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手首・手指の痛み
ヘバーデン結節(指の変形性関節症)
ヘバーデン結節(Heberden結節)とは
ヘバーデン結節(Heberden結節)は指のDIP関節(指先、末節部の関節)が変形し、疼痛を伴う疾患です。手指の変形性関節症では最も頻度が高く、40~50代で30%、60~70代で約70%の女性に発症すると言われます。示指、中指に多く、つまみ動作、職業、環境因子との関連も示唆されます。
ヘバーデン結節の原因
以下のような要因があると推定されています。
①加齢:年齢とともに関節の軟骨が摩耗し、骨同士が直接接触するようになります。これが炎症や骨棘(骨の隆起)の形成を引き起こし、へバーデン結節ができる原因となります。
②遺伝的要因:家族歴がある場合、へバーデン結節の発症リスクが高くなることが知られています。
③性別とホルモン:女性は男性に比べてへバーデン結節ができやすいため、性ホルモンの影響が関与している可能性が考えられます。とくに閉経をきっかけにして症状が一気に進行することが多いとされます。こちらのブログもご覧ください ⇨ 「関節の痛み、こわばり」は「更年期障害」の症状のひとつです!
④手の過度な使用や外傷:指の関節に繰り返しストレスがかかる職業や趣味、または関節に受けた外傷がへバーデン結節の発症に関与することがあります。
⑤慢性的な炎症(補体蛋白、炎症性老化、個体の免疫原性)
⑥代謝性因子(肥満、糖尿病、心血管疾患)
など、多様な要因が関与しています。これらの要因がどのように絡み合ってOAの発症につながるのかは、現在も完全には明らかになっていません。OAの発症機序を解明することは、予防や治療の面で非常に重要ですが、複雑な相互作用があるため、研究は難航しています。
ヘバーデン結節の症状
関節の腫れ、痛みがあり、つまみ動作や握りこみ動作が障害されます。爪の周囲に水泡状の腫瘤(粘液水腫)を合併することがあります。多くは疼痛が改善し変形のみが残りますが、関節の動揺性が残存すると難治性の疼痛が持続することがあります。
ヘバーデン結節の検査
DIP関節(遠位指節関節)の変形、圧痛、発赤を認めます。変形によりできた骨のとげが硬い結節性の腫れとして触ることができるようになります。粘液嚢腫というできものが合併していることもあり、感染していないか確認する必要があります。
© Fife Hand Service 2023
レントゲンではDIP関節の骨棘、関節裂隙の狭小化を認めます。手指OAの初期段階では、主に関節軟骨の破壊が見られます。進行すると、軟骨の下の骨に損傷が生じ、骨新生により関節端には骨棘が形成されます。。具体的には、DIP(遠位指節間)関節とPIP(近位指節間)関節に生じる結節が、それぞれヘバーデン結節およびブシャール結節と呼ばれています。
典型的な所見として、DIP関節に「カモメの翼のような形状(gull-wing appearance)」が認められます。これは、関節を構成する指節骨表面の軟骨の厚さが、近位骨の中央部と遠位骨の辺縁部で他の部位に比べて薄くなっていることに起因しています。軟骨のびらん形成が進行すると、遠位骨の辺縁部は「カモメが翼を拡げたような形状」を呈するようになります。この特徴的な形状は、変形性関節症の診断において重要な指標となります。また関節の感染、痛風、偽痛風、乾癬性関節炎との鑑別のため血液検査が必要となることがあります。
へバーデン結節と見分けるべき疾患
重要なことは、関節リウマチ(RA)や乾癬性関節炎(PsA)などの、ほかの関節炎を見逃さないことです。リウマチ性多発筋痛症、RS3PE症候群など、ステロイドが効果的な病態も考慮する必要があります。特に、関節リウマチは診断が遅れると指の変形が残りやすくなります。
炎症性関節炎における早期の症状を「early arthritis」と呼び、早期の段階でRA、PsA、結晶性関節炎、ウイルス性関節炎などとの鑑別診断を行い、変形が生じる前に治療を開始することが必要です。European League Against Rheumatism(EULAR)は、これらの関節炎に対して、発症から3ヶ月以内に治療を開始することを推奨しています。また、RAを含めた鑑別診断のために、血液検査にてCRP、血沈、血算、トランスアミナーゼ、腎機能、リウマチ因子、抗CCP抗体、抗核抗体などを調べる必要があります。
ヘバーデン結節の治療
急性期で痛みが強い場合は、鎮痛薬(NSAIDs)の内服や、テーピング、また装具療法(ヘバーデンリング)を行います。ジクロフェナクゲルが痛みと機能の改善に有効であるとする報告もあります。
関節内ステロイド注射について、トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト)をPIP関節に6mg、DIP関節に4mg注射すると、運動時の痛みの改善に有効です。グルコサミンやコンドロイチンなど、テレビのCMでおなじみのサプリメントは医学的に有効とは現段階では言えません。
痛みがなくなった場合、変形が残っていても必ずしも治療が必要ではありません。変形が進行しないようにする治療法は、現代医学ではまだ確立されていません。
私はセレコキシブという薬で抗炎症+除痛を図り、漢方薬として薏苡仁(ヨクイニン)、桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)を使用して治療を行います。早めに痛みや炎症を抑えることが軟骨のすり減りを防ぎ、将来的な変形の予防になると考えます。
エクオールの有効性と安全性
エクオールという大豆イソフラボンの発酵代謝物質が含まれたサプリメントがへバーデン結節に効果的である可能性が示されています。医薬品ではなく、サプリメントですので自己負担として税込み4320円が。肌を美しくしたり、髪を艶やかにするなどの嬉しい副効果もあります。頭痛の改善、更年期症状(ホットフラッシュ、ほてり)の軽減、骨密度低下の抑制、メタボリック症候群の軽減、しわ面積の減少などの効果も確認されています。
またエクオールは女性ホルモンをそのまま補充する治療とは異なり、乳がんのリスクの低下を認めるとする研究もあります。乳がんの治療歴がある方でも安心して摂取可能な食品であり、有効性と安全性を併せ持つ非薬物療法(補完代替療法)です。
ヘバーデン結節の手術治療
難治性もしくは感染性の粘液水腫が存在する場合、骨棘切除、滑膜切除術を行います。関節の疼痛が強く日常生活に支障をきたす場合は関節固定術が検討されます。
参考文献)
・日本乳がん学会.乳癌診療ガイドライン 疫学診断編2022年版.
・AsoT, et al. J womens Health 2012;21:92-100.
・Tousen Y et al. Menopause 2011;18:563-574.
・Usui T et al. Clin Endocrinology 2013;78:365-372.
先生から一言
ヘバーデン結節は、痛みだけではなく、見た目に指が曲がってくるのが嫌な疾患です、手は、思っているより他の人に見られることが多く、特に女性にとっては嫌なものでしょう。完全に変形を予防する方法は、現在の医学ではありません。しかしいくつかの薬物や日常生活指導によって変形を予防できる可能性はあり、患者さんに丁寧に伝えることを意識しています。今後の変形が心配な方は、当院に起こしください。