DISEASE DETAILS 疾患一覧
首の痛み
肩こり
長時間のPC・スマホや姿勢の崩れ、筋緊張など肩こりの背景は人それぞれ。当院では初診時に痛みを丁寧に評価し、生活指導、理学療法士によるリハビリ、注射治療(トリガーポイント注射や神経ブロックなど)、必要に応じた薬物治療(NSAIDs・アセトアミノフェン・神経障害性疼痛薬など)を段階的に組み合わせ、X線・超音波での評価も含めて原因と症状に合わせた改善をめざします。つらい肩こりは我慢せず、まずはご相談ください(阪急「三国」駅1分/予約可)。
肩こりとは
肩こりは、首・肩・背中に連なる僧帽筋などの筋肉が緊張し続けることで血流が悪くなり(阻血)、重だるさや張り、痛みが生じる状態を指します。首の細い柱で約5~6kgの頭を支えているイメージで、日常的に大きな負担がかかるため、筋肉内の循環が低下しやすくなります。
肩こりと腰痛は患者数が非常に多い症状で、国の調査では、肩こりは女性で最も多く、男性では2番目に多い訴えとされています。原因が特定できない一次性の肩こりに加え、頸椎症・椎間板ヘルニア・肩関節周囲炎・神経疾患・内科/耳鼻科/眼科/歯科/精神科領域の病気に伴う二次性の肩こりもあります。まずは二次性の可能性を念頭に、痛みの部位と性状、頸部・肩甲帯・肩関節の可動域や筋力、デルマトームに沿った感覚、姿勢アライメント、圧痛点や筋の硬さを丁寧に評価します。必要に応じてX線・CT・MRIを行い、超音波は肩甲挙筋や僧帽筋周囲の筋膜(ファシア)の異常や圧痛部位の同定に有用です。
人類が直立二足歩行に適応した結果、肩甲帯の可動性は高まりましたが、そのぶん筋力低下や不良姿勢の影響を受けやすく、首から肩・背中の不調として現れやすくなりました。歴史的にも古くから記載があり、現在も自覚症状として上位に挙がります。頸肩の痛みの背景には、整形外科疾患だけでなく内科・循環器などの病態が隠れることがあるため、器質的疾患の見落としには注意が必要です。
肩こりの原因
肩こりの原因は大きく、はっきりした病気を伴わない一次性肩こり(本態性肩こり)と、頸椎症・椎間板ヘルニア・肩関節周囲炎など他疾患に伴う二次性肩こりに分かれます。もっとも多いのは一次性で、長時間のPC・スマホ作業や合わない作業環境で頭が前に出る姿勢が続き、僧帽筋や肩甲挙筋などが過緊張となって血流が低下し、発痛物質がたまりやすくなることが背景です。骨盤後傾や猫背など全身のアライメント不良も首・肩の負担を増やします。睡眠不足、心理的ストレス、体幹筋量の低下、眼精疲労などは悪化要因で、女性では筋の酸素化や痛みの感じやすさの違いから症状が強く出ることがあります。一方、片側の強い痛みやしびれ・筋力低下、発熱などがある場合は、神経の病気や感染・石灰沈着・血管障害など二次性の可能性を考え、画像検査などで原因を見極めます。
テレワーク×姿勢が招く肩こり ― スマホ・PC時代の負担
近年、特に問題となっている背景は、長時間のスマホやディスプレイの使用(ゲーム・動画、リモートワークでのPC作業)という現代人のライフスタイルが大きく関係しています。スマホ首というフレーズができているくらいです。2020年初旬以降、COVID-19(新型コロナウイルス)の影響で新たな生活習慣が強いられたことも状況を悪くしました。IT技術を活用したテレワークやオンライン教育の導入が加速していることを考慮すると、肩こりや腰痛の患者数は今後も増加してゆくと予想されます。肩こりは、日本で広く使われる表現で、後頸部から肩甲帯・肩周囲に生じる重だるさや鈍痛、張り感を指します。その背景には筋肉の緊張、姿勢の崩れ、心理的ストレス、ホルモン環境の変化などが関与し、筋線維内の生理学的バランスが乱れることで痛みの神経が活性化する、と考えられています。精神的ストレス(とくに職場の対人ストレス)は肩こりと関連があるという報告があり、原因と断定はできないものの、症状を悪化させる要因の一つと考えられる。近年はPCやタブレット等の情報機器(VDT)利用が増え、頭が体幹より前に出る「頭部前方位姿勢(FHP)」が首・肩の負担を高め、頸部痛や肩こりと関連することが報告されています。
