DISEASE DETAILS 疾患一覧
首の痛み
むちうち(外傷性頸部症候群)
むちうちとは
自動車事故後に首や肩の周囲に痛みがでると、一般的に「むちうち(むち打ち)」と呼ばれます。このむちうちは、「後から発症する」、「症状が長引く」、「治らない」といった特徴があります。むちうちによる発症メカニズムがはっきりとしていないことや、治療効果が得られない患者さんが存在することもあり、治療が長引きやすい傾向にあります。ちなみに、むちうちは医学的には「外傷性頸部症候群」と呼びます。
むちうちという言葉は、その受傷機転が「鞭のしなり方」から来ていることに由来すると言われています。今ではヘッドレストが全ての自動車に標準装備されており、激しく首がしなることはほとんどありませんが言葉の名残として残っています。「頸椎捻挫」も医学的にはほぼ同義的に扱われている印象です。
むちうちの原因
「むちうち」による頸部痛の主な原因は、被追突衝突時に頸椎が過伸展することで発生する頸椎椎間関節の衝突と考えられています。この衝突によって関節内の滑膜ヒダが刺激を受け、滑膜炎を起こし、受傷から時間が経つにつれて徐々に頸部痛を自覚するようになると推測されます。
一方で、ある報告によると、受傷直後は約60%の人が頸部痛を訴え、6時間以内に65%、24時間以内に93%、72時間以内には100%の人が頸部痛を訴えるようになります。これは、約40%の患者が時間が経過するにつれて頸部痛を自覚することを意味します。この時間差で症状を自覚したり、増悪するという現象を説明する一つの答えとして「筋肉のスパズム(持続性筋緊張)」が考えられます。受傷による軽度の痛みが筋収縮を引き起こし、それによる血行の循環不全がさらなる痛みを引き起こすという状態です。これは、頸肩腕症候群や筋膜性腰痛症、筋緊張性頭痛などと同じ病態です。
むちうち損傷の症状
「むちうち」の症状は頸部痛だけでなく、頭痛やめまい、耳鳴り、吐き気など多彩なバリエーションを示します。これらの症状は自律神経系の異常として、バレー・リュー症候群といわれます。原因は明らかではありません。
松本らの報告によると、「むちうち」の自覚症状の頻度は、頸部痛が94%、肩こりが63%、頭痛が47%、嘔気が19%、めまいが8%とあり、圧倒的に頸部痛や肩こりなど頸部周囲の症状が中心です。多くのむちうち患者さんは受傷直後は後頸部周囲の疼痛があり、頭痛やめまい、嘔気などは徐々に、付随する症状として聞かれることが多いです。
低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)に要注意
脳脊髄液減少症(低髄圧症候群)は交通事故などの体への衝撃によって脊髄の硬膜が破れ、脳脊髄液が持続的・ないし断続的に漏れ出すことによって脳脊髄液が減少し,頭痛(特に起立時)、頚部痛、めまい、耳鳴り、不眠、倦怠感、記憶障害などさまざまな症状を呈する疾患です。本疾患は定まった検査、診断基準がなく、交通事故後の頚椎捻挫でこれらの症状があっても見過ごされていることもあります。
本疾患を疑った場合は速やかに脳神経外科医、神経内科医の診察を受ける必要があります。ブラッドパッチ療法という治療法があります。
むちうち損傷の検査
自覚的な所見が中心となるむちうちでは、特徴的な画像所見はありません。単純X線側面像で見られる頸椎の直線化(ストレートネック)や後弯は、むち打ち後の所見とよく説明されますが、正常な頸椎でも半数程度見られます。したがって、ストレートネックの多くは病的な意味を持たないと考えられています。
一方で、MRIは軟部組織の外傷による内出血や浮腫などを鮮明に描出できるため、X線撮影では診断できない微細な骨折などの診断に有用です。
むちうち損傷の治療
治療では、筋肉をリラックスさせ、「筋肉の持続性筋緊張」を予防・改善させることが重要です。特に頸部周囲の可動域制限を改善することが重要であり、早期に可動域を回復させることができれば、自然と筋リラックスが促され、患者の頸部症状は改善することが多いです。逆に、十分な可動域を得られない患者では、頸部痛が悪化し、多彩な症状が現れ、慢性化する傾向があります。患者が十分な可動域を得ることで、筋リラックス→血行改善→疼痛物質の排出→筋リラックスという好循環が生まれると考えられます。
頚椎を安静に保つための固定は長期に使用しないほうが良いことがわかっています。ケベック分類に基づくと、軽度のケースでは頸椎カラーや安静は不要で、やや重度の場合でも頸椎カラーを72時間、安静を4日以内にとどめ、その後は痛みの範囲内で頸椎自己運動を速やかに開始し、他の治療法と組み合わせることが推奨されています。
日常診療では、時に「むちうち」の患者が、時間外外来で処方された首用サポーターを長期間にわたって大切に使っているのを見かけます。数日間ならば問題ありませんが、数週間も続けている場合、頸部痛、特に運動時の痛みが顕著に悪化していることが多いです。これらの患者は、事故後の頸部痛には「安静」が重要だと誤解されがちです。
実際の治療では、症状に応じて鎮痛薬や筋リラックス剤、抗不安薬、抗うつ薬(SNRI)の早期投与が有効です。外用薬は、運動療法時に併用できる軟膏やローションを処方します。トリガーポイントブロック注射も疼痛に対しては有効です。リハビリテーション室での温熱療法や牽引などの物理療法、運動療法も有用ですが、それだけでは不十分であり、患者自身による自己運動を中心としたストレッチングなどの生活指導が重要です。
長引くむち打ちはどうする?
むち打ちは通常、3~6か月程度の治療期間となります。6か月以上続くような長引くむち打ちは、頸部を過度に安静にしていた方が多いとされます。受傷から半年以上経過していなくても、3~4カ月が経過し、強い後頸部痛を訴える患者を診察すると、頸椎の可動域が大きく損なわれていることが多いです。また、頸部痛だけでなく、頭痛や嘔気、めまいなどの複雑な症状を伴うこともあります。後頸部周囲の筋肉の緊張が高く、硬い索状のしこりも触れることがあります。
治療には、内服薬や物理療法に加え、自動運動や他動運動による頸椎や肩関節のストレッチングを行います。疼痛点に対するトリガーポイントブロックを併用すると効果的です。