DISEASE DETAILS 疾患一覧
腰・背中の痛み
脊柱側弯症
脊柱側弯症(Scoliosis)とは
脊柱側弯症(以下、側弯症)は、背骨が正面から見て左右に曲がり、さらに回旋(ねじれ)している状態です。小児の側弯症は、発症年齢によって、早期発症側弯症(9歳以下の発症)と思春期側弯症(10歳以降の発症)に分けられます。ほとんどが思春期側弯症であり、さらに思春期側弯症は以下のように「構築性側弯症」と「機能性側弯症」に分けられます。治療方針が全く異なるため、この2つの鑑別は重要です。
背骨が正面から見て左右に曲がり、さらにねじれている状態です
機能性側弯症と構築性側弯症
①機能性側弯症:脊柱が外的要因の代償として変形している状態です。そのため、外的要因を排除することで側弯が改善することがあります。原因としては腰痛、腰椎椎間板ヘルニア、股関節の変形など脚長差に起因する骨盤の傾斜などがあります。
②構築性側弯症:神経疾患や筋ジストロフィーなどの筋疾患を原因とした側弯症(神経筋原性側弯)、椎体奇形を原因とした側弯症(先天性側弯)、Marfan症候群などがあります。中でも最も頻度が高いのは特発性側弯症で、思春期特発性側弯症とも呼ばれ、側弯症の原因となる疾患がない側弯症です。背景となる疾患を治療しても側弯は改善しないため、側弯の治療が必要です。
思春期特発性側弯症の発生頻度は、女子が男子の5~7倍であり、女子の1~2%程度で発生します。側弯症の発症と進行は成長期に一致するため、女児では小学4~6年生に発症し、中学2~3年生まで進行する可能性があります。成長期が終了すると、重度側弯症以外は進行しないとされています。
思春期特発性側弯症は、遺伝的因子と生活習慣因子が関与して発症する多因子遺伝病と考えられています。クラシックバレエの経験ややせ(低BMI)などが側弯症患者で有意に高頻度であったことから、これらの因子が側弯症のリスクに関与する可能性が指摘されています。その一方で、鞄の持ち方や重量、食事内容、睡眠時間・姿勢、勉強時間・姿勢、食事などの生活習慣は側弯症と関連がないことが判明しています。牛乳、乳製品、魚介類、肉類などの食品摂取量と側弯症との間にも明確な関連性はありません。
脊柱側弯症の症状
〇腰背部痛
脊柱変形部位は、回旋を伴い凸側が背側に突出します。同部位を覆う筋肉組織は物理的なストレスがかかるため、疼痛を引き起こすことがあります。成人期になると、これらの変形が脊柱の変性を引き起こし、さらに痛みが強くなることがあります。
〇心理的ストレス
みための変形が進行すると、心理的および社会的な機能、身体イメージが悪くなります。側弯症の25~43%において、孤立感、抑うつ感、余暇活動参加や交際の機会が減少していることが報告されています。見た目にコンプレックスがあると、積極的に人がいる場に参加しようと思えなくなることは納得できます。
〇肺機能低下
重度の側弯症で肺機能低下がみられます。
脊柱側弯症の診察
〇就学時および定期健康診断時
学校の健康診断で側弯症が疑われ、医療機関を受診することがあります。友人や家族から指摘されて受診することもあります。
〇既往歴の確認
多くの側弯症は特発性で、全身に合併症がない場合がほとんどですが、全身疾患の一症状として側弯症が発生することもあります。特に、心臓病や内臓疾患の有無を確認する必要があります。
〇視診
脊柱の変形に伴い、肩の高さや腰のくびれの非対称、肩甲骨部の隆起(ハンプ)など、特徴的な体幹変形が観察できます。カフェオレ斑(体の茶色の斑点)は神経線維腫症を疑わせる所見です。
肩の高さの非対称、肩甲骨部の隆起(ハンプ)はよく見られる側弯症のサインです
©2023 Icahn School of Medicine at Mount Sinai
〇前屈テスト
側弯症の検査でよく用いられます。前屈みになることで、肋骨の隆起(ハンプ)や腰部の隆起がより目立ち、体表面の変形の有無と程度を評価できます。胸椎と腰椎にカーブを持つダブルカーブタイプではハンプが目立たないため、重症になるまで気づかれないこともあり注意が必要です。
脊柱側弯症の画像検査
脊柱レントゲン: 側弯症の確定診断は、X線写真で脊柱変形を確認します。Cobb角10°以上の側弯が確認された場合、側弯症と診断されます。
Cobb(コブ)角:側弯症では、カーブの大きさをコブ角で表現します。コブ角の測定法は、目的とするカーブの頭側、尾側にある最大傾斜する椎体の上縁、下縁のなす角度です。
Risser sign(リッサーサイン):リッサーサインは、骨盤の一部である腸骨の成長を評価するために使用される指標で、特に思春期の脊柱側弯症の進行予測と治療の判断に役立ちます。リッサーサインは、腸骨の骨端線の骨化の程度に基づいて、0~5までのスケールで評価されます。
レントゲンでのCobb角測定が最も重要。10度以上で側弯と診断します。
© 1995-2023. The Nemours Foundation.
