DISEASE DETAILS 疾患一覧
手首・手指の痛み
ドケルバン病(手首の腱鞘炎)
ドケルバン病とは
ドケルバン病(de Quervain病/ドゥ・ケルバン腱鞘炎)は、手首の親指側(橈側:とうそく)にある「伸筋腱第1区画」というトンネルの中で炎症が起き、痛みが出る腱鞘炎です。ここには長母指外転筋(APL)と短母指伸筋(EPB)という2本の腱が通っており、道具を使う作業やスポーツなどで手や親指をよく使うと負担がかかりやすくなります。年齢は幅広い方にみられますが、40~60歳代に多く、女性にやや多い傾向があります。症状は、親指の動きや手首のひねり・つまみ動作で強くなる痛みが中心で、悪化すると安静時や夜間にも痛むことがあります。腱が通るトンネルの中は個人差があり、仕切り(隔壁)がある方も多く、この形の違いも痛みに影響すると考えられています。1895年にスイスの外科医フリッツ・ド・ケルバンが初めて詳しく報告したことから、この名前がついています。

ドケルバン病(手首の腱鞘炎)の原因
原因としては、繰り返し作業、不慣れな作業や手の使いすぎなどによる慢性的な機械的刺激が考えられ、手や手首を繰り返し動かす仕事や趣味もリスクになります。女性は腱の走行がより大きくカーブしやすく、手関節を尺屈したときに腱の緊張が高まりやすいため、その動きが患部に強い刺激を与えると考えられています。さらに、妊娠中はホルモンバランスの影響で発症しやすく、産後は赤ちゃんを繰り返し抱き上げる動作が続くことで、症状が出やすくなることがあります。
ドケルバン病(手首の腱鞘炎)の症状
ドケルバン病(手首の腱鞘炎)では、親指の付け根付近(橈骨茎状突起の先端から近位1~2 cm )に痛みや腫れが生じます。つかむ・つまむ・ひねるといった動作で親指や手首が動かしにくくなり、親指を動かすと「引っかかる」「途中で止まる」感じが出ることがあります。放置すると痛みが親指から前腕へ広がったり、動かすたびに痛みが強くなることがあります。診察ではよく「フライパンが振れない」「雑巾が絞れない」「ペットボトルのキャップが開けられない」といった訴えをうかがいます。
ドケルバン病の検査と診断
手首の親指側(橈骨茎状突起部)に痛みがあり、親指を動かすと痛みが強くなるのが特徴です。診察では、親指を手のひらの中に握り込み、手首を小指側へ曲げて痛みを誘発する「Eichhoffテスト」を行います。必要に応じて、母指の付け根や手根部の関節症との区別のために触診で圧痛部位を丁寧に確認します。
画像検査として、まずレントゲン(単純X線)をみます。レントゲンではドケルバン病そのものの異常は写らないことが多いのですが、舟状骨の骨折、母指CM関節症、手根骨の変形性関節症など、ほかの病気を除外するのに役立ちます。
超音波検査は、腱の腫れや腱鞘の厚み、第一背側区画の中に隔壁(サブコンパートメント)があるかどうかを確認するのに有効です。動かしながら観察できるため、腱の滑りが悪くなっている様子や炎症の範囲を把握しやすい検査です。状況によってはMRIを用いて、ガングリオンなどのしこり(軟部腫瘍)の有無や、腱鞘内の液体貯留を確認することもあります。
鑑別診断としては、母指CM関節症、舟状骨‐大菱形骨‐小菱形骨(STT)関節症、母指のばね指などが挙げられます。ドケルバン病では橈骨茎状突起上に圧痛が出るのに対し、母指CM関節症やSTT関節症はより指先側の関節の上に圧痛が出ます。ばね指は母指の付け根(A1腱鞘)に痛みや引っかかり(弾発)を感じやすいのが特徴です。
ドケルバン病の保存治療(手術以外)
まずは患部をできるだけ使わずに安静にし、クーリングを行います。内服薬や外用薬(NSAIDs など)を用い、必要に応じてシーネ固定や装具療法で局所安静をとります。職業やスポーツで手を酷使される方には、動作の見直しや一時的な負荷軽減の指導が重要です。糖尿病や関節リウマチのある方は、基礎疾患を良好にコントロールすることが治療効果と再発予防のために大切です。
ステロイドの腱鞘内注射は短期的な痛みの軽減に有効ですが、色素脱失・皮下脂肪萎縮などの皮膚障害や、まれに腱断裂のリスクがあるため、短期間に繰り返すことは避けます。原則として短期の除痛や診断補助の目的で「最大2回まで」を目安とし、それでも痛みが続く場合は他の治療方針を検討します。
ドケルバン病の手術治療
保存療法を行っても改善を認めない場合に手術療法を考慮します。手術では腱鞘、腱鞘内隔壁を切除し、腱を開放することによって症状を緩和します。手術後は6〜8週間の負荷制限が必要になるため、あらかじめ仕事内容や家事分担の調整をお願いし、安静を保てる環境づくりを行ってから手術に臨みます。
手術は、手外科専門医以外が執刀する機会もありますが、解剖学的変異や神経走行、隔壁の存在など、注意すべき点が多い手術です。手術後の痛み残存、橈骨神経浅枝損傷などのトラブルも少なからず経験されます。当院では手外科専門医が執刀可能な提携医療機関にご紹介しています。
参考文献
・MB Orthop. 29巻11号:37-44,2016. 特集:外来でよく診る手外科疾患. 狭窄性腱鞘炎 -ドケルバン病・弾発指-
・上村 卓也.de Quervain病に対する局所麻酔手術.MB Orthop.36(4):50–60,2023.

先生から一言
ドケルバン病は、日常診療で目にすることの多い疾患です。とくに手を使う女性に発症が多い印象を受けます。放置するとなかなか改善しませんが、治療を行うと症状が楽になりますので、つらい症状をお持ちの方は受診してください。