DISEASE DETAILS 疾患一覧

肩の痛み
変形性肩関節症
変形性肩関節症(Osteoarthritis of shoulder)とは
変形性肩関節症は、加齢などにより肩関節の軟骨がすり減って関節が変形し、安静時痛や動かしたときの痛み(運動時痛)を起こす病気です。進行すると肩の動きが制限され、日常生活に支障が出やすくなります。変形性肩関節症は、基礎疾患がなく発症する一次性(primary OA)と、原因がはっきりしている二次性(secondary OA)に分けられます。二次性の原因としては、外傷(骨折・脱臼)、関節リウマチ(RA)、骨頭壊死、腱板広範囲断裂などが挙げられます。
中高年以上に多い疾患で、年齢とともに有病率が高くなる傾向があります。日本の疫学調査では、レントゲンで確認できる変形性肩関節症の有病率は、70〜80代では約3割に達していました。「肩の痛み=五十肩」と思われがちですが、変形性肩関節症も頻度が高く、診察・レントゲンなどが重要です。

こんな症状があれば受診してください
- 肩を動かすと痛い(腕を上げる・回すと痛む/運動時痛)
- 夜間に肩が痛くて眠れない(夜間痛・寝返りで痛む)
- 肩が上がらない、動かしにくい(可動域制限)
- 腕を後ろに回せない(結帯動作:下着のホック・エプロンがつらい)
- 着替えや髪を洗う動作がつらい(服の着脱・洗髪で痛む)
- 棚の上の物を取る/洗濯物を干すのがつらい(挙上・外転で痛む)
- 肩を動かすとゴリゴリ音がする、引っかかる(関節雑音・クリック)
- 痛みが数週間以上続く、日常生活に支障がある(QOL低下)
変形性肩関節症の症状
変形性肩関節症では、肩を動かしたときの痛み(運動時痛)や夜間痛が出やすく、服の着替え、髪を洗う、棚の上の物を取るといった動作でつらさを感じることがあります。肩が上がらない、腕を後ろに回せない、肩が回らないなどの可動域制限が進むと、挙上動作や外転・内旋(結帯動作)といった日常動作が難しくなり、生活の質(QOL)が低下します。さらに、肩を動かすとゴリゴリ・コリコリと音がする、引っかかる感じがする、クリック音がするなどの関節雑音(クレピタス)を自覚する方もいます。痛みの出方は、動かしたときだけでなく、安静時痛や寝ているときに痛む夜間痛として現れることもあり、「肩が痛くて眠れない」「寝返りで目が覚める」という症状がでます。
変形性肩関節症の原因
変形性肩関節症は、加齢や長年の使い過ぎ、過去のけがなどを背景に、肩関節の軟骨がすり減って関節が変形し、痛みや動かしにくさが出てくる病気と考えられています。
発症には、体質や加齢などの全身的な要素と、肩にかかる負担や外傷などの局所的な要素が組み合わさって関わります。全身的な要素としては年齢、性別、遺伝的背景などが、局所的な要素としては関節への繰り返す負荷、外傷歴(骨折・脱臼など)、体重増加に伴う負担、骨折後の変形などが関与すると考えられています。
また、原因の有無で一次性と二次性に分けて説明されます。二次性変形性肩関節症は、原因が比較的はっきりしているタイプで、臨床では腱板断裂をきっかけに進行する腱板関節症(cuff tear arthropathy)が代表的です。一方、一次性変形性肩関節症は明らかな原因を特定しにくいタイプで、加齢変化を背景にゆっくり進行することが多いとされています。
変形性肩関節症の検査
まず肩関節のレントゲン(X線)で関節の変形を評価します。関節裂隙の狭小化(関節のすき間が狭くなる)、骨棘(骨のトゲ)、骨硬化像などを確認し、進行度(ステージ1~4)や関節窩・骨頭の形の変化を把握します。ただし、レントゲンで見える変形の程度と痛みの強さは必ずしも一致しません。画像上は高度でも痛みが軽いことがあり、逆に変形が軽度でも夜間痛など強い症状が出る場合もあります。
二次性の変形性肩関節症、とくに腱板断裂に伴う腱板関節症(cuff tear arthropathy)が疑われる場合は、MRIで腱板の広範囲断裂の有無や筋肉の状態を評価し、治療方針(保存治療か手術か、術式の選択など)に役立てます。
必要に応じて血液検査で炎症反応の有無を確認し、関節リウマチなどの炎症性疾患を鑑別します。2型コラーゲン、MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)などの関節症マーカーを補助的に測定し、診断の参考とします。


