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肩の痛み
肩関節周囲炎(四十肩/五十肩、凍結肩)
肩の痛みや腕の上げにくさは、放っておくと拘縮が進み長引くことがあります。当院では肩関節周囲炎(四十肩/五十肩・凍結肩)への診療に力を入れており、問診・徒手検査に加えて画像検査を組み合わせて丁寧に鑑別します。炎症期は関節内注射と薬物で夜間痛の早期緩和をめざし、拘縮期は理学療法士によるリハビリテーションとホームエクササイズで可動域の回復を支えます。改善が乏しい場合は、超音波ガイド下ブロック併用のサイレントマニピュレーションや鏡視下授動術(提携病院へご紹介)まで段階的にご提案。「そのうち治るかも」と我慢せず、悪化する前にご相談ください。
肩関節周囲炎(四十肩/五十肩、凍結肩)とは
いわゆる「四十肩/五十肩」(凍結肩)は、明らかな外因なく発症する肩の痛みと関節可動域制限を特徴とする疾患です。発症は40~50歳代に多いものの他年代にもみられ、発症率は2~5%、非利き手側や両側(約20%)の罹患が比較的多いとされます。病期はfreezing(炎症期)→frozen(拘縮期)→thawing(回復期)に分かれ、日本肩関節学会は2019年に原因不明例を「凍結肩」と統一、ISAKOSは拘縮期の典型として屈曲<100°、下垂位外旋<10°、結帯L5未満を示しています。自然軽快することもありますが、長期に痛みや可動域制限が残る例もあります。
治療は保存療法が原則です。炎症期は夜間痛を含む強い疼痛が主体のため、NSAIDsや関節内注射(ステロイド/ヒアルロン酸)、内服などで除痛を優先します(早期のステロイド関節内注射は疼痛・可動域の改善と病期短縮が期待)。拘縮期は理学療法(関節可動域訓練・腱板機能訓練)を軸に、必要に応じて注射などを併用します。回復期は残存する方向の可動域制限に合わせて運動療法を継続します。診断は問診・診察(圧痛、肩甲上腕リズム、ROM)に、X線・MRI・超音波を加えて鑑別します。腱板断裂・インピンジメントとは、可動域制限のパターン(凍結肩は全方向、後者は挙上優位)が異なる点が目安です。

肩関節周囲炎(四十肩/五十肩、凍結肩)の原因
肩周囲の筋肉・靱帯・関節包・肩峰下滑液包では、加齢や体質などを背景に炎症が起こり、その結果として肥厚や線維化が進むと考えられます。病変の主座は烏口上腕靱帯(CHL)や腱板疎部、肩甲上腕関節包で、TNF-α、IL-1、IL-6、TGF-βなどの炎症性サイトカインの関与、線維芽細胞の増殖、コラーゲン沈着、血管新生が示されています。難治例では関節包に軟骨化生を伴うこともあります。発症の詳細な仕組みは未解明ですが、これらの変化が痛みと拘縮の基盤になります。
リスク要因としては、過度な使用、軽微な外傷、長時間の同一姿勢、加齢、女性、精神的ストレス、糖尿病などが挙げられますが、明確な誘因がなく発症することも少なくありません。腱板炎・石灰沈着・上腕二頭筋長頭腱炎などが引き金となり、最終的に凍結肩へ至る場合もあります。臨床的には、夜間痛が下垂位外旋制限と相関し、上腕二頭筋長頭腱と棘上筋関節面の癒着によって「dynamic sliding movement」が失われることが関与すると報告されています。

糖尿病があると“治りにくい五十肩”に
糖尿病は発症リスクであり、有病率が高いだけでなく、結合組織のクロスリンク増加による伸張性低下が病態に関与すると考えられます。保存療法・手術療法ともに反応性が乏しく難治化しやすく、関節鏡視下解離後の可動域改善も非糖尿病例に比べて不良になり得るため、治療満足度も低下する傾向があります。両肩が同時または時期を近接して痛む例があり、肩痛患者の約3割が糖尿病という報告がある。両側例では糖尿病本人または家族歴が多く、血糖・HbA1cのコントロールが症状改善に関与する。
肩関節周囲炎の症状
肩関節周囲炎は、炎症期(freezing)・拘縮期(frozen)・回復期(thawing)の3期に分かれ、それぞれで症状が異なります。
炎症期は発症初期から拘縮が形作られるまでの段階で、運動時痛に加えて安静時痛や夜間痛が強く出ます。あらゆる方向で痛みが出やすく、結髪・結帯・衣服の着脱など日常動作がしづらくなり、就寝時の痛みが睡眠障害の原因になることもあります。
拘縮期に入ると痛みは次第に軽くなりますが、関節の動く範囲が狭まり、終末域での痛みが残ります。とくに内旋・外旋がつらく、背中に手を回す・髪を整えるといった動作が難しくなります。
回復期では、痛みと可動域が徐々に改善していきますが、個人差があり、完全には元に戻らずに軽い痛みや可動域制限が残ることもあります。

