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腰の痛み
脊椎関節炎(SpA)
脊椎関節炎(SpA)とは
脊椎関節炎は、脊椎や仙腸関節を主に侵す慢性の炎症性疾患です。この病気は、脊椎の関節やその周辺の軟部組織に炎症を起こし、最終的には脊椎の関節が固まる強直化がみられるという特徴があります。
SpAは、国際脊椎関節炎評価学会により分類されています。この分類では、
①仙腸関節炎と脊椎に関節炎が存在する体軸性SpA
②末梢関節に優位な関節炎が存在する末梢性SpA
に分けられます。末梢性SpAには乾癬性関節炎(PsA)や炎症性腸疾患関連脊椎関節炎(IBD-SpA)、関節以外の部位の細菌感染症後に起こる反応性関節炎、いずれにも分類されない分類不能型SpAがあります。関節リウマチ(RA)とSpAは、関節炎としての症状は似ていますが、RAでは滑膜に炎症の起点があるのに対し、SpAでは靱帯や腱が骨に結合する部位「付着部」に炎症の起点があります。
脊椎関節炎(SpA)の原因
脊椎関節炎の中で最も有名な強直性脊椎炎(AS)はHLA-B27という遺伝子型との強い関連が示されています。しかし、手足などの末梢関節が主な罹患部位である乾癬性関節炎(PsA)や炎症性腸疾患関連脊椎関節炎(IBD-SpA)などの末梢性SpAは、最近の食生活での糖質や脂質の過剰摂取が原因で増加傾向にあると考えられています。またHLA-B27が陽性であることは、SpAやASの診断に役立ちますが、HLA-B27を保有している人すべてがASを発症するわけではありません。発症率はHLA-B27陽性者のうち約5~10%程度に過ぎないとされています。

脊椎関節炎(SpA)の症状・身体所見
SpAの付着部炎は無治療であっても痛みが増悪と緩解を繰り返す性質があります。ある部位に腱付着部炎が発生してもしばらくして治っては、他の部位が炎症をきたす場合もあり、「痛いところがあちらこちらに移動する」という感覚になり、関節リウマチとの鑑別に役立ちます。
脊椎関節炎はさまざまな病態を含むため、①脊椎炎・仙腸関節炎、②付着部炎・指趾炎・末梢関節炎、③爪病変、④骨・関節外症状の4つに分けて述べます。
①脊椎炎・仙腸関節炎
仙腸関節や脊椎の付着部炎があると炎症性腰背部痛を生じ、発症年齢40歳以下・徐々に始まる・運動で改善・安静で改善しない・夜間痛の5項目のうち4項目に当てはまり、3か月以上続く場合はIBPを強く疑います。末梢性SpAでも体重増加などを背景に中高年で腰背部痛を生じることがあり、仙腸関節炎では殿部痛が左右交互に出ることが多く、乾癬性関節炎では「首がこわばる」「寝違えやすい」と表現される頚部症状がみられます。診察では、仙腸関節を圧迫するNewton test、股関節を外旋して痛みをみるPatrick’s test、健側屈曲・患側伸展で誘発するGaenslen testなどで仙腸関節痛を確認し、上後腸骨棘や坐骨結節周囲の圧痛も参考になります。脊椎では棘突起上の圧痛があれば付着部炎を疑い、進行例ではSchober’s testや胸郭拡張で可動域制限を評価します。末梢性SpAの中では乾癬性関節炎が体軸病変を伴うことが比較的多く、仙腸関節炎を伴わず頚椎・腰椎に非連続の病変だけを示す例もあり、診断にはCASPAR基準がよく用いられます。
②付着部炎・指趾炎・末梢関節炎
腱や靱帯の付着部に圧痛があれば付着部炎を疑い、関節裂隙に圧痛があれば関節炎を疑います。付着部炎の診察では、体軸や四肢の関節だけでなく、胸鎖・胸肋関節や大転子、骨盤帯、恥骨結合、坐骨結節なども触診して圧痛を確かめます。アキレス腱付着部炎や足底腱膜炎では、片側性に踵の腫脹や圧痛が認められることが多いです。
