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手首・手指の痛み
ばね指(弾発指)
ばね指(弾発指:Trigger finger)とは
ばね指(弾発指:Trigger finger)は、指を曲げる屈筋腱と、その動きを支える腱鞘(プーリー)との間で摩擦や炎症が起こり、腱の滑りが悪くなる病気です。腱や腱鞘が腫れて厚くなると、指の動きが引っかかり、曲げた指を伸ばすときに「カクン」と跳ねる、ばね現象(snapping)がみられることがあります。指の付け根の痛みや動かしにくさの原因となる、絞扼性腱障害の一種です。
中年以降、とくに女性に多く、30歳以上では生涯罹患率が約2%と決して珍しくありません。発症部位は親指が最も多いものの、どの指にも起こりえます。病変は指の付け根にあるA1プーリーに生じることが典型ですが、まれに他の部位(A2・A3など)が関与することもあり、必要に応じてエコー検査などで評価します。
リスク要因として、成人(50歳前後の女性に多い)のほか、糖尿病や透析が挙げられます。好発部位は、母指(親指)が最多で、中指・環指、示指、小指の順に多い傾向があります。

ばね指(弾発指)の原因
ばね指(弾発指)は、指を曲げ伸ばしする屈筋腱と、その通り道である腱鞘(特に指の付け根のA1プーリー)との間で摩擦が生じ、腱の動きが引っかかることで起こります。A1プーリーが肥厚したり、屈筋腱や腱鞘滑膜が腫れて通り道が狭くなると、腱が通過しにくくなり、炎症が進んでさらに狭くなるという悪循環に陥ります。
原因として最も多いのは、使い過ぎなどの機械的刺激を背景に腱鞘が肥厚する特発性のばね指です。一方で、屈筋腱の肥厚や腱鞘滑膜の浮腫・増生を起こしやすい病態(関節リウマチ、ムコ多糖症、透析など)でも、ばね指を生じることがあります。
糖尿病は代表的なリスク要因で、ばね指の罹患頻度が高いことが知られています。また、ばね指がある方は、症状の有無にかかわらず手根管症候群(母指~環指橈側のしびれを伴う疾患)を合併することがあると報告されています。
ばね指(弾発指)の症状と重症度分類
ばね指(弾発指)の症状は、指の付け根(手のひら側、A1プーリー付近)の痛みや腫れから始まり、進行すると「ひっかかり」や「ばね現象」、さらに指が曲がったまま戻らないロッキングへと移行します。痛みのために動かさない状態が続くと、関節が固まる拘縮を起こすことがあります。重症度の評価には、臨床で「Quinnell分類」がよく用いられます。
初期は、指の付け根(手のひら側)の痛み、不快感、腫れ、押すと痛い(圧痛)といった症状が中心で、診察時に明らかなばね現象が再現できないこともあります。
中期になると、曲げ伸ばしの途中で引っかかりが出て、「カクン」と跳ねるばね現象を自覚するようになります。
後期では、指が曲がったまま伸びないロッキングを呈し、反対の手で伸ばさないと戻せない、あるいは動き自体が制限されます。さらに進むと、PIP関節の屈曲拘縮など、関節の硬さが問題になります。
Quinnell分類(ばね指の重症度)
Grade I:痛みや引っかかり感はあるが、診察時に再現できない。A1プーリー部に圧痛を認める。
Grade II:診察時に引っかかりを認めるが、患者自身で屈曲位から自動で伸展できる。
Grade IIIA:診察時に引っかかりを認め、いったん曲げると自動伸展できず、他動的に伸ばす必要がある。
Grade IIIB:診察時に引っかかりを認め、指の自動屈曲ができない。
Grade IV:診察時に引っかかりを認め、PIP関節に屈曲拘縮を伴う。
ばね指(弾発指)の検査
屈曲位から伸展する際に指がガクッとなる「ばね現象(snapping)」が確認できれば診断は比較的容易です。ただし、全例で明瞭に認められるわけではありません。ばね指は主にA1プーリー(MP関節部)で生じますが、患者さんの感覚としてはPIP・DIP関節で起きているように見える(感じる)こともあります。
