DISEASE DETAILS 疾患一覧
手首・手指の痛み
ヘバーデン結節(指の変形性関節症)
ヘバーデン結節(Heberden結節)とは
ヘバーデン結節(Heberden結節)は、指先のDIP関節(第1関節/末節部の関節)に“こぶ”のようなふくらみや変形が生じ、痛みや腫れを伴う手・指の変形性関節症の一つです。手指の変形性関節症のなかでも最も多い疾患で、女性に多く、40~50代で約3割、60~70代では約7割の方に発症するとされます。示指・中指の指先に出やすく、家事やパソコン作業・細かい手仕事などのつまみ動作、職業・生活環境などの反復動作との関連が示唆されています。
へバーデン結節は「メノポーザルハンド(メノポハンド)」の一つで、これまで「年齢のせい」「使い過ぎ」と言われがちだった手の不調が、更年期の女性ホルモン低下と関係していることが分かってきたため、更年期症状の一つとして位置づけられるようになりました。

ヘバーデン結節の原因(考えられていること)
代謝・全身性の因子
肥満、糖尿病、心血管疾患などの代謝性因子、あるいは加齢に伴う慢性炎症が関節内の炎症を引き起こし、発症・進行に関与します。
加齢変化(変形性関節症としての変化)
年齢とともにDIP関節の軟骨がすり減り、関節の縁に骨棘(骨のとげ状の増殖)ができやすくなります。
遺伝的要因
家族にヘバーデン結節や手指の変形性関節症があると発症しやすくなります。
性別・ホルモンの影響
女性に多く、特に閉経前後に症状が一気に目立つことがあります。女性ホルモン(エストロゲン)の急激な低下が関節や滑膜の炎症を起こし、変形性変化を進める一因になります。
手の酷使・外傷などの機械的ストレス
指先をよく使う仕事・家事・趣味、あるいは過去の外傷で関節に繰り返し負担がかかると、変形性変化が起こりやすくなります。ただし「よく使う人だけがなる」わけではなく、ホルモンや体質の影響を受けやすい人に負荷が加わると発症しやすい、というイメージです.
痛みが出る仕組み(少し難しい内容です)
ヘバーデン結節の痛みの背景には、基本となる「変形性関節症」としての軟骨の摩耗と骨棘形成がありますが、実際の痛みの強さはそれだけで説明できず、いくつかの要素が重なって増幅されます。まず、関節を包む滑膜が炎症を起こすと、ブラジキニンやプロスタグランジン、IL-1・TNF-αといった炎症性サイトカインが放出され、痛みの神経が刺激されやすくなります。さらに、変形によってできた骨棘や靱帯のゆるみにより関節が不安定になると、動かすたびに過剰な機械的刺激が入り、それが痛みとして感じられます。骨棘の内部に新しい血管や神経が入り込むと、そこがさらに痛みの発生源になることもあります。MRIで軟骨下骨に信号変化がみられるBone Marrow Lesion(BML)があるケースでは、微小骨折や骨代謝の亢進が背景にあり、この状態も痛みや病変の進行と関連すると考えられています。こうした身体側の要因に加え、痛み刺激が長期間続くと末梢神経や脊髄レベルで痛みの回路自体が敏感になる「末梢・中枢性感作」が起こり、本来なら気にならない程度の刺激でも痛むようになります。さらに、抑うつ傾向や「この痛みはもう治らない」といった破局的な受け止め方があると、痛みの感じ方が強くなり、日常生活への影響も大きくなっていきます。このように、構造的な変形と炎症、神経の過敏化、心理的要因が重なって「ヘバーデン結節は見た目の変形のわりに痛い」状態が生じます。
ヘバーデン結節の症状
DIP関節(指先の関節)の腫れ・硬いコブ
指先の関節の背側に、左右に盛り上がるような硬い結節が触れます(関節の変形に伴う骨棘による)。
痛み(疼痛)
初期〜炎症が強い時期には痛みがあります。すぐに痛みが治まることもありますが、数年続く例や、長期に残存する例もあります。
炎症を伴う症状
炎症が強いときは、赤くなる・熱をもつ・むくんで腫れるといった所見が出ます。びらん性関節症(erosive OA)のタイプでは、急に強い痛みと腫脹が出ることがあります。
機能障害(使いにくさ)
つまむ・ボタンを留める・強く握るといった細かい手の動きがやりにくくなります。
関節の側方不安定性や変形が残ると、この「使いにくさ」が長く続き、痛みもとれにくくなります。
粘液嚢腫の合併
爪の近くに水ぶくれのようなふくらみ(粘液嚢腫)ができることがあります。これは関節とつながった袋にゼリー状の液がたまるために起こります。

