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膝の痛み
前十字靭帯ムコイド変性
前十字靭帯ムコイド変性とは
前十字靭帯ムコイド変性は国内外での報告数も限られており、有病率が約0.4%程度の極めてまれな疾患です。1999年にKumarらによって報告されました。本疾患は、明らかな外傷歴や高いレベルでのスポーツ活動歴がない中高年に発症するとされています。膝の痛みや可動域制限が主症状であり、前十字靭帯の断裂で生じるような前方不安定性は認められないとされています。
前十字靭帯ムコイド変性の原因
繰り返す微小外傷、加齢性変化、先天的な滑膜組織の迷入などの諸説が報告されていますが、いまだ明らかではありません。小児での発生例も報告されています。またムコイド変性の約35%にガングリオンの合併がみられたという報告もあります。
前十字靭帯ムコイド変性の症状
中高年の外傷歴のない方に膝痛と可動域制限を主訴として発症し、靭帯不安定性を認めないことが特徴とされています。
前十字靭帯ムコイド変性の検査
診断にはMRIが有用とされており、プロトン強調画像やT2強調画像にて、高信号を呈する紡錘形の病的な靭帯が確認されます。肥大したACLの線維方向に沿った高信号変化がびまん性に認められ、この特徴的な所見は「celery stalk(セロリの茎)」と表現されています。ACL損傷と誤診されることもありますが、外傷歴や関節血腫がないこと、膝関節の前方不安定性がないことを確認することが重要で、最終診断には関節鏡検査が必要とされています。
切除病変の病理像としては、炎症性細胞や腫瘍細胞は認められず、膠原線維の破綻、微小嚢胞変化、酸性ムコ多糖蛋白の沈着などが報告されています。
前十字靭帯ムコイド変性の治療
手術方法としては、変性部分の大きさや部位によって、ACLの全切除、変性部分のみの切除、さらには変性部分切除後にnotch plastyを追加する方法などが報告されています。
変性部分のみを切除したFealyら、Hsuら、Nishimoriらの報告では、膝痛、可動域制限の再発や不安定性の出現はみられなかったとされていますが、いずれも経過観察期間が最長2年と短く、変性部分の切除のみの長期予後については不明です。術後の膝安定性に問題はなかったとする報告が多い一方で、変性部が広範囲に及ぶ場合は、切除後に前方不安定性が出現する可能性があります。
術後に再発したという報告はほとんどありませんが、LeeらはACL部分切除を行った42例中、1例に術後11か月で再発を認めたと報告しています。
参考文献)
・膝前十字靭帯ムコイド変性の一例. 関節鏡 33(1): 55-59, 2008.
・Lancaster TF, Kirby AB, et al.:Mucoid degeneration of the anterior cruciate ligament: a case report. J Okla State Med Assoc 97:326–328, 2004.
・井上 昭.膝後十字靱帯ムコイド変性(PCL-MD)の治療経験:その変性発生機序および症状発現機序についての検討.日臨整誌.2020;45:85‒86.
・Sweed T, et al. Management of mucoid degeneration of the anterior cruciate ligament: a systematic review. Knee Surg Relat Res. 2021;33:26.

先生から一言
前十字靭帯のムコイド変性は極めてまれな疾患です。原因が明らかではなく膝関節の疼痛が続く際は、MRI検査を検討する必要があります。