整形外科・リハビリテーション科・リウマチ科・骨粗しょう症外来・ペインクリニック

06-6396-1374
診療時間
9:00~12:30 13:00
まで
× ×
14:45~18:15 × × × ×
                     
  • ※休診日 水曜午後・土曜午後・日曜・祝日
WEB予約 アクセス

DISEASE DETAILS 疾患一覧

腰・背中の痛み

腰椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニアとは

椎間板は背骨(椎骨)同士の間でクッションの役割を担う組織で、中央の「髄核」と外側の「線維輪」から成ります。腰椎椎間板ヘルニアは、変性した髄核が線維輪を破って脊柱管内へ突出・脱出し、神経を直接圧迫して腰痛や神経症状を生じる病態です。10代では強い前屈制限を伴う腰痛として発症することがあり、20~40代では腰痛に加え、腰部から大腿・下腿・足部への放散痛やしびれを伴うことがあります。疫学的には、有病率は概ね約1%と推定され、手術を要する症例は男性にやや多く、好発部位はL4/5とL5/S1、年齢は20~40代が中心(平均40代)と報告されています。

腰椎椎間板ヘルニアの病態・リスクと自然経過

腰椎の椎間板は20代後半から加齢に伴って水分が減り、髄核と線維輪の二重構造が不明瞭になるなどの変性が進みます。こうした変性椎間板に、喫煙、肥満、全身振動にさらされる職業(建築業など)などの要因や遺伝的素因が重なることで、椎間板が脊柱管内や椎間孔内外へ膨隆・脱出し、腰部の神経根や硬膜管を圧迫して発症します。スポーツが要因となるかについては結論が出ていません。

病態としては、飛び出した椎間板(髄核)が神経を機械的に圧迫し神経の血流・栄養障害や浮腫を生じるうえ、椎間板由来物質や自己免疫的反応による炎症が加わって痛みやしびれが出現します。痛みの性質は、神経障害性疼痛炎症による痛みが混ざる「混合性疼痛」で、心理・社会的背景も症状の強さに影響します。

ヘルニアは自然になくなることがある?

椎間板ヘルニアは自然に縮小・吸収して改善することがあり、特に大きく脱出したタイプ(extrusion)や遊離片を伴うタイプ(sequestration)、頭尾方向へ脱出したもの、造影MRIでリング状増強や辺縁肥厚を示すもの、脱出量が多いものではその傾向が強いと報告されています。

ヘルニア消失の機序としては、炎症細胞の浸潤と血管新生によりマトリックスメタロプロテアーゼなどが産生され、ヘルニア組織の分解・吸収が進むと考えられています。症候性症例の約60%で自然退縮がみられ、平均しておおむね3か月で縮小するとの報告があるため、治療は原則としてまず保存的に開始します。

腰椎椎間板ヘルニアの症状

神経の圧迫と炎症が重なって、腰痛に加えお尻から脚(大腿・下腿・足先)へ走る痛みやしびれ力の入りにくさ(麻痺)が生じることがあります。症状の強さや持続には身体要因だけでなく生活背景やストレスも影響します。腰椎椎間板ヘルニアによる神経根症では、神経根の知覚の支配領域(デルマトーム)に一致した片側の腰部・大腿・下腿へ放散痛が出現し、咳やくしゃみで増悪しやすいのが特徴です。

年齢による臨床像の違いとして、10代では下肢痛を伴わず腰痛のみで発症し、前屈制限が目立つことが少なくありません。一方、中高年ではL2~3より頭側の椎間に生じる頻度が相対的に高く、腰痛や大腿・下腿部痛を避けようとして疼痛性側弯や疼痛性歩行がみられることがあります。

腰椎椎間板ヘルニアの身体診察

腰椎椎間板ヘルニアの身体診察では、診断と障害神経根の同定のために綿密な神経学的評価が不可欠です。体幹前屈制限、ハムストリングスの緊張、疼痛回避による側弯がみられることがあり、感覚障害はデルマトームに一致して分布し、下肢への放散痛の領域とも整合するかを確認します。あわせて徒手筋力テストで筋力低下の有無を評価し、必要に応じて深部腱反射(膝蓋腱反射・アキレス腱反射など)の変化を左右差も含めて観察します。

神経根緊張テストとしては下肢挙上テスト(sitting SLR)やLasegueテスト、大腿神経伸展テスト(FNST)が陽性となることが多い一方、これらはヘルニア以外の疾患でも陽性となり得るため注意が必要です。最終的には、病歴、身体所見、神経学的所見、画像所見の整合性を重視して総合的に判断します。

腰椎椎間板ヘルニアの画像検査

レントゲン検査は、骨折や脊椎すべり、腫瘍・感染などの鑑別に用います。疼痛の代償として側弯がみられても、痛みが改善すると姿勢や脊柱アラインメントが整ってくることは少なくありません。CTは、MRIが施行できない場合の代替として検討し、骨性変化や石灰化の評価に有用です。