FHPは、C7棘突起と耳珠を結ぶ線と、C7を通る水平線がつくる角度(CVA)がおおむね48~50度未満と定義されます。座り方・立ち方は頭頸部の位置に直結し、とくに骨盤後傾による腰椎の屈曲は、頭頸部をより前方へ押し出してFHPを助長します。立位でも、後弯前弯の強い型やスウェイバック・平背など、胸椎~骨盤の配列異常が連鎖して、後頸部構造の負荷増大や肩甲骨運動の乱れにつながることが知られています。
原因となりやすい筋と病態
肩こりに関わりやすいのは、僧帽筋(上・中・下部)、肩甲挙筋、菱形筋、頭板状筋・頸板状筋、棘上筋などです。FHPのある方は僧帽筋上部線維が過剰に働きやすく、疲労感が強く出ます。過緊張が続くと血流が低下し、ブラジキニンやヒスタミン、セロトニン、プロスタグランジンなどの発痛物質が産生され、痛みの悪循環が起こります。睡眠不足、仕事関連の抑うつ気分、体幹筋量低下、長時間のデスクワーク、眼精疲労なども発症・増悪要因です。女性では僧帽筋内の酸素飽和度や痛み閾値の差などから、症状が強く出やすいことが示唆されています。
肩こりの診察・検査
まず、痛みの部位・発症経過・就労内容(長時間の同一姿勢、VDT作業の有無)・睡眠や眼精疲労の状況を丁寧に聴取します。診察では、圧痛と筋の硬さ、頸椎・肩甲帯・肩関節の可動域、筋力、デルマトームに沿った感覚、反射、姿勢アライメントを系統的に評価します。
必要に応じてX線・CT・MRIで変性、狭窄、石灰化、感染・腫瘍の有無を確認し、神経根症が疑わしい場合は椎間孔の評価に適した撮像を追加します。超音波診断装置は、肩甲挙筋や僧帽筋周囲の異常な筋膜(ファシア)の描出や圧痛部位の同定、治療ターゲティングに有用です。発熱、進行するしびれや筋力低下、片側に限局した強い痛み、全身状態の変化などの警戒所見がある場合は、速やかな精査が必要です。
予防と生活指導
椅子に深く腰掛け背もたれを活用し、顎を軽く引いて胸を開く座位を基本にします。画面上端は目線より低く、視距離は40cm以上、キーボードは肘が90度以上で自然に届く位置に。連続作業はおおむね1時間以内とし、次の作業までに10~15分の小休止と軽いストレッチで目と体を休めます。体格に合う枕の形状と高さで頸部を中間位に保つことも有効です。心理社会的ストレスは症状を悪化させるため、睡眠・運動・リラクゼーションなど、ご自身なりのストレス対処を取り入れましょう。肩こりは、心理社会的ストレスが自律神経系を介して症状を悪化させていると考えられるため、自分なりのストレスの解消方法をもっておくことも大切です。

肩こりの治療
治療は原因・重症度・全身状態に合わせて段階的に行います。一次性の肩こりでは、運動療法が基本です。頸部・肩甲帯のストレッチ、深層屈筋のモーターコントロール、肩甲帯と頸部のレジスタンストレーニングを、痛みの少ない範囲から回数・保持時間を漸増して組み合わせます。
リハビリテーション(モビライゼーション、マニピュレーション、筋膜リリース)や物理療法(低周波治療、ホットパック)は、運動療法の効果を引き出す補助になります。
薬物療法は急性の症状緩和にNSAIDsやアセトアミノフェンを用い、慢性化して効果が乏しい場合はトラマドールやSNRI、神経障害性の要素が強ければプレガバリンやミロガバリンを検討します。また肩こりは、心理社会的ストレスが自律神経系を介して症状を悪化させていると考えられるため、自分なりのストレスの解消方法をもっておくことも大切です。
注射治療には、索状の硬結や圧痛に対するトリガーポイント注射、超音波ガイド下で生理食塩水等を注入して癒着した筋膜の滑走を回復させる筋膜ハイドロリリースがあり、症状軽減が期待できます。
参考文献)
・汐田まどか, 小児内科 Vol. 53 No. 5, 2021.
・第一三共、筋肉痛の原因、筋肉痛の症状・原因|くすりと健康の情報局 (daiichisankyo-hc.co.jp)
・渡邉 健斗,保苅 吉秀.作業療法士・理学療法士からみた「肩こりへの対応」.ペインクリニック.2025;46(4):431-438.
・新見 昌央.リハビリテーション領域における「肩こりへの対応」.ペインクリニック.2025;46(4):423–430.
・中西 一義.整形外科における「肩こりへの対応」.ペインクリニック.2025;46(4):387–396.