指趾炎は腱鞘滑膜炎が主体で、典型例では指趾がソーセージ様に腫脹し、関節部の皮膚が紫がかっていることもあります。腫脹が目立たない症例では、超音波検査による観察が有用です。末梢関節炎では、四肢の関節に疾痛や運動制限が起こり、片側性のこともあります。指趾の関節炎は、PsAでは指の第一関節(DIP関節)にも病変がみられ、X線や超音波検査が有効です。
③爪病変
爪の変形は、伸筋腱が付着する末節骨の炎症(付着部炎)が爪母や爪床まで波及して起こると考えられており、乾癬のある人ではとくに仙腸関節炎との関連が指摘されています。乾癬患者では、このような爪病変が関節症状の出現と最も関係するとされています。爪の変化としては、爪母の病変による点状陥凹・横溝・縦溝・粗造化・白斑などと、爪床の病変による爪甲剥離・爪甲下角質増殖・線状出血・油滴状変化などがあり、これらが組み合わさっていれば爪乾癬と考えてよいとされています。一方で爪白癬との鑑別は難しく、両方が合併することもありますが、白癬では爪表面に光沢があり欠けにくいため、欠けがあれば爪乾癬の可能性が高くなります。若年者では手の爪は正常で足の爪だけが変形していることも少なくありません。
④骨・関節外症状
SpAの骨・関節外症状としては、まず皮膚の変化がみられ、踵や足底、足趾に角化が目立つほか、境界がはっきりした紅斑の上に銀白色の鱗屑を伴う乾癬様皮疹が頭皮や髪の生え際、耳のまわり、肘・膝の伸側、殿裂部や鼠径部、肛囲などに出ることがあります。眼では前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)を起こし、眼痛やまぶしさ、充血、視力低下を訴えることがあります。消化管ではクローン病や潰瘍性大腸炎と診断されていなくても、腸粘膜の軽い炎症により軟便や下痢気味の状態が続くことがあります。さらに心血管系の合併として、心筋伝導異常に伴う不整脈や、大動脈弁閉鎖不全をきたす場合もあります。

脊椎関節炎(SpA)の検査
血液検査
SpAでは、血沈やCRPなどの急性反応蛋白が炎症に伴って上昇します。MMP-3も、関節炎の活動性指標として有用です。しかし、疾患活動性が高い時期であっても、これらの炎症マーカーの上昇が認められない症例も多いです。リウマチ因子(RF)や抗シトルリン化ペプチド(CCP)抗体、抗核抗体は通常陰性ですが、RFや抗CCP抗体が陽性となるSpA症例も稀ではありません。PsAでは、増加したサイトカインの影響でインスリン抵抗性やメタボリック症候群の有病率が高く、高脂血症や耐糖能異常、高尿酸血症が見られます。
X線写真
胸椎・腰椎は2方向、仙腸関節は正面+斜位の3方向が基本で、頚部症状があれば頚椎側面を追加します。脊椎のX線では、付着部炎に始まる変化として椎体縁のびらん(Romanus lesion)、その後の硬化(shiny corner)、椎体の方形化、さらに靱帯骨棘(syndesmophyte)や椎間関節の強直がみられ、進行例ではbamboo spineやAndersson lesionを呈することがあります。仙腸関節炎の判定には改訂ニューヨーク基準を用いますが、正面像だけでは分かりにくいため、斜位像やCT・MRIの併用が勧められます。末梢関節では、RAがびらんでとどまるのに対し、SpAでは付着部炎に続いて骨形成・骨増殖が起こる点が特徴です。
MRI・CT
