DISEASE DETAILS 疾患一覧
肘の痛み
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)
こんな症状の方はご来院ください
- 物を「つかんで持ち上げる」「タオルを絞る」「ドアノブを回す」と肘の外側がズキッと痛む
- カバンをもちにくい、ペットボトルのフタを開けにくい
- 手首を反らす・マウス操作・フライパンを振る・草むしりなどの反復動作で痛む
- 肘の外側のあたりを押すとピンポイントで痛みがある
- 朝より午後~夕方に痛みが強くなり、仕事や家事がしにくい
阪急宝塚線「三国駅」南口から徒歩1分、国道176号線沿い。41台分の駐車場あり(無料駐車券を発行)
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)とは
テニス肘は、テニスのバックハンドなどの反復動作で起こりやすい、肘の外側(上腕骨外側上顆)に生じる障害です。手首や指を伸ばす筋肉、とくに短橈側手根伸筋の腱が骨に付着する部分に負担がかかり、炎症だけでなく腱の変性が起こることで、肘の外側から前腕の甲側にかけて痛みを生じます。手首を反らす(背屈)・物をつかんで持ち上げる・前腕を回外する動作で痛みが強くなるのが特徴です。
治療は、まず痛みを悪化させる動作を控え、患部の負担を減らして炎症を鎮めます。次に、痛みが落ち着いてきたらストレッチや筋力トレーニング(前腕の伸筋群・握力・肩甲帯の安定化など)を段階的に行い、再発しにくい状態を目指します。十分な期間の保存療法でも改善が乏しい場合には、注射や装具の併用、最終的に手術治療を検討することがあります。痛みが長引く、夜間も痛む、日常生活や仕事に支障が大きい場合は、早めにご相談ください。

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の原因と起こりやすい動作
テニス肘は30〜50歳代に多くみられ、テニスやバドミントン、ゴルフなどのラケットスポーツに限らず、仕事や日常生活での反復動作でも生じます。たとえば、ドライバーの長時間使用、重い物を運ぶ作業、草むしりなどで前腕の使い過ぎが続くと発症しやすくなります。
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の病態(難しい内容なので、読み飛ばしても大丈夫です)
病気の中心は「炎症」よりも、手首や指を伸ばす筋肉、とくに短橈側手根伸筋(ECRB)の腱が上腕骨外側上顆に付着する部分で起こる微小な断裂や変性です。腱付着部は神経や血管が少ないため修復力が弱く、負担が繰り返されると修復不全と再損傷を繰り返して、症状が長引いたり難治化したりします。組織学的には血管線維性過形成がみられる慢性腱症の一種と考えられています。 主病変はECRB起始部ですが、回外筋、長橈側手根伸筋、総指伸筋、小指伸筋、尺側手根伸筋などが関与することもあります。スポーツの反復動作、楽器演奏、タイピング、重量物の取り扱いなどで過負荷が続くと、腱に微小断裂が生じ、変性が進みます。喫煙や肥満は末梢循環の低下や線維芽細胞の機能低下を介してリスクを高める要因とされています。 一部の方では、関節内の問題が痛みの一因になることがあります。たとえば、肘関節の滑膜ひだが腕橈関節に挟まる滑膜ひだ障害、小頭や橈骨頭の軟骨損傷などです。こうした要素が重なると、ECRB付着部の部分断裂や外側関節包の変性・不安定性、滑膜炎、腕橈関節の初期変形性変化が併存して難治化しやすくなります。このような状態は、肘外側部をひとつの複合体としてとらえる概念で説明され、変性と瘢痕化が進むと橈骨頭の動きが妨げられ、肘外側インピンジメント症候群(LEIS)に至ることもあります。
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の症状
手を握る動作や手首を反らす(伸ばす)と痛みが出やすく、タオルを絞る、ドアノブを回すといった日常動作が難しくなることがあります。痛みや圧痛は肘の外側から前腕の外側にかけて生じ、特定の動きで増悪します。