変形性肩関節症の保存治療
変形性肩関節症の治療は、まず手術を行わない保存治療を優先します。目的は、痛みを抑えつつ肩の動きを保ち、日常生活の負担を減らすことです。基本は、消炎鎮痛薬(貼り薬・飲み薬)と関節内注射を組み合わせた痛みのコントロールで、注射はヒアルロン酸の関節内注入が第一選択として用いられることが多く、症状に応じてリハビリテーション(運動療法)も併用して可動域の維持・改善を目指します。
第一選択で改善が不十分な場合は、鎮痛薬を調整し、必要に応じてトラマドール配合薬などへ変更して対応します。それでも強い痛みが続く場合にはステロイドの関節内注射を検討しますが、腱板や軟骨への影響、感染リスクを踏まえ、強い痛みがある時に限って回数を制限して使用します。
変形性肩関節症では理学療法士によるリハビリ(運動療法)が医学的にも重要です。薬や注射で痛みを落ち着かせながら、肩関節と肩甲骨の動き、姿勢、肩周囲筋の働きを整えることで、可動域の維持、日常動作の改善、痛みの再燃予防につなげます。当院では肩の治療経験が豊富な理学療法士が多数在籍し、医師の診察所見や治療方針と連動させてチームで情報共有しながら、一人ひとりに合わせたリハビリを提供しています。

