DISEASE DETAILS 疾患一覧
けが(外傷)
上腕二頭筋長頭腱断裂
上腕二頭筋長頭腱(いわゆる「力こぶ」の腱)が、肩の付け根付近で断裂する疾患です。多くは中高年にみられ、腱の変性(加齢に伴う脆弱化)を背景に生じるため、一般的には保存療法(手術を行わない治療)が選択されます。発症のきっかけは、力仕事やスポーツ動作などで急に負荷がかかった場面で起こることもあれば、加齢による腱の変性が進行した結果、比較的軽い動作でも断裂することがあります。

この疾患の特徴的な所見として知られるのが「ポパイサイン(ポパイ変形)」です。漫画・アニメの『ポパイ』で、ホウレン草を食べたあとに腕の筋肉が盛り上がるイメージです。上腕二頭筋長頭腱が断裂すると筋腹が肘側へ下がるため、本来よりも低い位置で力こぶが不自然に強調されて見えることがあります。断裂の瞬間に「ブチッ」とした感覚や音を自覚する場合もあります。

上腕二頭筋長頭腱断裂の症状
上腕二頭筋長頭腱断裂では、いわゆる「力こぶ」の筋肉である上腕二頭筋が二股に分かれているため、長頭腱が断裂しても、肘を曲げる機能そのものが直ちに大きく失われるとは限りません。ただし、この病態で本当に注意すべき点は、肩関節周囲、特に肩のインナーマッスルである腱板への影響です。
長頭腱断裂を示唆する所見としてポパイサインがみられる場合、腱板断裂を合併している可能性が高いとされます。腱板とは、肩甲骨と上腕骨をつなぐ4つの腱(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)の総称で、肩を安定させながら滑らかに動かすために不可欠な構造です。ポパイサインは、腱が切れることで筋腹が肘側へ下がり、本来より低い位置で力こぶが盛り上がって見える状態を指します。
症状としては、受傷時に肩から上腕にかけて鋭い痛みが出現し、その後も動作に伴う痛みが残ることがあります。また、肘関節の屈曲力や前腕の回外力(手首を外側に返す力)が低下し、徒手筋力テストではMMT4程度まで落ちる場合もあります。さらに、断裂した腱・筋腹の位置変化により、上腕前面に弾性のある皮下膨隆として触れる違和感を自覚・他覚することがあります。
上腕二頭筋長頭腱断裂の原因
上腕二頭筋長頭腱(long head of the biceps:LHB)の皮下断裂は、腱そのものの変性や脆弱化を背景に生じることが多く、主に中高年にみられます。加齢や繰り返しの使用によって腱が細くなったり傷んだりしていると、断裂に至るために必要な外力の閾値が下がり、比較的軽いきっかけでも損傷が起こりやすくなります。
そのうえで、重量物を持ち上げるなど腱に急激で強い負荷が加わると、直接の引き金となって断裂が生じます。さらに、脂質異常症や高尿酸血症といった代謝異常を含む基礎疾患がある場合、腱の質の低下や修復能の低下に関与しうることが示唆されており、背景因子として断裂リスクに影響します。
上腕二頭筋長頭腱断裂の検査
上腕二頭筋長頭腱断裂の検査では、まず診察室での視診・触診を行い、上腕の遠位部に筋腹が移動して生じる膨隆、いわゆるポパイサインを確認します。あわせて圧痛の部位や筋力低下の程度、肘関節の屈曲・前腕回外で症状が増悪するかなどを評価します。
画像検査としては、単純X線検査で骨折や剥離骨折などの骨性病変がないことを確認します。X線では腱そのものは直接描出できませんが、骨に異常がなくても軟部組織の輪郭変化(膨隆)が示唆されることがあります。超音波検査は、ベッドサイドで断裂した腱の連続性消失や断端の位置を直接確認でき、動的評価も可能なため特に有用です。さらに詳細な評価が必要な場合にはMRIを行い、T2強調像などで断裂してたわんだ腱の状態や断裂部位、周囲組織の損傷(腱板病変などの合併)を含めて立体的に把握します。

上腕二頭筋長頭腱断裂の治療
上腕二頭筋長頭腱(long head of the biceps:LHB)の皮下断裂は、腱の変性や脆弱化を背景に生じることが多く、主に中高年にみられます。断裂後も日常生活動作に致命的な機能障害が残りにくいことから、一般的には保存療法(手術を行わない治療)が第一選択です。
一方で、腱が断裂した状態では筋力低下を生じうることが報告されており、肘関節の屈曲力が8〜20%低下し、前腕回外力(手のひらを上に向ける動き)が約12%低下するとされています。また肩関節機能についても、外転位での保持能力や外旋筋力の低下がみられることがあります。こうした背景から、高い身体機能の維持が求められる若年者、重労働者、アスリートでは、症状や活動性に応じて手術療法(腱固定術:tenodesis など)が積極的に検討されることがあります。
さらに、LHB断裂は腱板断裂を合併することがあり、腱板は損傷後に自然治癒して元通りにつながることは基本的に期待しにくい点に注意が必要です。そのため、疼痛や機能障害の主因が腱板病変にあると判断される場合にも、機能回復の観点から手術が必要となるケースがあります。
DePalma法(腱固定術)を中心とした手術では、まず断裂して結節間溝から引き出されたLHB腱断端を確認し、その断裂腱を隣接する烏口腕筋・上腕二頭筋短頭の合頭腱(conjoined tendon)に縫合して固定します。なお、術式の選択は、年齢や活動性、疼痛の程度、腱板病変の有無、整容面(いわゆるポパイ変形など)に対する希望といった要素を総合的に踏まえて決定します。
参考文献)
・市川耕一, 伊藤陽一: 上腕二頭筋長頭腱断裂が広範囲腱板断裂肩に及ぼす影響. 関節外科 31(7): 788-793, 2012.
・木島泰明, 皆川洋至, 西登美雄, 島田洋一: 肩関節疾患に対する超音波診断. MB Orthopaedics 25(8): 67-76, 2012.
・佐田 潔, 梶山 史郎, 松尾 洋昭, ほか: 腱板断裂や上腕二頭筋長頭腱断裂の重症度が肩峰骨頭間距離に及ぼす影響. 日本整形外科学会雑誌 94(3): S787, 2020.