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手首・手指の痛み
ばね指(弾発指)
ばね指(弾発指)とは
指を曲げる腱である屈筋腱と、腱が浮き上がらないように制御するトンネルである腱鞘(Pulley:プーリー、滑車のことでけんしょうと読む)の間で摩擦が生じ、腱の滑走障害、疼痛、引っかかりを生じる病気です。典型例では屈曲位からの伸展時にゆびがガクッとなる「バネ現象(Snapping)」を認めます。
母指が最も多い罹患指ですが小指、環指などほかの指にも多く生じます。
絞扼性腱障害(tendon entrapment)と表現されることもあります。
中年以降の女性に多く,男女比は1:2~6で,30歳以上の成人の生涯罹患率は2.2%と報告されており罹患する頻度の高い疾患です。
腱鞘は以下の図のようにA1~A5まで存在し、ばね指が最も多くみられるのは指の付け根にあるA1 pulleyです。しかしA2,3などほかの場所でも発症しうるので、詳細な診察が必要です。

ばね指(弾発指)の原因
屈筋腱が肥厚(分厚くなること)することが腱鞘との摩擦を生む要因です。最も頻度が高いのは,機械的な刺激(使い過ぎなど)で腱鞘の肥厚を生じ,腱鞘内腔の狭窄をきたす特発性のばね指ですが,屈筋腱の肥厚・腱鞘滑膜の浮腫や増生を生じる病態(関節リウマチ、ムコ多糖症、透析など)もばね指をきたす要因となります。
糖尿病はばね指のリスク要因として知られており,インスリン依存性糖尿病に罹患している場合,生涯罹患率は10~20%とされ非常に罹患頻度が高くなります。糖尿病患者では非糖尿病患者と異なり男女比は,ほぼ1:1となり性差がなくなります。
またばね指に罹患していると、症状の有無をとわず手根管症候群(母指、示指、中指、環指の半分のしびれを伴う疾患)に合併して罹患する可能性は60%にも上ると報告されています。
ばね指(弾発指)の症状
臨床症状の重症度を示す 「Quinnell 分類」 がよく用いられます
Grade Ⅰ:疼痛と引っかかり感があるが、診察時再現性はない。AI pulley上に圧痛がある
Grade Ⅱ:診察時に引っかかりを認めるが、患者は指を屈曲位から自動伸展可能である
Grade ⅢA:診察時に引っかかりを認め、患者は一日指を屈曲すると自動伸展できず、他動的に指を伸展しなければならない
Grade ⅢB:診察時に引っかかりを認め、患者は指の自動屈曲ができない
Grade IV:診察時に引っかかりを認め、PIP関節は屈曲拘縮を呈する
A1 pulley が最も多く引っかかりを生じる部位ですが、A2,3,4でも生じることがあります。
ばね指(弾発指)の検査
屈曲位からの伸展時にゆびがガクッとなる「バネ現象(Snapping)」を認めれば診断は容易ですが、必ずしも全例で確認できるわけではありません。腱の滑走障害は主にA1 pulley部=MP(MCP)関節部で生じているますが、バネ現象はIP・PIP関節で生じるように見える点にも注意が必要です。
重症例ではゆびを深屈曲するとIP・PIP関節の自動伸展ができず,屈曲位でのロッキングを呈します。ロッキングとは指を曲げると伸ばせなくなり、ほかの指で無理やり伸ばさないといけなくなる現象です。
疾痛閾値の低い,または疼痛に対する恐怖心が強いと指の屈曲・伸展拘縮(曲がったり、伸びたりしたまま固まってしまうこと)をきたすこともあり,この場合は指の可動域が失われているため典型的なバネ現象は認めず,ばね指の診断がなされないまま複数の医療機関を受診していることがあります。
指の可動性が失われる以前にバネ現象があったか,問診でしっかり確認し,単純X線像などで外傷.変形性関節症などの他疾患を除外したうえで,A1 pulley に圧痛があるかなどを勘案し、総合的に診断します。

ばね指(弾発指)の治療
ステロイド腱鞘内注射が著効することが多く、 Gold Standard といえます。
有効率は70~80%で,糖尿病に罹患りている方では有効性がやや劣るとされます。
注射方法は27G針を用いてトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト)5~10mgを注射します。
注射部位は指基部の皮線から中枢方向に向かって約45°の角度で刺人し、腱鞘内へ薬液を注射します。このとき薬液が広がっていくのが実感できます。しかし文献報告では腱鞘内vs腱鞘外の注射では治療効果に差がなかったとされており、最適な薬液の散布部位は必ずしも一定の結論を得ていません。
トリアムシノロンアセトニドは局所にとどまり2~3週間効果が持続するとされており、長期間にわたる症状の改善が期待できます。またその期間にとどまらず、腱の肥厚がいったん解消されるとそのまま症状が消失することもあります。
本剤40mgを2回注射したのち浅・深指屈筋両腱の皮下断裂をきたしたという報告があるため、,注射回数には注意が必要である.当院では複数回注射する場合は間隔を最低でも4~6週間あけたうえで,かつ2回までとして,それでも症状が残存する場合は手術療法を推奨します。
ほかにステロイド皮下注射の合併症として皮膚の色素脱失、皮下組織萎縮、脂肪壊死がありますが、濃度依存性にリスクが高くなるので、当院では希釈したステロイド注射を施行しており、上記のような合併症は経験がありません。
手術は直視下腱鞘切開術がgold standardとされています。手術による症状の改善率はほぼ100%とされており、治療の確実性を求めるなら注射を施行せず、早期から手術を施行することが推奨されています。鏡視下・経皮的腱鞘切開術などの小侵襲手術に関しては、症状回復に要する期間を短縮するとの医学的根拠に乏しく必ずしも推奨されません。腱鞘の切り残しによる症状の残存、再手術のリスクもあります。ばね指に対する腱鞘切開術の手術創は1cm未満、手術時間も5分程度なので、そもそも低侵襲といえます。
手術前にPIP関節の屈曲拘縮が残存している場合は浅指屈筋腱 (FDS) の尺側半切などより複雑な手術手技が要求されるため、手術設備の整った大病院への紹介が必要となります。
参考文献:
洪 淑貴ら, ばね指, ドゥ・ケルバン腱鞘炎の診断と治療, MB Orthop.35(4):1-6,2022
専門医の整形外科外来診療
Hayden Andrew et al, Finger Pulley Injury: Everything You Need To Know.