DISEASE DETAILS 疾患一覧
スポーツによる障害
母趾種子骨障害
母趾種子骨障害とは
母趾種子骨障害は運動や歩行時に母趾の足底部の母趾球に痛みを感じる疾患です。母趾種子骨(hallux sesamoid)は、第1中足骨頭の下にある種子骨です。短母趾屈筋(FHB)の腱内にあります。母趾種子骨は、腱の力を効率良く母趾に伝達し、中足骨頭からの長母趾屈筋(FHL)の摩耗を防ぐ役割があります。また、歩行時に地面から受ける衝撃を吸収する役割も果たします。
母趾種子骨障害は、母趾種子骨に関連する疾患を多く含んでおり、「骨折、有痛性分裂種子骨、反復性外傷や感染による種子骨炎、変形性関節症」などが含まれます。
母趾種子骨障害の原因、病態の分類
・疲労骨折
ジョギングやクラシックバレエなどの反復する小外傷が原因で生じます。前足部には歩行時に体重の3倍もの負荷がかかり、そのうち種子骨機構には50%の負担がかかっています。母趾種子骨は分裂種子骨の頻度が高く、小外傷の蓄積で疲労骨折を起こすことがあります。従来、分裂種子骨の頻度は内側種子骨で12%、外側種子骨で3%、合わせて15%程度と考えられています。
・急性骨折
急性骨折はジャンプからの着地などの外力で生じます。疲労骨折に比べるとまれです。私の経験では、ハイヒールを履いて転倒し足底部を強打した例や、バイクのペダルを踏み損ねて足底部を強打して急性種子骨骨折を生じた例がありました。
・種子骨炎
種子骨炎は単純X線では異常が認められず、種子骨に圧痛を訴える状態です。マラソンやクラシックバレエなどの反復するストレスが原因であることが多いです。種子骨の大きさ異常、回旋異常、凹足などがリスク要因となります。
・骨軟骨炎
骨軟骨炎は単純X線像上、分離、不整、骨硬化、拡大像などを呈する状態です。原因は無腐性骨壊死であるという報告がありますが、判然としていません。女性に多いです。
・種子骨骨髄炎
種子骨骨髄炎はまれな疾患です。足底刺創によることが多く、10歳代に多いです。糖尿病患者に起こりやすく、グラム陰性菌が起炎菌として多いとされています。
・外反母趾と骨関節症
外反母趾によって、種子骨が中足骨頭下から脱臼することがあり、その結果として骨関節症を引き起こすことがあります。
それぞれの頻度は、疲労骨折が40%、急性骨折が10%、種子骨炎が30%、骨軟骨炎が10%、骨関節症が5%との報告があります。
母趾種子骨障害の症状
歩行時やスポーツ活動時に母趾球の足底部に痛みがでます。母趾の強制背屈により痛みが増強し、種子骨に圧痛が見られます。多くは内側種子骨に発症しますが、外反母趾を伴う場合など、痛みのある種子骨が内側か外側かはっきりしない場合もあります。
母趾種子骨障害の検査
単純X線検査では、荷重位での足部正面背底像、側面像、および母趾種子骨軸射像を撮影します。これにより、種子骨骨折、分裂種子骨、種子骨の分離、硬化像などを確認できます。ただし、骨折と分裂種子骨の鑑別はしばしば難しく、骨折では辺縁が粗く不規則であるのに対し、分裂種子骨では辺縁がなめらかで硬化像を呈する場合が多いです。急性骨折を診断するための基準として、「鋸歯状の辺縁を持つ種子骨の不規則な分離」、「仮骨形成」、「反対側の種子骨の正常な外観(両側の分裂種子骨は85%に存在)」などがあげられます。MRIは早期診断に感度が高く、CTでは詳細な骨折形がわかるため、X線検査のみで診断が難しい時はこれらの検査を追加します。
母趾種子骨障害の保存治療
まずは保存的に治療します。安静、アイシング、抗炎症薬、装具療法などを組み合わせて行います。骨折の典型的なプロトコルでは、母趾を足底に軽度屈曲させて4~6週間固定し、さらに部分荷重歩行を経て、徐々に通常の活動に戻していきます。装具療法では、母指球部を柔らかい素材にしたインソールや、船底様に整形した靴型装具などを作成します。
難治性の場合、近年では体外衝撃波、自己多血小板血漿注入療法、濃縮骨髄液吸引注射療法なども報告されていますが、まだ一般的な治療とはなっていません。
母趾種子骨障害の手術治療
母趾種子骨障害に対する手術療法は、まだ確立されていません。様々な術式があり、病態に応じて術者が術式を選択しています。母趾種子骨切除術、自家骨移植術、観血的固定術などの術式があります。
参考文献)
・母趾種子骨障害の治療. 中島 健一郎. MB Orthop. 36(3):17-27,2023.
・関節外科 Vol.32, No.1, 2013.母趾種子骨障害 母趾種子骨障害. 橋本健史. The hallucal sesamoid disorders