変形性肩関節症の手術治療
変形性肩関節症では、保存治療(薬・注射・リハビリ)を少なくとも3カ月以上行っても痛みや機能障害が改善しない場合に、手術を検討します。手術は大きく、解剖学的人工肩関節置換術(TSA)とリバース型人工肩関節置換術(RSA)に分かれ、腱板の状態や肩甲骨側の変形(後捻)・亜脱臼の有無によって選択します。当院では、手術が必要な場合は資格を持つ専門医がいる提携病院へスムーズに紹介します
変形性肩関節症に対する手術療法についてさらに詳しく
人工肩関節置換術は、痛みが強く日常生活に支障が出ている場合に、すり減った関節や傷んだ骨・腱の状態に合わせて「金属や樹脂の人工材料」に置き換え、痛みの軽減と機能回復を目指す手術です。肩の人工関節には大きく分けて、人工骨頭置換術(HHR)、人工肩関節全置換術(TSA:解剖学的TSA)、リバース型人工肩関節置換術(RSA)の3つがあり、腱板(肩の回旋筋腱板)の働き、関節の受け皿である関節窩(肩甲骨側)の骨の状態、年齢や活動性、骨折の有無、将来の再手術の可能性などを総合して術式を決めていきます。
人工骨頭置換術(HHR)は、肩関節の「球」にあたる上腕骨頭側だけを人工物に置き換える方法です。関節の受け皿である関節窩が比較的きれいに保たれていることが前提となるため、上腕骨近位端骨折で骨頭側が大きく壊れてしまった場合や、骨頭壊死(AVN)のように主に骨頭側が障害されている場合に選択されやすい術式です。関節窩側を触らない分、手術の範囲が比較的小さく済むことが多い一方で、長い目で見ると人工骨頭が当たる関節窩側がすり減ってくることがあり、年月とともに痛みや動きの制限につながる可能性があります。その場合は人工肩関節全置換術(TSA)への切り替えを検討することがありますが、初回からTSAを行う場合に比べて、骨の欠損や軟部組織のバランスの問題が加わり、手術が難しくなることがあります。したがってHHRを選ぶ際には、術前に肩の安定性や関節窩の状態を丁寧に評価し、「いまの病態に最も合うか」「将来的な変化をどう見込むか」まで含めて慎重に判断します。耐久性については報告によって幅がありますが、一般に時間経過とともに成績が低下し得ることが示されており、長期のフォローが重要になります。
人工肩関節全置換術(TSA:解剖学的TSA)は、上腕骨側の球と、肩甲骨側の受け皿(関節窩)の両方を人工物に置き換える方法で、本来の肩関節の形に近い構造を再現することを目指します。腱板機能が保たれている、あるいは十分に機能していることが良好な結果につながる条件で、代表的には変形性肩関節症(OA)などで、痛みが強く可動域も低下している場合に適応となります。一方、修復不能な腱板断裂がある場合や、腱板断裂性関節症(CTA)のように腱板の働きが大きく損なわれている場合には、TSAは成績が安定しにくく、原則として別の術式(多くはRSA)を検討します。また、関節窩側の骨欠損が高度で、インプラントを安定して設置できない状況ではTSAが難しいことがあります。TSAはHHRに比べて関節窩摩耗の問題を回避しやすく、痛みや動きの改善が得られやすいという報告が多い一方で、手術の手技は複雑になりやすく、手術時間や出血量、医療コストが増える可能性があります。さらに、将来もし再手術が必要になった場合にRSAへの切り替えが行いやすいよう設計されたシステムもあり、年齢や骨質、病態、将来の選択肢まで考慮してインプラントを選ぶことが増えています。
リバース型人工肩関節置換術(RSA)は、肩の球と受け皿の形を“反転”させた構造の人工関節で、腱板が修復不能な状態でも腕を上げる機能を回復させることを目的とします。腱板が大きく損傷すると、肩を安定して動かすための力学が崩れ、通常のTSAでは十分な機能回復が得られにくくなりますが、RSAでは回転中心を工夫することで三角筋の働きをより活かし、挙上動作を助けます。そのため、腱板断裂性関節症(CTA)や広範囲腱板断裂で自動挙上が難しい場合に有力な選択肢になります。また、高齢者の複雑骨折(3〜4パート骨折)や骨折後変形(fracture sequelae)、関節リウマチ、過去にHHRやTSAを受けた後の再置換、関節窩骨欠損の大きい変形性関節症、腫瘍切除後、陳旧性脱臼などでも、状態に応じて検討されます。RSAには特有の課題もあり、肩甲骨側に接触して骨が削れることがある scapular notching や、構造上、回旋(内外旋)の動きが十分に戻りにくい場合がある点が知られています。これらを改善するため、近年は外方化(lateralization)という考え方に基づき、骨切り角度やステム形状、オンレイデザイン、骨移植などを組み合わせて安定性や回旋可動域の改善、notchingの軽減を目指す工夫が進んでいます。成績に関しては、挙上・外転・外旋や機能スコアの改善が報告され、一定期間での合併症率や再手術率も提示されていますが、合併症として脱臼、周囲骨折、肩峰・肩甲棘の骨折、ゆるみ、感染などが起こり得るため、術前にリスクと期待できる改善範囲を十分にすり合わせることが重要です。日本では導入以降、適応や実施要件が定められており、適切な評価と経験に基づいて行われます。
どの術式が適しているかは、単に「レントゲンでの変形の程度」だけで決まるものではありません。腱板がどの程度機能しているか、関節窩の骨の形と欠損の有無、痛みの強さや夜間痛、肩がどこまで上がるか、回旋がどの程度可能か、仕事や趣味で求める動作、年齢や骨質、今後の再置換の可能性などを総合して判断します。腱板が保たれていて関節窩に人工物を安定して置ける見通しが立つ場合はTSAが中心となり、腱板が修復不能で挙上が難しい場合にはRSAが中心になります。関節窩が保たれていて骨頭側の障害が主体である場合や、若年で活動性が高く関節窩コンポーネントの将来的な問題を慎重に考えたい場合にはHHRが検討されます。

参考文献)
・変形性肩関節症 ~病態,リスクファクター,治療の最新知見~ Pharma Medica, Vol. 39, No. 6202.
・今井晋二. 変形性肩関節症. 日本医事新報. 2024; (5216): 45-46.
・大石隆幸, 北村信人. 2. 肩関節. ペインクリニック. 2025; 46(5): 498-508.
・日本整形外科学会. 「変形性肩関節症」. 症状・病気をしらべる. https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/osteoarthritis.html , (参照 2025-12-20).

先生から一言
変形性肩関節症は加齢や骨折などの外傷により軟骨がすり減って起こる疾患です。投薬やリハビリ、注射で痛みがとり切れない場合は手術が検討されます。