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こどもの整形外科
反応性関節炎(ReA)
反応性関節炎とは
反応性関節炎(ReA)は、微生物感染後に起こる無菌性・非化膿性の関節炎を指します。1999年に開催された反応性関節炎に関する国際ワークショップにおいて、ReAの定義が整理され、ReAはHLA-B27と関連し、脊椎関節炎症候を伴うことを特徴とする関節炎とされました。そして、これらの特徴が証明されている泌尿生殖器感染や腸管感染、あるいは一部の気道感染を引き起こす微生物によって発症する関節炎に限定することが提案されました。このように再定義されたReAは、いわゆる「古典的ReA」として知られるようになりました。
さらに、化膿性関節炎を除き、その他の感染後に生じる非化膿性関節炎については「感染関連関節炎(infection-related arthritis)」と呼称することが推奨されました。この区別は、異なる発症機序や治療方針を考慮するうえで重要であり、ReAの診断と管理をより明確にするための基盤となっています。
反応性関節炎の原因
ReA(反応性関節炎)の病態における遺伝的要因として、HLA-B27が重要な役割を果たしていることが指摘されています。このことを支持する証拠として、ReA患者の50~80%がHLA-B27を保有しているという報告があります。ReA患者におけるHLA-B27保有率には地域や調査条件による幅がありますが、一般的にHLA-B27保有率が高い集団ほどReAの発症率が高い傾向にあります。さらに、HLA-B27を保有するReA患者は、保有しない患者に比べて、より重度で急性の経過をたどる傾向があり、関節外症状を伴いやすく、症状の慢性化をきたしやすいことが知られています。
微生物学的要因については、古典的なReAの病態仮説が提唱されています。クラミジア感染後のReAでは、尿路が菌体侵入の主な部位となり、感染した単球が関節へ移行するプロセスが考えられます。同様に、腸管感染では生菌や菌が生成する物質が腸管壁を通じて血液循環を介し、関節に移行する可能性があります。クラミジアは、mRNAを発現している代謝的に活性を有する形で滑膜線維芽細胞に慢性感染を引き起こします。一方、サルモネラなどの腸管感染菌は、滑膜線維芽細胞内で速やかに分解され、「bacterial ghosts」や菌の生成物を滑膜線維芽細胞内に残します。これらの物質が関節内で抗原の源となり、T細胞を活性化させます。
その後、Th2/Th1-Th17サイトカインのバランス変動により、関節炎の急性発症、消退、または慢性化が引き起こされると考えられています。腸管感染後のReAでは、腸管の粘膜層に菌が存続し、細胞内持続感染を引き起こすこともあります。
反応性関節炎の症状
ReA(反応性関節炎)は、自覚症状や身体所見が多岐にわたる疾患です。その中でも、先行感染はReAの発症において重要な要因とされています。ReAを引き起こす泌尿生殖器感染や腸管感染では、典型的な症状として尿道炎や下痢が挙げられますが、場合によっては症状が無症候であることもあります。このような場合、検査を通じて初めて感染が確認されることがあります。ReAの先行感染としては、確定的な泌尿生殖器感染や腸管感染(いわゆる古典的ReAの先行感染)のほか、一部の気道感染(Chlamydophila pneumoniaeなど)が関与していることが示されています。
ReAは通常、急性に発症します。典型的な例では、先行感染の2~4週間後に非対称性の少関節炎が生じるほか、結膜炎やぶどう膜炎、尿道炎などがみられることがあります。患者の約半数は、これらの症状が6か月以内に自然消退し、ほとんどの患者は1年以内に症状が解消します。しかしながら、一部の患者では症状が重篤化し、あるいは長期間続くことがあり、こうした場合には適切な治療が必要となります。治療によって症状の持続期間を短縮できる可能性もあります。
ReAの身体所見としては、骨関節症状が挙げられます。末梢病変では、下肢に優位に単関節炎または少関節炎を生じることが多く、通常は数週間から6か月間続きますが、多くの場合は一過性で治癒します。ただし、約15~50%の症例で再発が報告されています。先行感染後には、付着部炎を伴う場合があり、アキレス腱や足底腱膜、大腿四頭筋腱、膝蓋腱などの付着部に痛みや腫れ、熱感がみられることがあります。このような場合にはReAの可能性が考えられます。また、指趾炎は約40%の患者で発症します。体軸病変は末梢病変に比べると頻度が低いものの、約20%の患者で仙腸関節炎が認められます。さらにまれですが、脊椎炎(特に腰椎の病変)がみられる場合もあり、HLA-B27を保有する患者で発症しやすい傾向があります。
骨関節以外の症状としては、泌尿生殖器系病変が挙げられます。ReAの経過中、とくにクラミジア感染に続いて、無菌性尿道炎や子宮頸管炎が約60%の患者で認められることがあります。男性では軽度の排尿困難や粘液性膿性の尿道分泌物がみられることが多く、前立腺炎や精巣上体炎、連環状亀頭炎を伴う場合もあります。女性では、排尿困難や膣分泌物、化膿性子宮頸管炎や膣炎を併発することがあります。さらに眼病変は、ReA患者の50~70%に認められ、片側性または両側性の結膜炎が最も一般的ですが、他にも上強膜炎、前部ぶどう膜炎、角膜炎などの多彩な病変がみられます。重度の発赤や痛み、視力低下などがみられる場合には、早急に眼科を受診することが推奨されます。
粘膜皮膚病変は、ReA患者の約10%にみられ、口腔潰瘍や膿漏性角化症が多く、まれに結節性紅斑を伴う場合もあります。また、心病変は全体の10%程度で認められ、大動脈炎や大動脈弁閉鎖不全、心ブロック、心膜炎などが報告されています。
反応性関節炎の検査
