DISEASE DETAILS 疾患一覧
手首・手指の痛み
キーンベック病
キーンベック病(Kienbock’s disease)とは
手関節にある月状骨という骨の血流が悪くなり、手関節の疼痛が生じる疾患です。手をよく使う青年期から壮年期の男性に多く見られますが、若者や高齢者にも発症することもあります。
キーンベック病の原因
多くの要因が絡み合って発症すると考えられていますが、明確な原因はまだ解明されていません。月状骨が血流障害により軟化し、手首に圧力が加わると、月状骨に微細な骨折や軟骨損傷がおこり、周囲の骨への損傷が広がると考えられています。骨粗しょう症がある高齢者ではキーンベック病が発症しやすくなることが報告されています。
キーンベック病の症状
家事、仕事、スポーツなどで、手首に負荷がかかる動作をすると痛みが出ます。手首の中央の背側部分を押すと痛みがあり、手首の動きが制限されたり、握力が低下することもあります。さらに、手首の周りの腫れや、月状骨の骨片が手根管症候群を引き起こし、手や指のしびれが出ることもあります。
キーンベック病の検査
キーンベック病の診断には、X線検査やMRIに基づいた「Lichtman分類(リヒトマン分類)」が広く使われています。MRIは特に早期のキーンベック病の診断に役立ち、X線写真では異常が見られない場合でも、早期診断ができます。CT検査は、月状骨の圧潰や分節化の程度、手根骨配列異常、関節症性変化の評価に役立ちます。関節鏡検査は、近年では関節軟骨の評価と治療方針決定において重要な役割を果たしています。
キーンベック病のLichtman分類(リヒトマン分類)
リヒトマン分類のStage 0では、手首に痛みなどの自覚症状があるのみで、単純X線像やMRIでは異常が見つかりません。Stage Iに進行すると、単純X線像では月状骨に異常が見られないか、あるいは線状の骨折が確認されます。MRIのT1強調像では月状骨が低信号を示します。Stage IIでは、単純X線像で月状骨の骨硬化が認められますが、骨の形状は保たれています。Stage IIIになると、月状骨の扁平化や分節化が見られ、これには舟状骨の掌屈回転がないStage IIIA、舟状骨が掌屈回転し手根骨の配列異常を認めるStage IIIB、そして月状骨が冠状面で完全に分断されているStage IIICに分かれます。Stage IVでは、手根骨や橈骨を含む手関節に変形性関節症性変化が見られます。
キーンベック病の治療
若年者と70歳以上の高齢者では、病期の進行や予後が異なるため、治療方針を分けて考える必要があります。若年者はギプスやシーネなどの外固定による保存的治療で良好な結果が得られることが多いですが、病期の進行を認める場合は手術を検討します。高齢者では、病期が進行しても症状に乏しい場合が多く、保存的治療が選択されますが、活動的な高齢者の場合は、若年者と同様の手術適応がなされることもあります。
手術としては、血行再建術や月状骨除圧術、月状骨全摘出などがあります。関節症が橈骨舟状骨関節に及ぶ場合は、手関節全固定術または人工手関節置換術が考慮されます。
参考文献)
・今日の整形外科治療指針.
・MB Orthop Vol 29 No 11 2016.