体軸性SpAの評価にはMRIが有効で、STIR像で高信号・T1強調像で低信号を示す骨髄炎・骨髄浮腫・骨炎を確認できます。ASAS分類基準では、①改訂ニューヨーク基準を満たすX線上の仙腸関節炎、または②仙腸関節炎を強く示唆するMRI所見のどちらかが必要です。ただし仙腸関節のMRI所見は健常人や他疾患でも見られるため、決定的所見にはなりにくいです。脊椎では椎体隅のSTIR高信号(Romanus lesion)が3か所以上あり、骨棘やSchmorl結節を伴わない場合は体軸性SpAを疑います。また若年成人で椎体終板周囲にT1高信号・STIR低信号の脂肪変性がある場合も示唆的です。
一方CTは炎症自体は描出しにくいですが、骨びらん・硬化・関節裂隙の狭小化・骨棘などの骨変化を明瞭に捉えられるため、仙腸関節での骨びらんなどを確認する際に有用です。
脊椎関節炎(SpA)と鑑別すべき疾患
体軸性SpAに特異的な臨床症状や臨床検査、画像所見は存在しないことを理解し、鑑別すべき疾患を念頭に置いてASAS分類基準などにより診断を進めることが重要です。鑑別を要する疾患は、SAPHO症候群・掌聴膿庖症性骨関節炎(PAO)、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、びまん性特発性骨増殖症(DISH)、硬化性腸骨骨炎、OA・変形性仙腸関節症、化膿性脊椎炎・転移性骨腫瘍などです。しかし、SpAとこれら鑑別すべき疾患(特にOAやDISH)が重複している症例も多いので、総合的な判断が必要になります。
脊椎関節炎(SpA)の治療
①リハビリテーションと疾患教育
脊椎の強直や付着部炎に対する理学療法や作業療法が推奨されており、ストレッチなどの筋肉の柔軟性低下を予防する運動は、症状の緩和だけでなく関節可動域や姿勢の維持に効果があります。また、急に動いたり、前屈みや長時間同じ姿勢を取るのを避け、体を冷やさないようにするなどの生活指導が必要です。病気に対する不安や生活上の精神的ストレスもSpAの病態を悪化させる可能性があり、カウンセリングが必要な場合もあります。
②薬物療法
脊椎や仙腸関節の体軸関節病変に対しては、付着部炎に関与するPGE2の生成を抑制するため、ロキソプロフェンなどのNSAIDsを使用し、効果があれば継続することが推奨されています。NSAIDsはASの脊椎における靱帯骨棘の進行を抑制するという報告があり、疼痛時に頓用するのではなく継続使用を推奨されています。通常2種類以上のNSAIDsを投与しても効果が不十分な場合には、TNFα阻害薬やIL-17a阻害薬の生物学的製剤を使用します。炎症性腸疾患やぶどう膜炎がある症例では、TNFα阻害薬が望ましいです。またJAK阻害薬もASやPsAに対する有効性が示されています。メトトレキサート(MTX)はPsAに保険適用があり、末梢関節炎に対しては有効ですが、PsAの体軸病変やASに対しては無効です。ステロイドの全身投与は無効とされていますが、末梢関節への関節注射は有効とされています。
③生活習慣の改善
糖質や脂質の過剰摂取による体重増加や肥満は、PsAをはじめとするSpAの病態を悪化させ、治療反応性を低下させることが知られています。SpAに合併するOAやDISHについても、SpAと同様に肥満や脂質異常症、糖尿病などが発症や進行のリスクとなるため、生活指導による体重のコントロールが大切です。RAと同様にSpAでも、喫煙は薬物療法の反応性を低下させ、予後に影響を与えるので禁煙指導を行います。過剰なアルコール摂取が、PsAの発症リスクを増加させるとする報告もあります。また、PsAでは乾癬関連疾患と言われる、耐糖能異常や高尿酸血症、脂肪肝、メタボリックシンドローム、冠動脈疾患、うつなど炎症誘導性サイトカインが関与する疾患を合併することが多く、あわせて検査する必要があります。
参考文献)
・MB Orthop. 36(9): 67-78, 2023 特集: 実地医家は腰背部痛をどう診るか 脊椎関節炎による腰背部痛の診断と治療