整形外科・リハビリテーション科・リウマチ科・骨粗鬆症外来

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肩の痛み

四辺形間隙症候群(QLS症候群)

四辺形間隙症候群(QLS)とは

四辺形間隙症候群(Quadrilateral Space Syndrome, QLS)は、腋窩神経および後上腕回旋動脈(PHCA)が四辺形間隙内で圧迫されるまれな疾患です。肩周辺の広範な痛み、非皮膚分節性の異常感覚、四辺形間隙の上部での圧痛を生じるとされます。主に野球やバレーボールのような繰り返しのオーバーヘッド活動に起因するとされています。QLSの多くの症状は非特異的であるため診断が遅れること多いとされます。

神経・血管圧迫は、QLSの急性症状である痛み、異常感覚、および萎縮を引き起こす要因ではありますが、主に神経の圧迫が問題なのか、それとも血管の圧迫が問題なのかについては議論があります。圧迫は安静時または運動時に発生する可能性があり、首の痛み、肩の痛み、外側の腕の異常感覚、および四辺形間隙の圧痛を訴えるすべての患者に対してQLSを考慮すべきです。


四辺形間隙は、上方では小円筋、下方では大円筋、内側では上腕三頭筋の長頭、外側では上腕骨の骨幹に囲まれています。腋窩神経とPHCAは四辺形間隙内に存在します。腋窩神経は小円筋および三角筋を支配しており、これらの筋肉は主に外転および外旋に関与しています。四辺形間隙内には特徴的な線維帯が存在し、特に三角筋および小円筋に関連した動作によって痛みが悪化します。

四辺形間隙症候群(QLS)の原因

病因は明確ではありませんが、神経圧迫は主に外傷、線維性帯、または筋肉の境界の肥大によるものです。稀なケースでは、関節唇嚢胞、骨折による血腫、骨軟骨腫、脂肪腫、また腋窩神経鞘腫が原因となることもあります。腋窩神経の圧迫は、後上腕回旋動脈の動脈瘤や外傷性仮性動脈瘤に続いて起こることもあります。さらに、解剖学的な変異、例えば、肩関節前面から起始し、腋窩神経の下を走行する肩甲下筋がまれなリスク要因となることがあります。QLSは胸部手術の稀な合併症としても報告されています。

四辺形間隙症候群(QLS)の症状

一般的に40歳未満の若年患者で、その他は健康な患者が多いです。患者は繰り返し行われるオーバーヘッド動作の履歴があり、特にバレーボール、野球、水泳をしている人に多いとされます。症状の表れ方は漠然としており、神経性または血管性の特徴が含まれます。神経性QLSは、異常感覚、筋攣縮、筋力低下、または非特異的なパターンの神経性痛が特徴です。血管性QLSの症状は、急性虚血の徴候(痛み、蒼白、脈拍の消失)、血栓症、または塞栓症(手や指の冷感やチアノーゼ)を含みます。血管および神経性の症状に加えて、筋萎縮とそれに伴う筋力低下を経験することがあり、これは神経支配の障害によるものと考えられています。また、患者は四辺形間隙の圧痛を呈することもあります。重症の場合、PHCAの血栓症が腋窩動脈からの血流を遮断し、塞栓症、指の虚血、および冷感耐性を引き起こすことがあります。

QLSと鑑別を要すべき疾患

症状が漠然としているため、QLSは他の筋骨格系、血管系、または神経関連の症候群と類似しており、除外診断として扱われることが多いと考えられています。QLSの鑑別診断には、回旋腱板損傷、関連痛症候群、頸椎病変、関節唇損傷、腕神経叢の病変(胸郭出口症候群や腕神経炎)、肩関節炎、肩甲上神経損傷などが挙げられます。上腕骨頭の骨折、前方肩関節脱臼、鈍的外傷は、腋窩神経の圧迫とは無関係に腋窩神経損傷の原因となることがあります。

四辺形間隙症候群(QLS)の検査

QLSの症状は漠然としていることが多く、画像検査はQLSの除外および確定の両方に重要です。腋窩神経の圧迫が断続的に起こることが多いため、QLSの画像診断自体も簡単ではありません。

CT血管造影、MRI血管造影は、PHCAの閉塞を視覚化するために使用されています。QLSのゴールドスタンダードとされる診断検査はありませんが、通常はMRIが第一選択の画像検査です。MRIでは、小円筋の局所的な脂肪性萎縮がよく確認され、肩の痛みの病的原因を除外することができます。動脈造影は診断において重要で、肩関節が外転および外旋した状態でPHCAの圧迫を明らかにします。他の報告では、筋電図(EMG)の有用性が指摘されています。EMGは、腋窩神経が圧迫された結果、支配される筋肉(小円筋や三角筋)の脱神経を検出することができますが偽陰性率が高いとされており過信は禁物です。

四辺形間隙症候群(QLS)の治療

一般的に、保存療法として理学療法や身体活動の修正が推奨されます。身体活動の修正は症状が出現しやすい動作や姿勢を避けることです。理学療法では、四辺形間隙への横方向摩擦マッサージやアクティブリリースが含まれます。治療的マッサージに加えて、肩の可動域訓練や肩甲骨の安定化運動、後方回旋筋腱板のストレッチ、非ステロイド性抗炎症薬の使用が有効です。文献では、神経周囲ステロイド注射も、ある程度有効な保存的な手段として報告されています。局所麻酔薬やステロイド注射後の痛みやその他の症状(冷感、しびれ)の改善は、QLSの診断的サインである可能性があり、理学療法と組み合わせて症状管理に使用されることがあります。

6か月以上保存的治療に反応しないケースでは、外科的に腋窩神経減圧が検討されます。術中は、肩関節を外旋および外転させた状態で腋窩神経とPHCAを触診し、神経が圧迫されていないことや、動脈の強い脈拍が持続していることを確認し、神経剥離、圧迫に対する除圧を行ないます。また、神経血管の周囲に線維性帯がないか確認することも重要で、これが圧迫の構造的原因を示唆することがあります。術後は癒着の再発を避けるために即時に理学療法を行います。

他に文献的には、血栓がある場合の血栓溶解療法、末梢塞栓形成の場合の血栓除去術、動脈瘤の切除やコイル塞栓による血管内治療など、他の治療法が報告されています。まれなケースでは、四辺形間隙症候群が自然に解消されることもあります。

参考文献)

・Quadrilateral Space Syndrome: Diagnosis and Clinical Management. Patrick T. Hangge

・水泳選手に生じた四辺形間隙症候群の3例. 坂口健史ら.JCHO東京新宿メディカルセンター整形外科, 2JCHO東京新宿メディカルセンターリハビリテーション科.日本臨床スポーツ医学会誌 23(4): S253-S253, 2015.

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