整形外科・リハビリテーション科・リウマチ科・骨粗鬆症外来

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けが(外傷)

膝蓋骨脱臼・膝蓋骨不安定症

膝蓋骨脱臼・膝蓋骨不安定症とは

膝蓋骨が大腿骨滑車溝から外側に脱臼した状態が膝蓋骨脱臼です。完全に外れていないものを亜脱臼といいます。膝外傷の約3%が膝蓋骨脱臼であると言われるほど頻度の高い疾患であり、若年者ほど発症しやすいとされます。性差はほとんどなく、やや女性に多いとされています。約2/3がスポーツ活動中に受傷し、特にダンスなどの下肢を捻る動作を伴う競技で発生します。大腿骨滑車の低形成や全身関節弛緩など脱臼しやすい素因を持つ思春期から青年期に多く発生します。

膝蓋骨脱臼・膝蓋骨不安定症の原因

脱臼の原因は様々で、外傷だけでなく普段の日常生活動作(例えば、歩行中に後ろを振り返った等)でも起こり得ます。ラグビーの試合で相手に膝の外側から衝突されたなどの高エネルギー外傷から、椅子から立ち上がるときに膝がずれたなどの低エネルギー外傷まで、受傷の状況は様々です。低エネルギー外傷であっても発症しうることに注意が必要です。

ほとんどのケースで何らかの形態異常がベースにあり、そこに外力が加わることによって膝蓋骨脱臼が生じます。形態異常がないあるいは少ない症例では大きな外力が必要となりますが、形態異常が強い症例ではわずかに膝を捻ったり、軽度屈曲位で大腿四頭筋に少し力が入っただけで脱臼することもあります。さらに形態異常が強い場合には、特定の膝の屈曲角度にすると常に脱臼する症例や、常時脱臼してしまっている症例もあります。形態異常は大きく「骨性形態異常」のものと「軟部組織形態異常」のものに大別されますが、形態異常の程度およびその組み合わせはかなり多種多様です。

①骨性形態異常

大腿骨滑車低形成(滑車の溝が浅い状態)、脛骨粗面の外偏位(膝蓋腱脛骨付着部が外側に位置している)、膝蓋骨高位(大腿骨滑車に対して膝蓋骨が近位に位置している状態)、膝蓋骨形態などがあります。

②軟部組織性形態異常

軟部組織性形態異常は靱帯などの静的安定装置(static stabilizer)と、筋腱などの動的安定装置(dynamic stabilizer)に大別されます。

Static stabilizerには内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)、内側膝蓋脛骨靱帯、内側膝蓋半月靱帯、外側膝蓋大腿靱帯が含まれます。特に膝蓋骨外方偏位の主要な制動装置としてMPFLが重要です。

Dynamic stabilizerには大腿四頭筋と膝蓋腱があります。エビデンスは少ないですが、内側広筋の低形成や、内側広筋の筋収縮が外側広筋に比べて遅いなどの報告があります。他にも全身関節弛緩性(遺伝性のコラーゲン異常)、外側支帯や腸脛靱帯の拘縮などの病態が考えられています。

膝蓋骨脱臼・膝蓋骨不安定症の症状

脱臼と亜脱臼の区別は難しく、脱臼の場合にはガクッと「膝くずれ」が生じて転倒することが多いですが、亜脱臼では「膝が抜けそう」な感じにとどまることが多いです。脱臼、亜脱臼の受傷に伴い、膝関節の腫脹、疼痛が生じ、可動域制限を伴います。関節内に出血することにより膝関節血腫も生じます。

膝蓋骨脱臼・膝蓋骨不安定症の検査

症状がいつ初めて起こったのか、どのようにして起こったのか、何回くらい脱臼起こったのかを問診することが重要です。受診時には膝蓋骨が整復されていることも多いため、注意が必要です。約15%に家族歴が認められるとされ、遺伝性疾患(ダウン症候群、Nail-patella syndrome、Kabuki make-up syndromeなど)の有無も確認します。


