DISEASE DETAILS 疾患一覧
けが(外傷)
恥骨骨折・坐骨骨折
骨盤は仙骨・尾骨・寛骨(腸骨・坐骨・恥骨)が組み合わさった頑丈な「リング状」の構造で、背骨の土台として体を支えています。このリングの一部である恥骨や坐骨の骨折は、骨粗しょう症による脆弱性骨折(尻もちなどで発生)と、交通事故などの高エネルギー外傷による骨折に大別されます。
骨盤はリング構造のため、前方の恥骨が骨折している場合、対角線上の後方(背中側)も同時に損傷していることが少なくありません。後方損傷を見逃すと痛みが長引き、特に高齢者では寝たきりのリスクが高まります。
リング構造が保たれている「安定型」は安静で治癒が期待できますが、前後の損傷でリングがぐらつく「不安定型」では厳重な管理が必要です。骨盤内には太い血管・神経や膀胱・腸などの重要臓器があるため、状況によっては緊急治療を要します。
同じ骨折でも重症度により治療方針は大きく異なるため、隠れた損傷を見逃さないよう、速やかに整形外科専門医の診察を受けることが重要です。

恥骨骨折・坐骨骨折の症状
恥骨や坐骨を含む骨盤骨折では、ほぼ例外なく疼痛が生じます。恥骨骨折では鼠径部痛を主訴とすることが多く、股関節部痛との鑑別が必要です。坐骨骨折では、股関節の他動運動は可能なことが多いものの、股関節屈曲時に坐骨部の圧痛を認めます。疼痛は股関節を動かしたり歩行を試みたりすると増悪するため、患者は痛みを和らげるために股関節や膝を曲げた特定の姿勢を保とうとします。
診察では、触診による圧痛部位の確認が極めて重要です。具体的には、恥骨、坐骨、大転子、腸骨稜の圧痛を確認し、大腿骨頚部骨折との鑑別としてスカルパ三角の圧痛も評価します。受傷早期には、会陰部や殿部周囲に皮下出血や軽度の腫脹による左右差を認めることがあります。
高エネルギー外傷の場合は、頭部、胸部、腹部、下肢など他の部位にも損傷を伴うことがあり、出血量が多い場合にはショック状態に陥る危険性もあります。
恥骨骨折・坐骨骨折の原因
骨折の原因は、加わる力の大きさによって大きく異なります。
①自動車事故や高所からの転落といった強い衝撃による「高エネルギー外傷」は、生命を脅かすような重篤な不安定型骨折を引き起こします。
②一方、骨粗鬆症により骨が脆くなった高齢者では、転倒などの軽微な外傷や日常生活動作といった「低エネルギー外傷」でも骨折が生じます。明らかな外傷歴がなく、バランスを崩した程度の些細なエピソードで発症することもあり、外傷がないという理由だけで骨折を否定することはできません。これらは通常、恥骨などの個別の骨に限局した安定型骨折となることが多いです。
③また、成長期の若いスポーツ選手では、ハムストリングス(太ももの裏の筋肉)の強い収縮により、その付着部である坐骨の一部が引っ張られて剥がれる「剥離骨折」が生じることもあります。

恥骨骨折・坐骨骨折の検査
基本はレントゲン(単純X線)です。正面像に加えて、骨盤を斜めからみる Inlet(インレット)像・Outlet(アウトレット)像 も撮ることで、前側の恥骨枝の骨折は比較的見つけやすくなります。ただし、骨盤の後ろ側(仙骨など)の損傷はレントゲンだけでは見逃されることがあるため、脆弱性骨盤輪骨折(FFP)が疑われる場合はCT検査が重要です。
CTでは骨の画像(骨条件)だけでなく、必要に応じて軟部組織(筋肉や皮下)の画像もあわせて確認し、恥骨の周囲に腫れがないかなども参考にします。もしレントゲンやCTで骨折線がはっきりしない場合でも、MRIを行うと骨挫傷(骨の打撲)まで含めて評価でき、より確実な診断につながります。
また診察では、骨盤や股関節、脚の状態を丁寧に確認し、足首や足指の動き、足の裏の感覚をチェックして神経の障害がないかも評価します。こうした情報を総合して、骨折の形やずれの程度を把握し、治療方針(保存治療か手術か)を検討します。

恥骨骨折・坐骨骨折の保存療法(手術しない治療)
骨のずれが少なく安定している骨折では、松葉杖や歩行器を使用し、骨癒合まで(2週間~最大3ヶ月程度)荷重を制限します。痛み止めを併用しますが、抗凝固薬服用中の方は出血リスクに注意が必要です。骨粗しょう症性骨折の場合は、検査・治療を並行し、新たな骨折(ドミノ骨折)の予防が重要です。
ほとんどのケースは保存療法で治癒し、早期からの離床・歩行が可能です。ただし経時的に不安定化することがあるため、定期的な経過観察が必須です。レントゲンで恥骨のずれがあれば、CT検査で腸骨や仙骨の損傷を再評価します。逆に恥骨のずれがなければ骨盤全体の安定性が高く、保存療法で治癒する可能性が高いとされます。
恥骨骨折・坐骨骨折の手術療法
骨盤リングが不安定、または骨のずれが大きい場合には手術を行います。体外からのピン・ネジ固定、あるいは切開によるプレート・ネジ固定を選択します。術後は疼痛管理下で早期リハビリを開始し、関節可動域と筋力の回復を図ります。完全回復には最大1年を要し、その間歩行に支障が出ることもあります。手術が必要なケースは速やかに提携基幹病院へご紹介します。
参考文献)
・堀江直行:脆弱性骨盤輪骨折の診断.MB Orthopaedics 36(13):7-17,2023.