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肋間神経痛(Intercostal Neuralgia)
肋間神経痛(Intercostal Neuralgia)とは
肋間神経痛は、肋間神経による胸壁の痛みです。当院では、「特に思い当たることはないけど、急に胸の痛みがでてきました。肋間神経痛でしょうか?」と若い患者さんが受診に来られることが多いです。一般的に浸透している言葉なのかな?と思います。
胸神経の前枝は、第1~11番までを肋間神経といい、第12番目は肋下神経といいます。
肋間神経痛の原因
肋間神経痛は特発性と続発性に分類されます。何らかの誘因が引き金となって起こるものを続発性、原因が明らかでないものを特発性肋間神経痛といいます。整形外科の診療範囲は、打撲や骨折に伴うもの、ないし特発性の肋間神経痛が多い印象です。皮膚や骨の腫瘍が原因となるものは極めてまれです。
続発性の肋間神経痛の原因は様々で、肋間神経が障害を受ける帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、外傷(肋骨骨折など)、開胸術後痛、脊椎疾患などが主な原因疾患です。内臓痛や心疾患により起こる関連痛も原因となります。
肋間神経痛の症状
肋間神経が障害され痛みが出現すると、体動によって痛みが増強します。咳や深呼吸で胸壁が激しく動くと、さらに痛みは強くなります。寝返りで痛みが強くなり、夜寝られなかったといわれることもあります。神経の障害部位に一致し、軽度な刺激でびりびりした痛みが誘発されるアロディニアも出現することがあります。
内臓疾患による関連痛としての胸壁の痛みは、体動によって変化せず、感覚障害は見られないので、鑑別に役立ちます。
肋間神経痛の検査
肋間神経痛を一発診断するための検査はなく、問診と身体診察が大切です。
外傷歴があれば肋骨骨折を疑います。肋骨骨折があれば骨折部の圧痛点があります。明らかな受傷起点のない繰り返す運動による疲労骨折もあります。胸郭の圧迫によって痛みが増強することが特徴的で、痛みのある部分のX線検査を行います。特に、骨粗しょう症による非外傷性骨折には注意が必要です。
開胸手術を受けた後の痛みは重症化しやすく、術後の痛みが長引けば、肋間神経痛として早期に治療を開始する必要があります。ほかの疾患を疑う場合は、疑った疾患を除外するための検査を追加します。例えば狭心症などを疑えば、心電図をとったり、循環器専門医にご紹介する必要があるでしょう。
肋間神経痛の診断にあたって大切なこと
大切なことは、その背景に隠れている病気を診断したり、他の病気を除外することです。
帯状疱疹の可能性を考慮すれば、皮膚の観察を行います。帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹の皮疹に一致した部位に痛みがでます。胸椎圧迫骨折では、背部痛とともに胸壁の痛みも出現します。脊椎の叩打痛がみられることがあり、X線で胸椎の圧迫骨折が見られます。骨粗鬆症がある高齢者では圧迫骨折のリスクが高く注意が必要です。肋骨腫瘍ならば骨破壊像が見られます。心臓などの内臓痛の可能性を考慮し、心電図、血液検査を行い、心疾患や食道がん、胃がん、膵がんなどの悪性疾患の精査を行います。
肋軟骨炎、転移性の肋骨の腫瘍は病変部の肋軟骨や肋骨に圧痛を有します。乳房やその周辺の軟部組織の病変では、腫瘤や硬結を触診することができます。
上記のように、他の疑わしい疾患が除外できて初めて、特発性の肋間神経痛と推定することができます。この手順を除外診断と呼びます。除外診断とは、ある特定の病気や状態を診断する過程で、症状が似ている他の可能性がある病気を除外していくことです。
肋間神経痛の治療
肋間神経痛の治療は、原因に応じた治療が必要です。背景にほかの疾患がある場合はその治療が優先されます。
除痛のために非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェンを投与します。帯状疱疹後神経痛や開胸術後痛症候群などの神経因性の痛みであれば、ミロガバリンやプレガバリン、三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンやノルトリプチリンを使用します。痛みのある部位の安静を保つことも重要です。咳や深呼吸で痛みが増強する場合は、バストバンドで胸郭の動きを抑制します。
肋間神経障害による胸腹部の痛みに対して肋間神経ブロックも有効です。肋間神経ブロックは適応が広く、比較的簡便ですが、合併症は稀ではなく、気胸や局所麻酔薬中毒の報告もあります。従って当院ではブロック注射の適応がある方(特に内科的な基礎疾患が背景にある方)に対しては安全に施行できる病院をご紹介させていただきます。
先生から一言
肋間神経痛は整形外科の外来ではしばしばみられる症状です。腹痛などと同じように病名というよりは症状といったほうが正しいでしょう。大切なことは、肋間神経痛を起こすような背景に隠れている疾患がないかを考えることです。症状が長引くときは整形外科を受診するようにしましょう。