DISEASE DETAILS 疾患一覧
骨粗鬆症
男性の骨粗鬆症(骨粗しょう症)
男性でも加齢に伴い骨粗しょう症になることがある
骨粗鬆症は女性に多い病気ですが、男性でも発症することがあります。男性における骨粗鬆症は、女性に比べてやや遅れて発症することが多く、65歳以降になると女性と同様に、年間1%程度の骨量減少が起こるとされています。死亡に至るまでの間に、約20~30%の骨量を失うともいわれています。50歳以降の男性では、骨粗鬆症を合併した際の転倒によって、脊椎、前腕骨、肋骨、大腿骨近位部などの骨折頻度が高くなることが知られています。
高齢者における男性骨粗鬆症は、加齢に伴う筋萎縮や筋力低下、そして男性ホルモンの減少による性腺機能低下症に関連して発症すると考えられています。また大腿骨近位部骨折を起こした男性を対象にした研究では、男性骨粗鬆症においては女性に比べて骨密度(bone mineral density:BMD)だけでなく、骨折後1年以内の死亡率が高いことが示されています。女性の死亡率が6〜8%程度であるのに対し、男性では16〜18%と約2倍に達しており、これが男性骨粗鬆症の重要な特徴の一つであると考えられています。

男性ホルモンの動態と骨代謝
加齢に伴って生殖内分泌器官の機能が低下することにより、性ホルモンの動態も変化します。男性における性ホルモン低下は、加齢関連機能低下症(late-onset hypogonadism:LOH)として問題視されています。これは、加齢に伴い性腺刺激ホルモンの分泌が低下し、睾丸によるステロイド産生も減少すること、また日常生活動作(ADL)や生活の質(quality of life:QOL)の低下などと関連して発症するとされています。
男性の骨代謝には男性ホルモン(テストステロン)が関与しており、生体内で、アンドロゲン受容体(androgen receptor:AR)を介して直接的に作用するほか、アロマターゼによって女性ホルモン(エストロゲン)に変換され、エストロゲン受容体(estrogen receptor:ER)を介しても作用することが知られています。そのため、テストステロンの骨代謝作用はARおよびERの両方を介して発現すると考えられています。テストステロンそのものの骨密度増強効果に加えて、アロマターゼによって変換されたエストロゲンが重要な役割を果たしている可能性が示唆されています。
さらに、骨格筋は骨代謝に関与する主要な骨格間膜臓器として吸収表面を増加させるため、治療標的分子としても注目されています。LOH症候群では筋萎縮や筋力低下といった特徴が見られ、これに伴って加齢性サルコペニア(筋肉量の減少)やロコモティブシンドロームが進行し、男性骨粗鬆症の発症メカニズムと深く関わっているとされています。

男性骨粗鬆症の診断
男性骨粗鬆症の診断は、女性と同様に若年成人との比較による若年成人平均(young adult mean:YAM)70%を基準に行われます。ただし、男性はもともと骨密度が高い傾向にあり、それが骨折の有病率の低さにつながっているとも考えられています。したがって、まずは骨密度検査を行い、現状での正確な骨密度を把握しておくことが診断の第一歩となります。当院では骨粗鬆症ガイドラインに準拠した測定器により、正確な骨密度を計測することが可能です。

加齢や基礎疾患、あるいは薬剤治療の影響によって骨密度が低下すると、骨折リスクは確実に上昇します。特に前立腺癌に対して行われるアンドロゲン抑制療法(androgen deprivation therapy:ADT)は、前立腺癌の標準治療として広く用いられていますが、男性骨粗鬆症のリスク因子となります。進行期の去勢抵抗性前立腺癌においては、LH-RHアゴニストやエストロゲン様薬剤が使用されますが、下垂体からの性腺刺激ホルモンの分泌を抑制することで、テストステロンの産生を著しく低下させ、骨粗鬆症の合併が高頻度に認められることが知られています。前立腺癌に対するADTの治療期間が長くなるにつれて、骨折の頻度が高くなる傾向も報告されています。
骨代謝マーカーにおいては、骨形成マーカー(P1NP)および骨吸収マーカー(Tracp-5b)のいずれも上昇することが多く、とくに骨吸収が骨形成を上回る状態となることが多いことから、男性骨粗鬆症においては低代謝型の骨量症が反映されていると考えられています。
男性骨粗鬆症の予防および治療
男性骨粗鬆症の予防および治療法としては、運動療法、食事療法、薬物療法などが挙げられます。近年は新たな薬剤や治療法の登場により、治療の選択肢が大きく広がってきています。骨折リスクの評価を踏まえたうえで、個別に最適な治療が選択されています。
2015年に改訂された「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」によれば、骨粗鬆症治療薬としては、骨形成促進作用を持つテリパラチド製剤やロモソズマブ(抗スクレロスチン抗体製剤)のほか、従来から広く用いられているビスホスホネート製剤も有効であるとされています。ビスホスホネート治療では、1〜2年の継続投与によって骨密度が増加し、骨折の発生率が低下することが報告されています。短期間の治療のみでは十分な骨密度の上昇が得られないことが多いので、根気よく治療を継続する覚悟も必要となります。
また、デノスマブ、ロモソズマブ、副甲状腺ホルモン薬といった薬剤も、男性骨粗鬆症において有効であると考えられています。さらに、これまでのさまざまな研究から、テストステロン補充療法(testosterone replacement therapy:TRT)が骨代謝に関与し、骨密度の上昇と骨吸収マーカーの改善に寄与する可能性が示されています。ただし、TRTによる骨折予防効果や長期安全性については、今後さらに詳細な臨床研究が求められており、標準的な治療法としての確立が期待されています。
当科では運動療法(リハビリテーション)を通じて、体幹、下肢筋力の向上による寝たきり防止、骨粗しょう症の予防と治療を行っております。ご希望の方はぜひご来院ください。

参考文献
1)JJOS Vol.10,No3,2024.
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先生から一言
女性特有の病気と思われている骨粗鬆症ですが、男性でも発症することは少なくありません。まずは骨密度検査を行い、必要に応じた生活習慣指導、薬物治療を検討してみましょう。骨粗鬆症による骨折の予防は健康寿命の延伸につながり、生涯健康に生きることの助けとなります。