多くの人では、時間とともに炎症や痛みは軽くなり、変形だけが残ります。ただしすべてがそうなるわけではなく、関節の不安定性が強い例や炎症が繰り返される例では、慢性的な痛みが続くことがあります。画像で変形が強くても痛みが軽い人もおり、逆に見た目ほど変形がなくても痛みが長く続く人もいます。「X線所見の変形の強さ=痛みの強さ」ではありません。
ヘバーデン結節の検査
ヘバーデン結節では、指先のDIP(遠位指節間)関節に変形・圧痛・発赤がみられ、変形によって生じた骨のとげ(骨棘)が硬い結節性の腫れとして触知されるようになります。爪のそばに水ぶくれのような「粘液嚢腫」を合併することもあり、その際は感染の有無を確認しておくことが大切です。
レントゲン(正面・側面)でDIP関節の関節裂隙の狭小化や消失、関節周囲の骨棘形成がみられます。DIP関節に結節をつくるものをヘバーデン結節、PIP(近位指節間)関節に同様の所見をつくるものをブシャール結節と呼びます。びらん性関節症(erosive OA)に進行した場合には、DIP関節で「カモメが翼を広げたような形(gull-wing appearance)」、PIP関節で「ノコギリ歯状(saw-tooth)」といった特徴的なX線像を示します。

へバーデン結節と見分けるべき疾患
ヘバーデン結節だと思って診ている中に、関節リウマチ(RA)や乾癬性関節炎(PsA)など別の炎症性関節炎が紛れ込んでいることもあります。リウマチ性多発筋痛症(PMR)やRS3PE症候群のように、ステロイドがよく効く病態も鑑別に入れておく必要があります。とくに関節リウマチは診断・治療の開始が遅れると手指の変形が残りやすいため、早期検査・診断が大切です。
炎症性関節炎のごく初期を「early arthritis」と呼び、変形が進行する前に治療を始めることが推奨されています。そのため初診時に、リウマチ因子(RF)、抗CCP抗体、抗核抗体などをチェックすることを検討します。
ヘバーデン結節の保存治療(手術以外)
まず痛みと炎症を落ち着かせる保存的治療が基本です。
急性期で痛みが強い場合には、NSAIDs(セレコキシブなど)の内服や、患部を安定させるためのテーピング、ヘバーデンリングといった装具療法を行います。ジクロフェナクゲルなどの外用NSAIDsも疼痛と手の機能の改善に有効です。漢方薬では薏苡仁(ヨクイニン)や桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)などを組み合わせて、浮腫や冷えを伴うタイプの手指痛を和らげます。腫れや痛みが強い時は、関節内ステロイド注射が選択肢になります。反復注射は関節の変性を進めるおそれもあるため、症状と頻度を見ながら行います。
痛みが落ち着き、変形のみが残る段階では、積極的な治療は必要ありません。現時点の医学では、変形そのものの進行を確実に止める薬剤や治療法は確立していません。しかし急性期の炎症を早めに抑えることで、結果的に軟骨や関節周囲組織への負担を軽減し、将来の変形や機能低下をある程度防げるのではないかと考えられています。
へバーデン結節の手術療法
痛みが長く続く場合や、粘液嚢腫を繰り返し感染してしまう場合、あるいは変形と不安定性のために日常生活に支障が出ている場合には、手術治療を検討します。粘液嚢腫が主たる問題であれば骨棘の切除や嚢腫の摘出・滑膜切除を行い、症状の原因となっている部位を取り除きます。DIP関節自体の疼痛が強く、握る・つまむといった基本動作にも支障がある場合には、DIP関節固定術を行うと痛みのコントロールがしやすくなります。PIP関節に病変が及んでいる場合は指の役割によって術式を変え、示指では固定を優先し、それ以外の指では可動性を残す人工関節などを検討します。
エクオールの有効性・安全性
エクオールは大豆イソフラボンの代謝産物で、女性ホルモン(エストロゲン)に似た作用を持つことから、更年期以降の手指のこわばりや関節痛の軽減に有効とする報告があります。医薬品ではなくサプリメントとして自費での購入になります(1日10mg以上を3か月~続けると効果が出やすいとされています)。女性ホルモン補充療法と違って乳がん既往の方でも比較的使いやすく、一部の研究では子宮体がん・乳がんリスクの低下も示されているため安全性の面でも評価されています。さらに、ホットフラッシュ・ほてりなどの更年期症状の軽減、骨密度低下の抑制、メタボリック症候群の改善傾向、肌や髪のコンディション向上といったうれしい付随効果も報告されています。
なお、テレビCMなどで知られているグルコサミン・コンドロイチンについては現段階でははっきりした有効性は示されておらず、国際的なガイドライン(EULAR)でも推奨されていません。

参考文献
・日本乳がん学会.乳癌診療ガイドライン 疫学・診断編 2022年版.
・Aso T, Uchiyama S, Matsumura Y, et al. A natural S-equol supplement alleviates menopause symptoms in healthy Japanese women. J Womens Health. 2012;21:92-100.
・Tousen Y, Ezaki J, Fujii Y, et al. Natural S-equol decreases bone resorption in postmenopausal, non-equol producing Japanese women: randomized, placebo-controlled trial. Menopause. 2011;18:563-574.
・Usui T, Tochiya M, Sasaki Y, et al. Effects of natural S-equol supplements on overweight or obesity in postmenopausal Japanese women. Clin Endocrinol (Oxf). 2013;78:365-372.
・三浦俊樹.ヘバーデン結節の痛み.ペインクリニック.2024;45(11):1191-1197.