DISEASE DETAILS 疾患一覧
こどもの整形外科
単純性骨嚢腫
単純性骨嚢腫(SBC)とは
単純性骨嚢腫(Simple Bone Cyst;SBC)はWHOの分類において、「新生物としての性質が不確定な腫瘍群(Tumors of Undefined Neoplastic Nature)」に分類される良性疾患です。日常診療において比較的よく遭遇する疾患です。主に小児で偶発的に発見されることが多い骨病変であり、その病態は未だ明確には解明されていませんが、骨内に液体が限局して貯留するのが特徴であり、病変が増大すると病的骨折のリスクが高まることが知られています。
単純性骨嚢腫(SBC)の好発年齢は小児から若年者(主に5~19歳)で、全骨腫瘍の約3%を占めます。性別では男女比が2:1で、男児に多いとされています。発生部位は主に上腕骨および大腿骨の近位部で、その他に腸骨や踵骨でも発生します。長管骨では骨幹端から骨幹部にかけて、腸骨では腸骨翼、踵骨では中立三角部に多く発生することが特徴です。
単純性骨嚢腫(SBC)の原因
単純性骨嚢腫(SBC)の病因については、これまでさまざまな説が提唱されてきました。Cohenは、間質液のドレナージ還流障害説を提示し、静脈閉塞がSBCの発生に関与している可能性を指摘しました。一方で、Chigiraは内圧上昇説を提唱し、嚢腫内圧の増加が発生に寄与していると述べています。さらに近年では、融合遺伝子が関連する腫瘍としての可能性も示唆されており、SBCの発生が多因子由来である可能性が高いと考えられています。
また、破骨細胞の関与について示唆する研究もあり、1942年にはJaffeとLichtensteinが、同部位での骨成長や発育が局所的に障害されていることがSBCの形成に関連していると提唱しています。このように、SBCの病因は単一の要因で説明されるものではなく、複数の要因が複雑に絡み合っている可能性が示唆されています。
単純性骨嚢腫(SBC)の症状
SBCは通常無症状で、疼痛を訴えることは少ない疾患です。多くは、打撲などでX線撮影を行った際に偶然発見されます。ただし、病変が増大すると軽微な外傷によって骨折(病的骨折)が生じることがあり、この場合は疼痛を伴います。
単純性骨嚢腫(SBC)の検査
X線画像では、SBCは中心性で辺縁が明瞭な骨透亮像を呈します。骨病変はやや膨張性に発育し、骨皮質の菲薄化を伴うことが多く、均一な透亮像または隔壁による多房性を示す場合があります。病巣の大きさはさまざまで、骨幹端部に限局するものから骨幹部に至るものまでありますが、通常は骨端線を侵さないことが特徴です。骨の成長に伴い、病変は骨端線から骨幹部へ進展します。この進展状況に基づき、病変が骨端線から5mm未満に存在する場合を「active phase」、5mm以上離れている場合を「latent phase」と呼びます。active phaseでは病変の活動性が高く、病的骨折のリスクも高いと報告されています。また、病的骨折例では、骨透亮像内に骨片が確認できる“fallen leaf(fragment)sign”と呼ばれる特徴的な所見がみられます。
MRIでは、SBCは骨内に限局する病変として描出され、T1強調像で低信号、T2強調像で高信号を呈します。この信号は脂肪抑制において抑制されず、病変が液体貯留を反映して均一であることを示しています。通常、骨外への病変の拡がりは認められません。
これらの特徴的な臨床所見および画像所見は、SBCの診断や管理において重要な情報を提供します。
単純性骨嚢腫(SBC)の治療
単純性骨嚢腫(SBC)の治療においては、症例ごとの病変の特徴や進行度に基づいた適切な管理が求められます。SBCは通常、疼痛がなくX線画像で骨皮質の菲薄化がみられない場合には、経過観察が基本となります。しかし、病変の増大とともに骨皮質の破綻が生じると、軽微な外傷で疼痛を伴うことがあるため注意が必要です。病的骨折の有無は手術の適否に直接関与せず、病変の部位や大きさに基づいて治療法を選択します。
上腕骨近位部病変の治療
上腕骨近位部は非荷重骨であるため、疼痛がない場合は基本的に経過観察で対応します。運動制限は特に必要ありませんが、投球動作などは病的骨折のリスクを高めるため、保護者には注意を促します。病的骨折が生じた場合には、保存療法が第一選択となり、三角巾やスリングで固定を行います。疼痛が消失すれば固定を外し、日常生活動作(ADL)を許可します。骨癒合が得られた場合は、定期的なX線撮影による経過観察を行います。ただし、病変が大きく、病的骨折を繰り返す場合には手術が考慮されます。
大腿骨近位部病変の治療
大腿骨は荷重骨であり、病的骨折が発生しやすい部位です。骨皮質の菲薄化がなく疼痛もない場合には経過観察が可能ですが、保護者には病的骨折のリスクについて説明し、疼痛が生じた場合には早急に受診するよう指導します。特に大腿骨頚部の病変は病的骨折を起こしやすく、骨折後に大腿骨頭壊死をきたす可能性があるため、注意が必要です。荷重時に疼痛が出現した場合や病的骨折が発生した場合には手術が必要となり、内固定がしばしば行われます。骨端線が閉鎖していない症例では、骨端線を温存できるインプラントを選択します。
その他の部位の病変(腸骨、踵骨など)の治療
腸骨や踵骨などの病変については、疼痛がなければ経過観察が適切です。しかし、疼痛がある場合や病変が大きい場合には、手術が考慮されます。
治療法
SBCの治療法については、統一されたコンセンサスは存在しませんが、これまでにさまざまな治療法が報告されています。Kadhimらのメタアナリシスによると、各治療法の治癒率は以下の通りです:経過観察64.2%、嚢胞内の隔壁除去とステロイド注入98.7%、腫瘍掻爬+骨移植90%、中空螺子による嚢胞内の持続的除圧89%。特に小児が多い疾患であることを考慮すると、低侵襲で治癒率の高い治療法を選択することが重要です。
1. 経過観察
疼痛がなく骨皮質の菲薄化がみられない場合は、定期的な外来でのX線撮影を行い、経過を観察します。病変の増大や疼痛の出現があれば速やかに対応します。
2. 嚢胞内の隔壁除去とステロイド注入
嚢胞内の隔壁を除去し、骨髄と交通を図ることで骨のリモデリングを促します。さらに、ステロイド(メチルプレドニゾロン)を注入することで、嚢胞内液体の生成を抑制し治癒を促します。この方法は比較的侵襲が小さく、良好な治療成績が報告されています。
3. 腫瘍掻爬+骨移植
従来の標準的治療法ですが、侵襲が大きく骨端線損傷のリスクがあるため、現在ではより低侵襲な方法が一般的です。ただし、大腿骨近位部の病的骨折例では腫瘍掻爬と骨移植(自家骨または人工骨)を併用し、内固定を行うことが多いです。
4. 中空螺子による嚢胞内の持続的除圧
嚢胞内圧を減圧し持続的ドレナージを行う方法です。ハイドロキシアパタイト(HA)製の中空ピンを使用することで、効果的な除圧が可能であり、小児にも適した方法とされています。
参考文献)
・単純性骨嚢腫 (特徴と鑑別疾患について). 佐々木裕美ら. 関節外科 38(suppl-2): 91-102, 2019.
・単純性骨嚢腫の再発機序の考察. 星学ら. 日本整形外科学会雑誌 98(3): S1281-S1281, 2024.