リッサーサインは骨盤のレントゲンにて腸骨骨端線の出現パターンからgrade 0~5までの6段階で分類されます。
Copyright © 2023 Scoliosis 3DC®
MRI:神経学的所見(特に腹壁反射)の異常、男児の側弯、椎体奇形などがある場合、頚椎~腰椎の全脊椎MRIの撮影が推奨されます。脊髄異常(脊髄腫瘍、脊髄空洞症、脊髄係留症候群など)を伴う場合があります。
CT:レントゲン検査で椎体奇形が確認された場合や、視診から神経線維腫症が疑われた場合、CTによる椎体の評価が必要です。
呼吸機能検査:Cobb角が80°を超える重度の側弯症では、肺機能が低下するため、肺機能評価が必要です。
側弯症の早期発見のため ~整形外科医による検診の重要性~
内尾らは学校健診におけるにおいて「従来の学校医による検診では脊柱側弯症の生徒が十分検出できないが、整形外科医による運動器検診によって検出率が向上する」と述べています。
本研究から学校医による健診のみでは治療の必要な重症例を含む脊柱側弯症の生徒が十分に検出されていない現状が明らかとなった.一方,整形外科医による検診では高率に検出することができたが,全生徒を検診することはマンパワーの点から現実的でない.改めて学校医や養護教諭へ側弯症検診の重要性や診察手技について啓発・教育を行うことや,一定の検診精度を担保できる計測機器の導入も検討すべきである.と述べています。
当院に受診されるお子さんも学校検診で指摘されたことはないけれども背骨が曲がっていることをご両親が気づき、診察・レントゲン検査で側弯症と診断したことが何度かあります。少しでも気になれば整形外科医の診察を受けることが重要です。
脊柱側弯症の治療
小児の側弯症治療の目的は、短期的に変形の進行を防ぎ、長期的に脊柱の変性を避けることです。思春期側弯症治療は、定期的な観察、装具療法、手術(矯正固定術)の3つがあります。しかし、早期発症側弯症治療は専門的で複雑なため、診断がつきしだい専門医への紹介が望ましいと考えます。
定期的な観察:側弯の進行と成長は密接に関連します。第二次性徴期の急成長期(Growth spurt)
に側弯が急速に進行することがあるため、Cobb角20°以下の軽度な側弯症であっても4~6ヶ月ごとにX線検査で変形の悪化を評価します。また、成人期に進行する側弯症については、長期的な観察が必要です。
装具療法:骨が未成熟で、観察でコブ角の悪化が見られるか予測される場合、装具療法が適用されます。通常、Cobb角 20~25°で装具療法を開始します。治療中も4~6ヶ月ごとにX線で変形の悪化を評価します。
手術:装具療法で進行が抑えられず、重度の変形が進む場合は手術が必要です。乳幼児や学童期の側弯症は非固定手術、思春期以降は矯正固定術が適用されます。非固定矯正手術には、Growing rod法やVEPTR法があります。矯正固定術は、40~50°以上の重度の側弯症に適用されます。脊椎インプラントを使って固定し、骨移植で骨癒合を目指します。手術は高い技術と正確性が求められ、脊髄モニタリングやナビゲーションを使って安全に行われます。
専門医にご紹介するタイミング
早期発症側弯症
・さまざまな病気が関連するケースが多く、多くは小児病院で指摘されることが多い。
・ 偶然見つかる場合は、特発性側弯症が一般的ですが、病態の詳細は不明な点が多い。自然に改善や消失するケースもある一方で、急速に進行する場合もあるため、診断が確定したら速やかに専門医に紹介いたします。
思春期側弯症
・ 骨が未熟なケース(Risser 0~3)では、定期的な経過観察を行い、コブ角が20~25°に悪化した場合は専門医に紹介する。
・ 骨成熟が近いケース(Risser 4 以上)でも、コブ角が30°を超える場合は専門医への紹介が必要である。
参考文献と著作権)
・内尾 祐司ら. 脊柱側弯症検診の現況と学校運動器検診の効果. 日整会誌 J. Jpn. Orthop. Assoc. 97(3) 2023.
・渡辺航太. 脊柱側弯症. Spinal scoliosis. 小児内科 vol. 54 増刊号, 624-629, 2022.
・© 1995-2023. The Nemours Foundation.
先生から一言
当院に受診されるお子さんも学校検診で指摘されたことはないけれども背骨が曲がっていることをご両親が気づき、診察・レントゲン検査で側弯症と診断したことが何度かあります。
少しでも気になれば整形外科医の診察を早めに受けることが重要です。