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骨粗鬆症
胸椎・腰椎圧迫骨折
胸椎・腰椎圧迫骨折とは
脊椎圧迫骨折は、背骨がつぶれてしまう骨折です。転倒やしりもちで起こることが多いですが、骨粗しょう症で骨がとても弱い人では、特に何もなくても「いつのまにか骨折」を起こすことがあります。女性の高齢者に多く見られる骨折で、近年では特に高齢化により圧迫骨折の受傷者も多くなっています。
通常、椎体圧迫骨折は2~3ヶ月で自然に治り、痛みも和らぎます。しかし、たとえきちんとサポート具(コルセットなど)の治療を行っても、完全には治らず偽関節(骨がくっつかないまま残ること)となってしまうこともあり慎重に治療を行う必要があります。

圧迫骨折は背骨が折れる骨折です
胸椎・腰椎圧迫骨折の原因
原因には以下のようなものがあります:
① 骨粗鬆症:高齢者に多く見られる症状で、骨密度が低下し骨がもろくなるため、転倒や衝撃で骨折しやすくなります。特に女性の閉経後は骨密度が低下するため、注意が必要です。
② 外傷:交通事故やスポーツ中の怪我、高所からの転落などによる直接的な衝撃も腰椎圧迫骨折の原因となります。
③ 骨腫瘍:転移性腫瘍、多発性骨髄腫など脊椎に発生した腫瘍は、骨の構造を弱め骨折しやすくすることがあります。
④ ステロイド治療:長期間にわたるステロイド治療は、骨密度を低下させ骨折しやすくする可能性があります。
これらの原因に加えて、遺伝的な要素や生活習慣(運動不足、カルシウムやビタミンDの不足、喫煙、過度なアルコール摂取など)も腰椎圧迫骨折のリスクを高めます。
胸椎・腰椎圧迫骨折の症状
「みぞおち」の後方に位置する背骨(胸椎と腰椎の遷移部)は骨折が生じ易い部位ですが、その痛みは骨盤付近の腰部に感じることが特徴です。この痛みは、寝姿勢から起き上がる動作の際に鋭烈な痛みとして現れ、一度立ち上がってしまえば痛みは比較的薄れ、歩行は何とか可能となるもので、これを「体動時腰痛」と呼びます。このような体動時腰痛が骨粗鬆症のある人に起きた場合、X線検査で骨折が明瞭に確認できなくても、骨折を疑うべきだとされています。
時間が経過すると体動時腰痛は和らぎますが、詳しく聞くと骨折が完全に治癒するまで、一瞬の痛みとして存在し続けます。また、骨折がまだ完全に治癒していない段階で活動的になると、この体動時腰痛が増悪することが多いため、注意が必要です。

背骨の圧迫骨折によって腰が曲がってしまいます。曲がった腰は元に戻らないので年を取って見えるようになってしまします。
胸椎・腰椎圧迫骨折の検査
まず胸腰椎レントゲン検査を行い、どの部位が骨折しているか、骨折の程度を確認します。骨折が微細であればレントゲンのみでは明確には見えにくいため、可能な限り早期にMRI検査を行います。
MRIによる診断は信頼性が高く、90%以上の確率で骨折を特定できます。
骨折が起きると、背骨の一部である椎体の前方部分がつぶれることが多いですが、中央部分がつぶれることもあります。中央部だけがつぶれた場合、それほど痛みを感じないこともあるため、自然に治癒することがあります。しかし、椎体の後方部まで骨折が広がると、圧壊度が高まり、痛みが強くなることがあります。さらに、足がしびれたり、動きにくくなったり、尿が出にくくなったりするような麻痺(膀胱直腸障害)が起こることもあります。時間が経つと、骨折が治らず背骨が大きく変形することがあり、その際にも遅発性麻痺が起こることがあります。
胸椎・腰椎圧迫骨折の治療
圧迫骨折の一般的な対策は、初期の1~2週間を安静に過ごし、その後は硬質のコルセットを装着しつつリハビリテーションを進めるというものです。時として、骨折の深刻さに応じてギプスを用いることも必要となるかもしれません。しかしながら、治療過程で誤嚥(飲み込み間違い)、褥瘡(床ずれ)、膀胱炎といった合併症が発生する可能性があるため、治療には長い時間が要求されることも珍しくありません。また、体勢を変えやすいベッドでの生活が推奨されます。
骨折は、背骨の椎体の後方部から回復を始めます。回復は個人によりますが、最も早い人でも骨の形成が始まるのは受傷後2週間後で、多くの人々は3~4週間後から骨が形成され始めることでしょう。そして、多くの人々が痛みが軽減することを体感します。しかしながら、背骨の前方部分が完全に回復するまで変形は進行し続けるため、一貫した治療が不可欠です。
骨折が完全に治癒すれば、動きに伴う腰痛は消失します。とはいえ、背筋が弱っているために疲労しやすく、長期的な腰痛が続く可能性があります。骨折直後の鋭い痛みとは異なり、重苦しい痛みが感じられますが、横になることで痛みはすぐに緩和し、15分から20分後には再び動けるようになることが多いです。
体を徐々に動かし慣れることが大切であり、同時にリハビリテーションを通じて筋力を強化することもまた重要です。特に背筋と腹筋の鍛錬は不可欠で、再度の転倒を防ぐためのバランス訓練も行います。全身的な回復には半年から1年を見込む必要があります。背骨の変形が大きく残っている場合、以前のような生活へ戻るのは困難となることがあります。それ故、骨折直後の最初の1ヶ月間で変形の進行を防ぐことが極めて重要となります。さらに、治療後も睡眠障害や腰痛が患者を悩ませることがあるため、元の生活に戻ることは容易ではない場合も少なくありません。
その一方で、骨粗鬆症の検査を行い、適切な骨粗鬆症薬を用いて骨の強度を増すこともまた重要です。骨粗鬆症の治療は、脊椎だけでなく、大腿骨や手関節など、他の部位の骨折予防にも寄与します。
胸椎・腰椎圧迫骨折の手術治療
そこで、1980年代からヨーロッパで始まった骨折部位に骨セメントを注入し、すぐに脊椎の安定化を図る椎体形成術(Kyphoplasty)があります。この手術は、痛みを軽減する効果が非常に優れているため、徐々にその適用範囲が広がり、現在では欧米では圧迫骨折だけでなく、多発性骨髄腫に対しても積極的に行われています。
この治療方法では、まず骨折した脊椎の中にバルーンを挿入します。そのバルーンを膨らませて押しつぶされた脊椎を元の形に戻します。その後、脊椎の内部に骨セメントを注入するのです。
この手法の特徴は、手術直後からすばらしい痛みの軽減効果が得られること、そして骨折した脊椎の形を戻すことで背中が丸くなる(いわゆる猫背、医学的には「脊柱後彎」といいます)のを治すことができることです。

椎体形成術:折れた骨をバルーンで膨らませ、中にセメントを流し込んで骨を矯正します
参考文献など)
・© 2004- 2023 Japanese Society for Fracture Repair