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けが(外傷)
骨挫傷
骨挫傷とは
骨挫傷とは、骨皮質の断裂や転位を伴わない骨梁の微細骨折を指します。通常、単純X線写真では確認することができません。骨損傷の重症度は、完全骨折、不全骨折、骨挫傷の順になります。単純X線写真で所見が認められない骨挫傷は、MRI、CTによって診断されることが多くなります。
骨挫傷は最も軽傷な骨損傷で、単純X線のみでは見逃されるので、頑固な痛みが長引く疼痛ではMRIを撮影する根拠となります。骨挫傷はまず膝関節で報告され、その後、足、手首、股関節などの部位でも続けて報告されてきました。
骨挫傷の原因
とくにスポーツで患部に強い衝撃が加わった際などに、骨内部に衝撃が伝わることで発症します。本山達夫先生が患者さんに説明されるときは、「机を強く叩いても表面にはダメージがないように見えるが、じつは奥が傷んでいるような状態」と説明されているそうで、なるほどと思いました。また骨挫傷は骨折の一形態であるので、骨粗鬆症が背景にあると起こりやすくなります。
骨挫傷の自然経過はさまざまであり、多様な帰結を取るとされます。具体的には、①骨髄の浮腫のみが認められ、やがて自然に消退する単純な「骨挫傷」、②靱帯損傷を含む複合損傷の一部として現れる場合、③潜在骨折の初期所見として現れる場合があげられます。
骨挫傷が発生しやすい代表的な受傷部位
①膝関節の靱帯損傷に関連する骨挫傷の特徴
前十字靱帯(ACL)の断裂時には、特徴的な骨挫傷の分布が見られます。ACLが完全に断裂すると、その役割である脛骨の前方転位を防ぐ機能が失われます。この状態に下腿の外旋力が加わることで、大腿骨、特に外側顆と脛骨平原後方が衝突し、「kissing contusion」と呼ばれる所見が現れます。
骨挫傷が発生した大腿骨外側顆(特に外側半月板前節が接する生理的陥凹である外側大腿陥凹に一致する部位)は、その後骨吸収を示し、局所的に陥凹が深まる場合があります。この「深い外側大腿陥凹」は、以前のACL断裂を示唆する二次的所見の一つとなります。
後十字靱帯(PCL)の断裂の場合には、ACL断裂とは逆に、脛骨の前方および大腿骨の後方にbone bruiseが見られることがあります(図6)。しかし、PCL完全断裂は主に転落や交通事故といった高エネルギー外傷による場合が多く、多くのケースでは靱帯内損傷による不完全断裂が認められます。そのため、PCL完全断裂によるkissing contusionに遭遇する頻度は少ないです。
内側側副靱帯(MCL)の断裂は、4本の十字靱帯および側副靱帯の中で最も発生頻度が高い靱帯損傷です。この場合、下腿の外反力によってMCLが損傷することが多く、結果として大腿骨外側顆と外側脛骨高原が衝突し、骨挫傷が認められることがあります。
②膝蓋骨外側脱臼による骨挫傷
膝蓋骨は外側に脱臼することが多く、その整復時に膝蓋骨のmedial facetと大腿骨外側顆側面が接触することで剪断力が生じます。この結果、表層の軟骨層や軟骨下骨が剥離骨折を伴い、その直下に骨挫傷が生じます。この損傷は10歳代前半の女子に多く、特にスポーツ外傷として発生することが多いです。また、習慣性膝蓋骨脱臼に伴う場合も多く、再発が頻繁に見られます。
受傷直後には、関節血症による膝の腫脹や疼痛が生じ、膝蓋骨の内側部に限局した圧痛がみられることが一般的です。単純X線写真で微細な剥離骨片が確認できれば診断の手助けになりますが、大腿骨などとの重なりのため確認できないこともあります。また、患者が膝蓋骨の外側脱臼を自覚していない場合もあります。MRIで膝蓋骨のmedial facetと大腿骨外側顆関節面の双方に骨挫傷が認められた場合、この病態を疑うことができます。
③尺骨突き上げ症候群(Ulnocarpal Impaction Syndrome)
手首の骨損傷においてMRIが診断に大きく寄与する疾患の一つに、尺骨突き上げ症候群があります。この疾患は、尺骨の長さが橈骨よりも長い(ulna plus variant)ために、手関節尺側(小指側)に痛みが生じる状態です。尺骨の相対的な延長は、橈骨短縮や尺骨頭の背側脱臼などによって引き起こされます。また、Colles骨折などの前腕遠位骨折後に整復が不十分で、橈骨の短縮や橈側・背側偏位を伴う変形治癒が見られる場合にも発生します。
MRIでは、尺骨の突き上げによって月状骨に骨挫傷が認められることがあります。また、三角線維軟骨複合体(TFCC)の損傷の有無もMRIで確認することができます。
骨挫傷の症状
骨挫傷の主な症状は受傷部位の疼痛、可動域制限です。骨挫傷そのものでは関節の腫脹は起こりませんが、骨の周囲の筋肉、軟部組織の腫脹によって腫れることが多いです。
骨挫傷の検査
単純X線検査では検出できず、MRIが有力な検査となります。思いがけず強い痛みが長引くときは、レントゲンを撮って骨折がありませんね、で済ませずMRI検査を検討する必要があります。
骨挫傷は直達外力や骨同士が衝突した部位において、MRIで地図状や境界が不鮮明な異常信号域として描出されます。T1強調像では周囲の骨髄より低信号を示し、T2強調像では高信号を示します。MRIの異常信号は、通常、数カ月から最長2年ほどで消失します。ただし、長期経過後には罹患部位に骨吸収が起こり、軽度の皮質陥凹が見られることがあります。また、関節面の場合には、関節鏡で軟骨面の軟化や粗造面が確認されることもあります。
骨挫傷の治療
骨挫傷は一過性のものであり、通常、経過観察を行うことで障害や変形を残すことなく治癒します。しかし特に下肢の骨挫傷で無理に運動を続けると骨が圧壊して、手術加療が必要な状態となることもあるため、安静は必要です。
岩田らは膝関節骨挫傷に対してカルシトニン(骨粗鬆症の治療薬)が早期治癒に有効であったと報告しています。しかし骨挫傷に対しては保険適応外であり、使用可能なケースは限られると考えます。
参考文献)
・新薬と臨床. New Rem. &Clin.Vol.62 No.22013(229)109. 膝関節骨挫傷に対するカルシトニンの使用経験
・本山達男.膝の骨挫傷単独例についての検討.整形外科と災害外科.64(2),2015,254‒7.
・新津守ら. 埼玉医科大学放射線科. 臨床画像 31(3): 369-378, 2015.