状況に応じて慎重に評価します。

中手骨骨折の検査
まず診察で、痛む場所、腫れの範囲、皮膚の傷の有無、しびれなどを確認します。そのうえで、指の向きが自然かどうかを丁寧に評価し、可能な範囲で指を曲げたときに指先がまっすぐ並ぶかをみて、回旋変形がないかを確認します。
画像検査はレントゲンが基本で、骨折の部位、ずれの程度、関節にかかっているかどうかを判断します。骨が細かく割れている場合や関節面の状態をより正確に知りたい場合、手首に近い部分の骨折で関節のずれが疑われる場合には、必要に応じてCTで詳しく調べます。
中手骨骨折の治療
治療方針は、骨折の部位と形、骨のずれの大きさ、関節内骨折かどうか、回旋変形の有無、そして日常生活や仕事・スポーツで求められる手の機能を踏まえて決めます。ずれが小さく安定していて回旋変形がない場合は、シーネやギプスなどで固定して骨がくっつくのを待つ保存療法が選ばれます。固定中も関節が固まりすぎないように、状態に合わせて動かせる範囲の運動を早めに取り入れることがあります。
一方で、関節面に段差が残る関節内骨折、回旋変形がある場合、ずれが大きく固定だけでは良い位置を保ちにくい場合、複数本の骨折などでは、手術が検討されます。手術ではワイヤーやねじ、プレートなどを用いて骨を整復し、安定した固定を得たうえで、可能な範囲で早期からリハビリを進めます。
いずれの治療でも、最終的な目標は骨癒合だけでなく、指の向きが整い、握る・つまむ機能が戻ることです。そのため治療の途中でも、指を曲げたときに指先が交差していないかを確認しながら進めることが、後遺症を防ぐうえで重要になります。
手術に関してより詳しく
中手骨骨折の手術療法は、保存療法では整復位の保持が難しい不安定骨折、回旋転位や短縮を伴う骨折、関節内骨折、開放骨折などで検討します。治療の基本方針は、骨片を適切に整復し、十分な固定性を確保して早期可動域訓練を可能にする一方で、軟部組織の損傷や血流障害を最小限に抑えることにあります。つまり「生物学的環境の温存」と「固定性」のバランスが、術式選択の中核になります。
固定法として広く用いられるのはK-wire(鋼線)です。経皮的に刺入できるため侵襲は比較的小さい一方、刺入経路によっては伸展機構(伸筋腱や矢状索など)を巻き込み、MP関節周囲の伸展拘縮や腱トラブルにつながる可能性があります。そのため、近年は骨頭側からの刺入は慎重に扱われ、基部側から髄内へ順行性に挿入する髄内鋼線固定(いわゆるFoucher法、bouquet wiring)が選択されることがあります。特に第5中手骨の頚部〜骨幹部の一部では適応になりやすい一方、斜骨折・らせん骨折や粉砕例など、回旋や短縮が強く不安定なパターンでは固定力が不足しやすく、別の固定法が望ましい場面があります。
より高い安定性を求める場合にはプレート固定(圧迫プレート、ロッキングプレートなど)が選択肢になります。圧迫プレートは骨折部を圧迫して絶対的安定性を得る考え方で、ロッキングプレートは固定角(fixed angle)により安定性を確保しつつ、プレートと骨の摩擦への依存を減らして血流温存に寄与し得る点が利点です。一方で、背側プレートは安定性が高い反面、伸筋腱癒着、腱断裂、インプラント突出、創トラブル、関節拘縮などのリスクがあり、適応は慎重に判断します。これらの合併症を減らす工夫として、外側にプレートを配置して伸筋腱への干渉を減らし、骨間筋で被覆するなどの手技が用いられることもあります。
長斜骨折やらせん骨折では、骨片間スクリュー(ラグスクリューなど)が有用です。骨折線に対して適切な方向にスクリューを配置することで回旋・短縮を抑えやすく、プレートほどの軟部組織侵襲を避けられる場合があります。ただし、ラグとして圧迫をかける手技はドリリング手順が増え、医原性骨折などのリスクも踏まえて適応と手技を選びます。固定様式によっては、術後に一定期間の外固定を併用して安定性を補強します。
髄内スクリュー固定は、髄内で支持する低侵襲な固定法として、横骨折や短斜骨折などで選択されることがあります。骨頭側から進入する方法では関節軟骨の欠損が論点になりますが、欠損は限局的で中期的には明確な関節症変化が目立たなかったとする報告もあり、手術時間や復帰の早さの面で利点が示唆される一方、長期成績の評価は今後の課題とされています。
開放骨折や軟部組織損傷が強い場合には、感染リスクの観点から創外固定(ミニエクスターナルフィクサー)が選択されることがあります。装置が嵩張る、衣服に引っかかるといったデメリットはあるものの、創部管理と骨の安定化を両立しやすい点が利点です。
総じて、中手骨骨折の手術は「回旋変形を残さないこと」と「必要十分な固定で早期運動を可能にすること」を軸に、骨折型と軟部組織条件、患者さんの機能要求に合わせて、K-wire、スクリュー、プレート、髄内固定、創外固定を組み合わせて最適化していきます。
参考文献)
・幸田久男.中手骨骨折.整形外科サージカルテクニック 2024; 14(2): 171-178.
・Carreño A, Ansari MT, Malhotra R. Management of metacarpal fractures. J Clin Orthop Trauma. 2020;11:554-561.