肩関節周囲炎の検査
検査ではまず単純X線で、石灰沈着性腱板炎や変形性肩関節症など他疾患の有無を確認します。凍結肩そのものでは異常所見が乏しいことが多い一方、痛みや拘縮が強い例では上腕骨頭の骨萎縮や肩峰前方の骨棘がみられることがあります。超音波検査は診察室で実施でき、腱板や上腕二頭筋長頭腱の評価に有用です。
腱板断裂の可能性がある場合はMRIを行います。炎症期は滑膜や腱板疎部の炎症を反映してT2強調像・プロトン密度強調像で高信号となり、拘縮〜瘢痕期は線維化優位となって信号が低下します。造影MRIでは滑膜炎に一致した造影効果が確認でき、病期推定や病変部位の把握に役立ちます。腱板断裂が疑われる所見として、X線では大結節の不整や骨頭の上方化、MRIでは付着部の不全断裂や分層化などが挙げられます。
身体所見も併せた鑑別が重要です。凍結肩は全方向性で高度の可動域制限が特徴であるのに対し、腱板完全断裂では外旋が比較的保たれ、挙上制限が目立つことが多いという違いがあります。総合的に、問診・診察とX線/超音波/MRIを組み合わせて診断を進めます。
肩関節周囲炎と見分けるべき疾患
肩峰下インピンジメント症候群や腱板断裂が特に重要な疾患で、MRI検査が有効です。腱板に異常が見られない肩痛では、腱板疎部と腋窩嚢の炎症がないかを見る必要があります。また、滑膜炎を引き起こす疾患として、関節リウマチがあります。関節リウマチでは、腱板疎部や腋窩嚢以外の部位にも滑膜炎を伴うことがあり、関節軟骨が薄くなったり、骨髄浮腫を伴うことがあります。
肩関節周囲炎の治療
肩関節周囲炎の治療は、まず手術以外の保存的治療が原則です。鎮痛薬などの内服・外用、肩関節内注射(局所麻酔薬、ステロイド、ヒアルロン酸)、理学療法を組み合わせて痛みを抑え、可動域の回復を目指します。発症初期は夜間・明け方の強い痛みが目立ち、慢性期には挙上しづらさなどの拘縮が前面に出ます。回復期には日常生活の支障が減っていきますが、経過には個人差があります。発症3か月を過ぎても強い夜間痛が続く場合は重症化のサインとなることがあり、超音波やMRIで腱板(とくに棘上筋)の菲薄化・分層化、骨内浮腫、上腕二頭筋付着部炎症、部分断裂などを再評価します。腱板がしっかり保たれていればヒアルロン酸注射やリハビリで改善しやすく、早期からの適切な体操が重症化予防に役立ちます。
①炎症期(Freezing phase)
痛みのコントロールを最優先します。NSAIDsなどの鎮痛薬、ステロイドや局所麻酔薬・ヒアルロン酸の関節内注射を行い、就寝時は上腕から肘下にクッションを当てて肩を軽く曲げた姿勢を保つと楽になります。自己流で無理に動かす、強い徒手刺激を受けるなどは、複合性局所疼痛症候群(CRPS)を誘発する恐れがあるため避けましょう。ステロイド内服は短期・少量(目安として1日10mgを超えず、4週間以内)とし、必要に応じて休薬期間を挟みます。関節内ステロイド注射は早期ほど除痛と可動域の回復、病期短縮が期待できます。
②拘縮期(Frozen phase)
痛みが和らぐ一方で可動域制限が主症状になります。ストレッチと運動療法(挙上、下垂位外旋、結帯運動)を軸に、必要に応じて注射などを併用します。2か月以上の保存治療でも改善が乏しければ、腱板断裂などの併存病変を再評価します。難治例では、鏡視下関節包解離(必要に応じて肩峰下癒着剥離や烏口上腕靱帯切離を追加)や、超音波ガイド下C5・6神経根ブロック併用の徒手的関節受動術(サイレント・マニピュレーション)を検討します。
③回復期(Thawing phase)
残りやすい方向性の可動域制限に対して、理学療法士と相談しながら個別化した運動療法を継続します。多くは保存治療で改善しますが、半年以上の保存治療でも可動域が戻らない拘縮肩では、鏡視下授動術を手術選択肢として検討します。
なかなか改善しない場合
屈曲90°以下や内外旋の強い制限が続く、痛みが長引く場合は、初期の痛みのコントロール不足や不適切なリハビリ・マッサージが影響していることがあります。精神的ストレスや破局的思考が痛みを増強することもあるため、ストレスマネジメントを併用すると改善につながることがあります。可動域が戻っても外転時だけ鋭い痛みが続くときは、肩峰上腕靱帯の肥厚や肩峰前外側の骨棘が原因のことがあります。姿勢(猫背など)が関与するため、姿勢改善と肩甲帯の運動療法を併用し、必要に応じて鏡視下での処置を検討します。
当院の治療技術(サイレントマニピュレーション)(要時間予約)
リハビリを続けても肩の拘縮が残る場合には、まず超音波ガイド下で腕神経叢ブロックを行い、痛みを十分に抑えたうえで Silent Manipulation(サイレントマニピュレーション:非観血的関節授動術)を実施します。これでも痛みや可動域制限が残るときは、関節鏡視下での関節包切離術などの手術療法を検討し、適切な専門医療機関へご紹介します。
参考文献)
・神戸 克明.第16回 肩関節周囲炎.Loco CURE.2023;9(4):370–375.
・今井 晋二.凍結肩(肩関節周囲炎).MB Orthopaedics.2024;37(10):126–131.
・猪飼 哲夫.肩の障害とリハビリテーション診療.MB Med Reha.2023;(289):99–108.

先生から一言
肩関節周囲炎は軽く見られがちな疾患ですが、特に疼痛の強い初期に適切な治療を行わないと疼痛、可動域制限などの後遺症を残ることがあります。
抗炎症・鎮痛薬の内服と併せて、リハビリテーションが重要です。当院では熟練した理学療法士が関節の動き、疼痛の程度などをチェックし、問題点を明らかにしてリハビリを行います。