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けが(外傷)
肉離れ
肉離れとは
肉離れ(muscle strain)は、自らの筋力や介達外力によって、筋が過伸展、伸張性収縮され損傷する外傷です。伸びながら縮もうとすることによって裂けてしまうイメージです。多くは、筋腱移行部(特に腱膜)に損傷が起こり、ハムストリングスが好発部位です。まれに、瞬間的な強い外力によって過伸展し、筋腱付着部が損傷することもあります。例えば格闘技では、転倒した際に膝を伸ばした状態で股関節が屈曲させられ、ハムストリングス付着部に損傷が発生することがあります。肉離れは、筋腱複合体の損傷を広く含み、軽度から重度まで様々なグレードがあります。
肉離れの原因
陸上競技、サッカー、バスケ、テニス、ラグビーなどで急に加速したり、急な方向転換を行うときに受傷しやすくなります。競技前のストレッチが不十分であったり、長時間休憩をとらずに負荷を加え続けていると疲労が蓄積して発症しやすくなります。また冬場は筋肉が冷えて硬くなり、肉離れを起こしやすくなります。加齢や、以前の肉離れの既往もリスクとなります。
肉離れの症状と起こりやすい筋肉
肉離れが起こる場所としては、80%以上が大腿の後面、特にハムストリングスが多いです。大腿直筋や腓腹筋・ヒラメ筋、内転筋など他の部位にも見られます。ハムストリングス内で最も影響を受けやすいのは大腿二頭筋長頭で、約60%を占め、次いで半膜様筋が続きます。ほかには大腿四頭筋、下腿三頭筋(ふくらはぎ)に生じます。アキレス腱断裂は肉離れではありませんが、同じような受傷機転で生じます。
肉離れの検査
問診で、発症時の状況や自覚症状を聴取します。診察所見では、受傷部の圧痛の範囲や最も痛みが強い部位を調べます。筋の起始部や停止部には特に注意が必要です。画像検査では、超音波検査やMRIが有用で、肉離れの部位と断裂範囲が確認できます。MRIで損傷の型(部位)と程度を把握することが、治療方針を決める上で役立ちます。
肉離れの治療
肉離れの分類に基づいて治療方針が変わります。肉離れの重症度は、損傷部位によって3つに分類されます。軽症型は筋線維部に損傷が見られ、中等症型は腱膜部に損傷が見られ、重症型は筋腱付着部に損傷が見られます。軽症型では、ストレッチ痛を悪化させないことを前提に、できるだけ早くリハビリテーションを進めます。中等症以上の場合は、ストレッチ痛の改善を見ながら、荷重動作や抵抗運動へと移行します。伸張性収縮力の回復と画像検査での損傷部の修復が、復帰の目安となります。重症型の場合は、特に付着部の完全断裂が見られる場合、手術が必要になることもあります。
肉離れのリハビリテーション方針
軽症型
筋線維の部分損傷で、ストレッチ痛や機能低下は軽微ですが、腫脹が強くなると強い痛みや機能低下が生じます。受傷直後は、患部を圧迫して出血を抑え、アイシング(冷却)するなどのRICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)を徹底します。リハビリテーションは、受傷部位を含む関節の自動運動から始め、ストレッチ痛がなくなったら、軽い抵抗運動を開始します。基本動作からスポーツ動作まで、それぞれの動作を確認してから復帰を許可します。スポーツ復帰は概ね2週間前後です。ストレッチ痛がなくなれば、ランニングを徐々に開始します。
中等症型
腱膜損傷が典型例で、受傷時にストレッチ痛があれば、MRIで腱膜損傷の有無や程度を確認します。応急処置の後、歩行時に痛みがあれば、松葉杖を使用して患肢の安静を保ちます。痛みが軽減したら、温熱療法を開始し、日常生活動作の改善を目指します。3週間を過ぎると、MRIで腱膜の連続性が見えてくるので、その後、軽い抵抗運動から開始します。6週間前後で強い抵抗運動も可能になり、伸張性収縮動作ができるようになったら、スポーツ復帰を許可します。復帰時期は1~3ヶ月が目安ですが、個人差があります。
重症型
「腱または筋腱付着部の損傷」で、強い疼痛と運動障害を生じます。ハムストリングス付着部損傷では、座れなくなることもあります。復帰時期は治療方法により異なりますが、数ヶ月要することも多いです。保存療法を行う場合は、損傷部が安定するまで最低3週間は負荷を避け、MRIで修復状況を確認した上で、伸張性収縮力を段階的に強化します。要求されるスポーツレベルによっては手術が必要になることがあります。
参考文献)
・NTB McDaniel Rehabilitation No. 269, 2021
・今日の整形外科治療指針