DISEASE DETAILS 疾患一覧
首の痛み
頚椎椎間板ヘルニア
頚椎椎間板ヘルニアとは
頚椎間板ヘルニアとは、椎間板の内部のクッション組織(髄核または線維輪の一部)が内部を包む袋である線維輪をやぶって外に漏れ、脊髄や神経根を圧迫し、手のしびれや筋力低下などの神経症状(脊髄症や神経根症)を引き起こす疾患です。40~60歳代の男性に多く、比較的急性の発症と進行が特徴的でです。
ヘルニアは脊椎のクッションである椎間板が後方に飛び出し、神経を圧迫する病気です
頚椎椎間板ヘルニアの原因
頚椎椎間板ヘルニアの原因は不明な点も多いですが、いくつかのリスク因子が提唱されています。
①加齢:椎間板が加齢とともに摩耗し、ヘルニアのリスクが増加します。椎間板が破れやすくなり、その中身の髄核が外に飛び出るリスクが高まります。
②椎間板への急激なストレス:自動車事故やスポーツ中の衝撃など、急激な力が首に加わると椎間板に強い衝撃が加わり、中身が飛び出します。
③椎間板への持続的なストレス:長時間にわたる過度な姿勢(例えば、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用)、重いものを持つ作業、反復的な動作などは、首に持続的なストレスとなり、それがヘルニアを起こすことがあります。
④遺伝的な要因:発症には生活習慣のみならず遺伝的な要因が関与している可能性もありますが、不明な部分も多いようです。
⑤生活習慣::喫煙や肥満はリスクを高めます。喫煙は体の組織の健康に悪影響を及ぼし、肥満は、首や背中に過剰なストレスを変えてしまいます。
スマホを見続ける姿勢は、椎間板に持続的なストレスがかかっています。ヘルニアの発症のリスクになります。
頚椎椎間板ヘルニアの症状
(頚部局所症状)
頚部、肩甲骨周囲、肩関節に痛みが起こり、運動範囲に制限が認められます。
(神経根症状)
一般的には片側の上肢に放散する痺れを伴う痛みがあり、徐々に障害が起きた神経根のレベルに合致した痺れ、知覚障害、筋萎縮、筋力低下が発生します。頚椎を横に曲げたり後屈させると、症状が再現されるか、悪化することがあります(Jacksonテスト、Spurlingテストと呼ばれます)
(脊髄症状)
上肢、体幹、下肢の痺れ、知覚障害、手指の巧緻運動の障害(細かい動作がしにくい、ボタンがかけにくいなど)が現れ、症状が進行すると歩行障害や膀胱直腸障害(尿や便が出にくい)を引き起こすことがあります。
頚椎椎間板ヘルニアと鑑別すべき疾患
以下のような疾患があげられます。
・頚椎症、頚部脊柱管狭窄症、後縦靭帯骨化症、脊髄腫瘍などの他の頚椎周辺の疾患
・絞扼性神経障害:手根管症候群、肘部管症候群、胸郭出口症候群など
・帯状疱疹による末梢神経障害
・Pancoast腫瘍(肺尖部の悪性腫瘍)によ末梢神経障害
・糖尿病性末しょう神経障害
・運動ニューロン疾患(比較的稀)
頚椎椎間板ヘルニアの診察所見
①神経根症状
SpurlingテストやJacksonテストなどの誘発テストが陽性、圧迫されている神経根に一致した深部腱反射の減弱、筋力の低下、分節的な知覚障害が見られます。
②脊髄症状
中枢神経そのものが圧迫される脊髄症の場合、圧迫される脊髄の髄節は神経根に比べて約1髄節低い位置にあります。灰白質障害による髄節徴候として、障害髄節の深部反射の減弱、筋力の低下、しびれや知覚鈍麻が見られます。また、白質障害による索路徴候として、Hoffmann徴候、下肢腱反射亢進、知覚障害、膀胱直腸障害(尿や便が出しにくい)などがみられます。
頚椎椎間板ヘルニアの画像検査
① 単純X線
ヘルニアそのものはX線検査ではうつりません。障害が生じている椎間において、椎間腔の狭小化が見られることがあり、診断の助けになります。また変形性頚椎症など他の疾患の診断のため、基本となる検査です。
② MRI
脊柱管内に膨出した椎間板や遊離した椎間板組織と、それによる脊髄や神経根の圧迫が観察されます。膨出した椎間板ヘルニアと頚椎症によるものとの鑑別が重要となります。神経根症の横断像では、脊柱管外側や椎間隙に異常が見られます。椎間板が突出していても必ずしも診断がヘルニアになるわけではないことには注意が必要です。症状のない人でもMRIで椎間板の突出が認められることはよくあります。
MRIで突出した椎間板が確認できます
頚椎椎間板ヘルニアの治療
神経根症の予後は比較的良好で、保存療法が主な治療方針です。
安静、頚椎ネックカラー装具、投薬加療があります。投薬治療としてはプレガバリン(リリカ)、ミロガバリン(タリージェ)が有効です。SNRIなどの抗うつ薬も選択肢として挙げられます。温熱療法の併用も効果的とされています。激しい疼痛があれば、神経根ブロックを検討します。神経根の症状はおおむね発症から4か月の間で改善しやすいことが知られています。頚椎カラーに夜頚部外固定も有効ですが、長期的に使用すると頚部周囲の筋萎縮を招くので、漫然とした長期使用は勧められません。
上記のような保存治療で症状が改善ないし消失したときは手術を受ける必要はありません。
頚椎椎間板ヘルニアの手術治療
麻痺、肩関節の挙上障害や手の筋肉の機能障害が見られる場合、脊髄症で麻痺や歩行障害がでている時は保存治療にこだわってはいけません。症状が痺れのみでも、投薬が効かず、日常生活に支障が出る強い痛みがあれば手術を検討します。特に急激に進行する四肢麻痺や重度の膀胱直腸障害を呈しているときは緊急手術の適応となります。
手術療法は、前方除圧固定術、脊柱管拡大術などがあります。当院では手術が必要と判断した場合は保存療法に固執せず、習熟した脊椎外科医の在籍している連携病院に速やかにご紹介します。
参考文献)
・土井田稔. 日本医事新報. 50892021.11,6. p41-42.
・Washington University in St. Louis. Cervical Disc Herniation, Cervical Radiculopathy and Cervical Myelopathy.
先生から一言
頚椎椎間板ヘルニアは投薬で症状が改善することも多いですが、麻痺や歩行障害などが出現した場合は手術を検討しなくてはなりません。当院は脊椎・脊髄外科専門医のいる病院と連携して治療にあたっています。