重症例では、指を深く曲げるとPIP・DIP関節を自力で伸ばせず、屈曲位のまま引っかかって伸びないロッキングを呈します。痛みが強く動かさない状態が続くと、指が曲がったまま/伸びたまま固まる拘縮をきたすことがあり、この段階では可動域が低下して典型的なばね現象が目立たず、診断に至らないまま複数の医療機関を受診しているケースもあります。したがって、可動域が失われる前にばね現象があったかを、問診で丁寧に確認することが重要です。
診断は、単純X線などで外傷や変形性関節症などの他疾患を除外したうえで、A1プーリー部の圧痛なども含めて総合的に判断します。
薬指をのばすときに、ガクッとなるのがばね指の「スナッピング現象」です
ばね指(弾発指)の治療
ばね指(弾発指)の保存治療は、まず「使い方の調整」と「炎症を抑える治療」を組み合わせて行い、多くの方で改善が期待できます。特にステロイド腱鞘内注射は効果が高く、一般に有効率は約70~80%とされ、保存治療の中心になります(糖尿病のある方では効き方がやや弱いことがあります)。
1)安静・生活指導(使い方を整える)
指の使用頻度を減らし、負担のかかる動作(強い握り込み・長時間の反復作業など)を調整します。ただし、全く動かさないと関節が固くなるため、過度な安静は避け、痛みの範囲で軽く動かすことも大切です。
2)薬物療法(痛み・炎症を落ち着かせる)
痛みが強い時期は、NSAIDs(消炎鎮痛薬)の外用薬や内服を症状に応じて併用します。
3)ステロイド注射(最も効果が期待できる治療)
注射は多くの場合よく効き、トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト)などを用います。薬剤は局所にとどまり、2~3週間ほど効果が続くとされます。その間に腱・腱鞘の腫れが落ち着き、追加注射なしで症状が消える方もいます。
一方で、ステロイド注射は複数回行うと、まれに腱が弱くなる(腱断裂)が報告されています。そのため、回数と間隔を守ることが重要です。ほかに、皮膚の色素脱失、皮下萎縮、脂肪壊死などの副作用が起こることがあります。当院では、繰り返す場合でも4~6週間以上間隔をあけ、2~3回までを目安とし、それでも症状が残る場合は手術治療をご提案します。。
ばね指に対する手術加療
直視下腱鞘切開術は、ばね指治療の標準術式(gold standard)とされ、症状改善率が極めて高い治療です。治療の確実性を優先する場合には、注射療法を行わず、早期から手術を選択する方針が推奨されることがあります。一方、鏡視下・経皮的腱鞘切開術などの小侵襲手術は、回復期間の短縮を明確に示す医学的根拠が十分とはいえず、必ずしも第一選択として推奨されません。加えて、腱鞘の切り残しによる症状残存や再手術のリスクが指摘されています。直視下腱鞘切開術は手術創が1cm未満で、手術時間も概ね5分程度と短く、もともと低侵襲な手術といえます。
また、手術前からPIP関節の屈曲拘縮が残存している場合には、浅指屈筋腱(FDS)の尺側半切など、より複雑な手技が必要となることがあります。その際は、手術設備の整った基幹病院へ紹介します。
参考文献
洪 淑貴ら, ばね指, ドゥ・ケルバン腱鞘炎の診断と治療, MB Orthop.35(4):1-6,2022
海透優太.指が引っかかります……[ばね指].日本医事新報.2024; (5231): 36-37.
Hayden Andrew et al, Finger Pulley Injury: Everything You Need To Know.
記事監修:曽我部 祐輔 医師 (三国ゆう整形外科 院長/日本整形外科学会認定 整形外科専門医)

先生から一言
ばね指はとても多い手の病気です。朝起きたら指が曲がったまま伸びなくなった、という方が多い印象です。ほとんどはケナコルト注射でよくなり、手術を回避できます。私は手の手術をたくさん執刀してきた経験から、ばね指に対する注射は特に慣れています。