ReA(反応性関節炎)の診断においては、検体検査や画像検査、臨床的な鑑別診断が重要です。急性期には炎症反応としてCRPの上昇や赤血球沈降速度(ESR)の亢進が認められますが、リウマトイド因子や抗核抗体は通常陰性です。ReA患者の約50~80%がHLA-B27を保有しているため、この所見は診断の参考になります。特に重要なのは、ReAの発症を引き金とする先行感染を確認することです。
泌尿生殖器感染が疑われる場合には、早朝尿の培養や尿道分泌物、膣分泌物のクラミジア培養、PCR法や血清抗体価の測定が必要です。一方、腸管感染が疑われる場合には、便培養を行い、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、エルシニアなどの病原体を確認します。さらに、HIV感染者ではAIDS発症前にReAが生じる場合があるため、HIV抗体検査も行います。
関節液の分析も診断に役立ちます。ReA患者の関節液では10,000~50,000/HPFの白血球が検出され、好中球が優位を占める所見が多くみられます。関節液中に菌体成分やDNAが存在することは報告されていますが、生菌は認められず、通常、細菌培養は陰性です。
画像検査では、単純X線撮影によって末梢関節炎や付着部炎を有する患者に軟部組織の腫脹や腱付着部の骨増殖が認められることがあります。体軸病変を有する場合には、仙腸関節のびらんや硬化がみられることがあり、多くの場合、片側性です。脊椎病変については、強直性脊椎炎にみられる縦方向の骨増殖とは異なり、水平に伸びる非対称性の骨増殖が特徴です。さらに、超音波検査やMRI検査は、滑膜炎や付着部炎を高精度で同定できるほか、仙腸関節や脊椎の骨髄浮腫の検出にも優れています。
ReAの診断には確定的な方法がなく、病歴や症状のパターンを総合的に評価して診断を行います。1996年に提唱された分類基準は存在するものの、診断基準としては確立されていません。診断の鍵となるのは、詳細な病歴の聴取に基づき、ReAの発症を引き起こした先行感染を特定することです。
また、ReAの鑑別診断も重要です。急性の単関節炎または少関節炎を引き起こす他の疾患として、化膿性関節炎、播種性淋菌感染、ウイルス性腸炎に伴う関節炎、Whipple病、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)、ベーチェット病、結晶誘発性関節炎、ライム病、サルコイドーシスなどが挙げられます。これらの疾患を臨床的特徴や症状のパターンをもとに慎重に除外したうえで、最終的にReAの診断を下す必要があります。
このように、ReAの診断は多角的なアプローチを必要とし、検体検査や画像検査の結果、臨床症状を組み合わせて行われます。適切な診断が確立することで、治療方針の決定に大きく寄与することが期待されます。
反応性関節炎の治療
ReA(反応性関節炎)の効果的な管理と治療には、先行感染および関節炎症状を標的としたアプローチが求められます。まず、先行感染の治療に関して、腸管感染後のReAに対する抗菌薬治療の有効性を示すエビデンスは現在のところありません。しかし、クラミジア感染が原因となるReAの場合には、抗菌薬治療が有益である可能性が指摘されています。特にクラミジア感染では、感染の拡大や再発を防ぐために、患者本人だけでなく、セックスパートナーにも抗菌薬治療を行うことが重要です。
急性関節炎に対しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が第一選択肢となります。NSAIDsは疼痛管理に効果的であり、多くの患者は短期間(約2週間)の投与で十分な治療効果を得ることができます。これらの治療に反応が見られない場合や、多関節炎を伴う場合には、ステロイドの全身投与が考慮されます。軽症例ではプレドニゾロン(PSL)を1日20mg程度から投与開始し、中等度から重症の症例では40mg程度の投与が推奨されることがあります。いずれの場合も症状に応じて速やかに減量を行います。NSAIDsやステロイドが無効である場合、さらに症状が進行している場合には、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)であるサラゾスルファピリジン(SASP)やメトトレキサート(MTX)の使用が検討されます。
慢性関節炎の治療には、DMARDsが主に用いられます。NSAIDsやステロイド、SASPのいずれにも効果が見られない場合にはMTXが選択肢となりますが、ReAに対するMTXの有効性を直接支持するエビデンスは乏しいのが現状です。ただし、末梢関節病変を伴う強直性脊椎炎の治療経験に基づき、MTXが適用されることがあります。さらに、付着部炎や指趾炎を伴う慢性ReAの患者でNSAIDsが無効な場合、またはSASPやMTXを最大量使用しても3~4か月間効果が見られない場合には、TNF阻害薬が考慮されます。TNF阻害薬の有効性に関するエビデンスは症例報告や小規模な研究に限定されていますが、これらの薬剤は重症例における治療選択肢として期待されています。また、IL-6阻害薬であるトシリズマブが一部のReA患者で有効であったという報告もあります。
このように、ReAの管理と治療は、患者ごとの症状の程度や進行状況に応じて個別化される必要があります。適切な治療を選択することで、症状の軽減や疾患の進行抑制を図り、患者の生活の質を向上させることが目指されます。
参考文献)
・反応性関節炎, 谷ロ義典. 炎症と免疫vol,32 no.1 2024.
先生から一言
反応性関節炎は若年性関節リウマチやIgA血管炎に伴う関節炎など、ほかの多彩な疾患との鑑別が重要になります。単純X線検査のみならず、血液検査、関節液検査など必要に応じて追加検査を行います。小児科医への紹介を検討することもあります。