DISEASE DETAILS 疾患一覧
スポーツによる障害
足底腱膜炎
足底腱膜炎(Plantar Fasciitis)とは
足底腱膜はかかとの骨(踵骨:しょうこつ)から足の指にかけて足底部にテントのように張っている腱組織です。この組織が炎症を起こし、立っているときや歩行時に疼痛をきたす疾患が足底腱膜炎です。足底腱膜炎は日常で出会うことが多い疾患であり、必ずしも強い負担がかかっていなくても発症することがあります。とくに負担がかかっていなかったのにどうして?と言われる患者さんが多い印象です。40代から60代の方に多く見られ、肥満の方や長距離歩行、硬い路面で立ち仕事をする職業の人々に多く発生します。

足底腱膜炎の原因
歩行やスポーツをする際に、足底腱膜やその踵骨の付着部分に繰り返し引っ張る力がかかることで、腱が微細に断裂し、痛みが生じるとされています。慢性的な炎症が続くと、腱の組織が変性し、長期間痛みが続く原因となります。
スポーツ障害の一種でもありますが、実際には運動量の少ない中高年(特に肥満の方)に多く発症することが知られています。米国の報告では、10人に1人が足底腱膜炎を経験したことがあるとされており、肥満との関連が深いと考えられます。
足底腱膜炎の症状
立位、歩行開始時、歩行時、走行時に足底の疼痛が出ます。とくに中年期以降の女性に多く見られます。起床時や長時間安静後の最初の一歩に拍動性の疼痛が認められます。疼痛は歩行を続けると一旦減少しますが、長時間歩行すれば再び出現してくるという特徴があります。
足底腱膜炎の検査
問診では、スポーツ経験や日常生活での動作、どのような動きで痛みが強まるかをお聞きします。また、職業や日常生活でで長時間立ったり歩いたりすることも重要な発症因子となります。身体診察では圧痛部位の確認が重要で、踵骨隆起の内側と足底腱膜に沿って認められます。他動的に足関節の背屈と母趾の伸展を行うと足底腱膜に疼痛が誘発されます。
X線検査では、踵骨に足底腱膜が付着している部分に骨棘(骨のとげ)があるかを確認します。かかとの骨の骨棘と足底腱膜炎との関係については、「Heel Spur Syndrome」と呼ばれることもありますが、骨棘を除去するだけで治るわけではないため注意が必要です。「とげをとったら治るんですか」という質問はとてもよくされるのですが、必ずしもそうとは限りません。他にも、非荷重の足部正面像・斜位像、荷重正面像・側面像を撮影することによって足部の変形(凹足、扁平足)・骨萎縮の有無などのリスク因子のチェックも行うことができます。
超音波画像では、足底腱膜の肥厚と足底腱膜内の低エコー像が特徴的な像です。MRI画像では、T1強調画像で足底腱膜の肥厚、脂肪抑制T2強調画像で足底腱膜内、足底腱膜周囲の踵骨付着部骨髄内などの高信号が特徴的です。

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足底腱膜炎の治療
痛みが強い時期(炎症期)には局所安静、アイシング、抗炎症鎮痛薬(ロキソニンなどのNSAIDs)が有効です。しかし最も重要なのはストレッチによる腱の柔軟性の改善です。当院では理学療法士の指導の元、医学的ストレッチを行うことができます。足底腱膜や下腿三頭筋の拘縮は、痛みや発症の要因となるため、ストレッチによる柔軟性の向上が不可欠です。足趾や足関節を背屈させる静的ストレッチや、腱膜・下腿筋膜へのダイレクトストレッチは、痛みの軽減に有効とされています。
また、段差を利用した踵の上げ下げ運動(ダイナミックストレッチ)も効果的です。この際、足趾の下にタオルを置き、踵を上げる際に足趾が伸展することでwindlass機構が強く働き、足底腱膜への伸張効果を得られます。特に非付着部型の症例では、ストレッチが重要とされています。
付着部型の症例では、扁平足や後方重心の改善のために筋力強化訓練も必要です。アーチを強化するためには、タオルギャザーや踵上げ運動で足趾底屈筋群や後脛骨筋を鍛えることが推奨されます。また、重心移動をスムーズにするために、殿部や体幹の筋力訓練を行うことも効果的です。
肥満がある方は減量する努力も必要です。

荷重時に足部アーチを安定させるために、アーチサポートやヒールパッドを使用することがあります。特に踵部の痛みが強い部位には、ヒールパッドを活用することで症状の軽減が期待されます。
局所の痛みが強い場合には、ステロイドの局所注射が行われます。ステロイド注射は、炎症を抑えることで高い鎮痛効果を発揮し、即効性があります。しかし繰り返し使用すると無効になるケースも少なくあり、腱膜断裂や脂肪体萎縮のリスクがあるため、漫然と実施することは避けるべきです。
また近年、体外衝撃波療法(ESWL)が効果的であるとの報告が増えています。当院では対外衝撃波は採用していませんが、今後の導入を検討しています。
足底腱膜炎の手術治療
上記の保存的治療を6か月以上行っても効果が見られない難治例に対しては、足底腱膜切離術や腓腹筋退縮術といった手術療法が選択されます。一般的には、手術へ移行する例は決して多くありません。
①足底腱膜切離術(PF)
直視下または鏡視下で足底腱膜の内側を部分切除し、踵骨棘の切除を行います。鏡視下手術の術後経過として、全荷重歩行は平均約14日後、スポーツ復帰は約11週後と報告されています。
②腓腹筋退縮術(GR)
腓腹筋内側頭の拘縮によって足関節の背屈制限が認められる症例に対して、直視下または鏡視下で腓腹筋筋膜の切離を行います。これにより足関節の背屈制限が改善し、踵部の痛みが軽減されます。
参考文献)
・日本医事新報No.50672021.6.5.
・足底腱膜炎の診かた. 高橋謙二. MB Orthopaedics 36(3): 9-16, 2023.

先生から一言
足底腱膜炎は日常でよく見られる疾患です。思い当たる症状がなく発症することも多く、歩き始めの足底の疼痛はまず本疾患を疑います。ストレッチが有効な治療なのですが、一人で続けることはなかなか難しいものです。当院では理学療法士と二人三脚で、医学的ストレッチを実践いたします。