MRIは、椎間板の変性や脊柱管内への膨隆・脱出、硬膜管や神経根への前方からの圧迫を可視化でき、診断の中心となる検査です。ただし無症候性の膨隆も一定割合で存在するため、画像のみで診断せず、症状や神経学的所見との整合性を前提に判断します。当院にはMRI装置がないため、必要時は連携医療機関へ速やかに紹介して撮像し、画像到着後は当院で結果をご説明のうえ治療方針をご提案します。

MRIで椎間板の突出が見えても、それだけでヘルニアとは診断できない

MRIで椎間板のふくらみや突出が見えても、それだけで「ヘルニアです」とは診断できません。実際、椎間板の膨隆の約30%は無症状と報告されています。腰椎椎間板ヘルニアの診断では、主に片側(または片側優位)の腰〜脚の痛みがあり、安静時も続くこと、SLRテスト(脚上げテスト)が70°以下で陽性であること(※高齢の方では絶対条件ではありません)、MRIなどで椎間板の突出を認める一方で明らかな脊柱管狭窄の合併がないこと、そして何より「症状」と「画像所見」が一致していることを総合的に確認します。当院では画像だけに頼らず、症状の出方や神経学的所見を丁寧に評価し、必要な検査を組み合わせて診断します。

腰椎椎間板ヘルニアの治療

薬物療法は保存的治療の基本であり、まずNSAIDsを用いることが多いものの、高品質なエビデンスは限定的とされています。神経障害性疼痛治療薬であるプレガバリンやミロガバリンは適応薬として期待されますが、椎間板ヘルニアに対する有効性は確立していません。ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液は腰痛や神経障害性疼痛で鎮痛効果と高い忍容性が示されており適応の拡大が期待されます。トラマドール(弱オピオイド)は他の神経障害性疼痛で有効性とQOL改善が示されていますが、有害事象に注意して使用します。アセトアミノフェンやデュロキセチンを組み合わせることもあり、症状や併存疾患に応じて選択します。

神経ブロック療法には仙骨裂孔ブロック、硬膜外ブロック、選択的神経根ブロックなどがあり、局所麻酔薬による痛覚伝達の遮断や神経血流の改善が期待できます。副腎皮質ステロイドを併用する方法は、治療後3〜12か月程度の改善が見込まれる可能性がありますが、長期効果に関する質の高いエビデンスは十分ではありません。選択的神経根ブロックは責任神経根の同定に有用で、同時に症状緩和の目的でも実施します。神経根ブロックは脊椎外科での施行が安全なので、必要時は基幹病院にご紹介しています。

腰椎椎間板ヘルニアの手術治療

腰椎椎間板ヘルニアの手術は、急性重症の馬尾症候群(両下肢の痛み・感覚障害・麻痺に加えて膀胱直腸障害や会陰部の異常を伴う状態)や、進行性の運動麻痺がある場合に速やかに適応となります。さらに、発症からおおむね3か月以上たっても強い痛みなどの症状が十分に軽減しない場合や、中等度の神経脱落所見が持続する場合、恒久的な機能障害が懸念される場合、早期の社会復帰希望が強い場合などは相対的適応として手術を検討します。いずれも患者さんの生活背景や就労状況を含め、総合的に判断します。

治療成績としては、手術は術直後から6か月程度までは保存治療より疼痛軽減や機能改善に優れる傾向がみられますが、治療開始から6か月以降では両者に有意差が乏しくなると報告されています。再発については、同一椎間板高位で術後再発を認めることがあり(術後2年で約23%)、そのうち約56%は無症状です。再手術が必要となる割合は、術後5年までにおおむね1.5〜8.5%とされています。

術式は低侵襲化が進んでおり、従来の椎弓間アプローチを顕微鏡下に行う方法に加えて、直径16mmの円筒レトラクターを用いるMED(microendoscopic discectomy)が国内で一般的に実施されています。さらに、PELD(経皮的内視鏡下腰椎椎間板摘出術)をはじめ、2018年以降はFESS(full endoscopic spine surgery)として小径内視鏡と専用器具を用いた経椎弓間・経椎弓・経椎間孔アプローチが広まりつつあり、局所麻酔または全身麻酔下、生理食塩水灌流下で行う最小侵襲術式として有用ですが、術者には一定の習熟を要します。

「後縦靱帯下脱出型」の神経根症には、2018年から注射用コンドロイチン硫酸リアーゼ(コンドリアーゼ)を用いた椎間板内注入療法(chemonucleolysis)という選択肢もあり、髄核のプロテオグリカンを分解して内圧を低下させ、神経根圧迫の軽減を図ります。ただし、膨隆型・突出型・後縦靭帯穿破の脱出型・遊離脱出型は適応外で、再投与不可(生涯一度のみ)のため、施行のタイミングは慎重に検討します。

参考文献)

・腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン 改訂第 3 版

・播广谷 勝三.痛みの治療:腰椎椎間板ヘルニア.臨牀と研究.2024;101(6):669-674.

Information      連絡先

06-6396-1374           

お電話でのご予約はできません。