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こどもの整形外科
先天性握り母指
先天性握り母指とは
生後6ヶ月を過ぎても母指中手指節(MP)関節の屈曲変形と自動伸展障害が認められる場合を握り母指症(Congenital clasped thumb)と診断します。生後早期は屈筋の緊張が伸筋に比べて強いため、曲がっている状態が自然であるとされています。基本的に幼少期では他動伸展は可能ですが、掌側皮膚の緊張や母指の内転拘縮を呈することも少なくありません。
先天性握り母指の原因
病態として短母指伸筋腱の低形成や欠損が考えられていますが、長母指伸筋腱の欠損や機能不全、掌側の皮膚や軟部組織の拘縮も関与していることが報告されています。
先天性握り母指の症状と臨床分類
生後6ヶ月を過ぎても母指中手指節(MP)関節の屈曲変形と自動伸展障害が認められます。母指MP関節の先天性自動伸展障害は、「握り母指」と診断されます。日本手外科学会分類では、分化障害の中で「軟部組織の拘縮・変形(II-C-1-c)」に分類され、単一の疾患ではなく、さまざまな障害によって生じることがあります。
Mihの分類が頻用されており、1型は拘縮がなく、伸展機構の低形成もしくは欠損、II型は伸展障害に加えて、関節拘縮や側副靭帯異常、第1指間拘縮、母指球筋異常を合併しています。III型は関節拘縮症(arthrogryposis)の部分症状であり、伸筋の異常はほとんどありません。
新生児は母指を手掌に握り込んでいることが多いため、診断が遅れがちです。MP関節のみに伸展障害がある場合は、短母指伸筋の低形成を疑います。加えてIP関節にも伸展障害がある場合には長母指伸筋の、MP関節の内転がある場合には長母指外転筋の低形成も疑います。強剛母指では通常MP関節が伸展し、IP関節が屈曲しており、IP関節他動伸展で疼痛が生じることから鑑別できます。
先天性握り母指と強剛母指との違い
母指の伸展障害を認める他の疾患として強剛母指(小児ばね指)が広く知られています。2歳以下に好発します。母指をまげる腱である「長母指屈筋腱」の腫瘤状肥厚により、腱鞘部での相対的狭窄が生じます。IP関節の伸展制限と弾発現象を認め、他動でも伸展不可の症例が多いです。一方、MP関節の運動制限はなく、握り母指症(MP関節伸展障害、他動伸展可能)とは異なる所見を呈することに留意し、鑑別します。先天性多発性関節拘縮症や風車翼手との鑑別も必要です。
先天性握り母指の治療
放置すると母指の屈曲内転拘縮が残存します。自動伸展が可能になるまで、ご家族への他動伸展運動の指導と母指の伸展外転位保持を目的とした装具療法を行います。初期治療としては、家族による他動伸展運動と装具による伸展位保持を行います。装具を終日着用し、2~6カ月継続します(図参照)。これは伸展機構のさらなる障害を防ぐとともに、伸展力の改善を目的としています。装具で外転位に固定することを早期に開始することが重要です。この装具療法は1歳未満では効果的ですが、2歳以降ではほとんど改善が期待できません。
多くのケースで装具を用いた保存療法によって2歳ごろまでに改善を認めますが、夜間装具は3から4歳ごろまで継続します。装具療法で改善が得られなかった例や、2歳以降に診断された例には手術を検討します。保存療法が無効な症例では、手術加療を検討します。
手術では、拘縮した組織の切離と腱移行による指伸展の再建を行います。1型では、掌側皮膚と皮下組織の切離だけで伸展位が得られます。II型およびIII型では、母指伸展に加えて第1指間の拡大を行うために、必要に応じて第1背側骨間筋や母指内転筋横頭を付着部で切離し、MP関節包を切開します。腱移行には固有示指伸筋腱、浅指屈筋腱、小指外転筋を用いることが多いです。母指以外の腱にも低形成が及んでいる場合があり、症例に合わせて移行腱を選択します。術後6ヶ月間は夜間装具を使用します。術後6ヶ月以上の経過で自動伸展運動の改善を認めない症例では、伸筋の欠損や機能不全を考えて、伸展機構の再建手術を検討します。
参考文献)
・形成外科 2019年増刊. 6.握り母指. 東京慈恵会医科大学形成外科学講座. 西村礼司
・Mih AD:Congenital clasped thumb. Hand Clin l4:77-84,1998.
先生から一言
先天性握り母指は、単一の疾患ではなく、様々な病態が存在しているとされ、鑑別診断は容易ではないことも多いです。疑わしい場合は、提携している小児整形外科にご紹介いたします。