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の検査
テニス肘の診断では、手関節の背屈抵抗で痛みを誘発するトムセンテストや、椅子を持ち上げるチェアテストが陽性となります。痛みは肘から前腕の外側に出現し、これらの動作で増悪するのが特徴です。
画像検査では、X線は主に他疾患(変形性関節症など)の除外に用いますが、稀に石灰化を認める例もあります。超音波ではECRB(短橈側手根伸筋)起始部の肥厚、MRIでは同部位の高信号や滑膜ひだを確認できます。ただし、画像所見と臨床症状は必ずしも一致しないため、当院では問診・触診・誘発テストを組み合わせた総合的な評価を重視しています。
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)を早く治すための保存治療
テニス肘の多くは、手術をしない「保存治療」によって軽快します。当院では、単なる除痛にとどまらず、再発を防ぐための根本的なアプローチを行っています。
1. 痛みを抑える安静と生活習慣の改善
治療の基本は、痛みを悪化させる動作を控えて局所を安静に保つことです。生活指導では、重い物は肘を曲げて体幹に近づけて持つ、あるいは前腕を回外して(手のひらを上に向けて)持ち上げるなど、伸筋群への負荷を減らす工夫をお伝えします。急な増悪時にはアイシングで炎症を落ち着かせますが、痛みが強い場合や安静の維持が困難な場合には、スプリントやギプスシーネで短期間固定することもあります。
2. リハビリテーション(理学療法)
症状の緩和と再発予防の要となるのが理学療法です。痛みが落ち着いてきた段階で、前腕伸筋群のストレッチ(10〜20秒の保持)をゆっくりと開始します。さらに、等尺性運動から始めて痛みに応じ段階的に負荷を上げる筋力トレーニングを導入し、肩甲帯や握力の強化も図ります。また、血流改善や組織の柔軟性を高めるために、物理療法や電気刺激を併用することもあります。

3. 装具・薬物療法と最新の治療選択肢
装具療法では、エルボーバンドで短橈側手根伸筋(ECRB)付着部への負荷を軽減したり、手関節固定スプリントで伸筋群の活動を抑えたりします。薬物療法については、外用剤や内服薬で疼痛をコントロールします。ステロイド局所注射は急性期の強い痛みに有効ですが、反復すると腱の脆弱化を招く恐れがあるため、回数や間隔を慎重に見極めます。近年は、体外衝撃波(ESWT)やPRP療法といった新しい選択肢も報告されています(当院では実施しておりません)。
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の手術治療
保存治療(安静・装具・注射・リハビリ)を十分に行っても痛みが3〜6か月以上続き、日常生活や仕事に大きな支障が残る場合は、画像所見や関節内病変の有無を踏まえて手術適応を検討し、手外科医が在籍する基幹病院へご紹介します。
まず関節鏡で肘関節内を観察し、滑膜ひだや橈骨頭を圧迫する軟部組織があれば切除します。続いて直視下に、Nirschl法に準じてECRB付着部の変性組織を切除し、上腕骨外側上顆を薄く削って小孔(ドリリング)をあけ、血流改善による治癒促進を図ります。術式にはほかに、短橈側手根伸筋腱を起始部から切離して適切な位置に再縫着する方法(Boyd法/Bosworth法)や、低侵襲な関節鏡下で外側滑膜ひだ切除やECRB起始部の処置を行う方法もあります。最適な術式は症状の程度、病態、生活背景により異なるため、経過に応じて計画を調整していきます。
参考文献)
・私の治療 No. 5118 2022年5月28日 日本医事新報
・上肢のスポーツ外傷・障害 up to date::上腕骨外側上顆炎の保存・手術療法
・千馬 誠悦,鈴木 哲哉,佐々木 香奈,湯浅 悠介,齋藤 光,岩渕 圭一郎,宮腰 尚久.上腕骨外側上顆炎の手術治療.東北整形災害外科学会雑誌.2025;68(1):12-15.
・落合 信靖.上腕骨外側・内側上顆炎の病態について.関節外科.2024;43(8):786-792.