初回脱臼の場合、膝内側を中心に広範囲に強い腫脹を認めますが、再脱臼や不安定症では腫脹がないこともあります。大腿骨の内側部付近に圧痛を認めることがあり、内側側副靱帯損傷と鑑別する必要があります。腫脹や疼痛、可動域が改善した後は、アプレヘンションテストが有用です(膝蓋骨を外側に偏位させたときに恐怖感や不快感を訴えれば陽性)。膝蓋骨の動きを観察することも大切で、椅子に座った状態から膝を伸ばすと、通常膝蓋骨は正中を滑走しますが、膝蓋骨不安定症があると膝蓋骨が外側へ偏位することが多くなります。

その他、全身関節弛緩性、Qアングル(膝蓋腱と大腿四頭筋のなす角度)、Jサイン(膝伸展時に膝蓋骨が外方に偏位する現象)、膝屈伸での膝蓋骨のトラッキング(伸展位付近で外傷性に脱臼する反復性か、屈曲位で常時外方脱臼する習慣性か)、下肢全体のアライメント異常として外反膝の有無を診察します。

膝蓋骨脱臼・膝蓋骨不安定症の画像診断

①単純X線

軸写(スカイラインビュー)撮影が有用で、明らかな脱臼がない場合でも、左右を比べると膝蓋骨が不安定な状態であることが確認できます。X線側面像ではクロッシングサインの有無と膝蓋骨高位を確認します。クロッシングサインとは大腿骨滑車の低形成のときに見られるサインであり、膝蓋骨脱臼症例の96%以上に見られるとされます。

②MRI
関節面骨軟骨骨折から生じる遊離体は、単純X線では分からないことが多いので、必ずMRIを追加します。MRIは膝にコイルを装着して撮影するため、軽度屈曲位での画像となります。MPFLの断裂はMRIで分かりにくいですが、急性期であれば大腿骨外顆外側と膝蓋骨内側に骨挫傷を認めれば膝蓋骨脱臼と診断できます。また、関節軟骨損傷や骨軟骨骨折の有無も確認します。ごく稀に前十字靱帯損傷を合併していることもあります。

③CT
骨性形態異常を把握するためにCTも検討します。CTは膝蓋骨近位から脛骨粗面遠位までを撮影し、tibial tubercle trochlear groove distance(TT-TG distance)を計測します。可能であれば、下肢全長CTを撮影し、大腿骨の捻転など下肢全体のアライメントも把握します。

膝蓋骨脱臼・膝蓋骨不安定症の保存治療

初回膝蓋骨脱臼に関するシステマティックレビューでは、特定の症例を除いて保存的治療の適応と考えられています。初回脱臼で関節面骨折がない場合はMPFLの裂離骨折があっても、3か月間の保存治療を検討します。保存治療は、可動域訓練、膝蓋骨脱臼防止装具、および内側広筋の筋力訓練です。軟骨損傷や骨軟骨損傷による関節内遊離体があるもの、内側支持機構に大きな損傷が見られるものに関しては手術療法が選択されます。また、再脱臼を引き起こしやすい素因を持つケース(大腿骨前捻、脛骨外旋、外反膝、膝蓋骨形成不全、大腿骨滑車の形成不全、膝蓋骨高位、内側広筋萎縮、偏平足、全身弛緩性)も手術療法を検討する必要があります。膝蓋骨内側縁に裂離骨折が見られる症例や若いアスリートに関しては、手術療法を行ったほうが良いとする報告もあり、治療方針の決定は慎重に行う必要があります。初回脱臼後には20~50%の症例で再脱臼が起こるとされ、さらに大腿骨滑車の低形成を伴う若年者に限れば、再脱臼率は約70%に上ります。明らかな脱臼歴がないが外方への不安定性を訴える膝蓋骨不安定症で、形態異常がない場合は保存治療を選択します。反対側のMPFL再建後で明らかに形態異常がある場合には、患者さんと相談の上、MPFL再建術を行います。

初回の外傷性膝蓋骨脱臼に対する保存的治療の方法は確立されておらず、報告ごとに治療法が異なるため成績も一定しないのが現状です。以下に一般的な保存治療について述べます。

①脱臼の整復
膝蓋骨が脱臼位の場合には、患肢をリラックスして大腿四頭筋の緊張を緩めてもらい、膝関節をゆっくりと伸展位に持っていくと同時に膝蓋骨外側縁を内側に押し戻すことで整復を行います。

②RICE
整復位を得た外傷性膝蓋骨脱臼に対する初期治療は、他のスポーツ外傷と同様にRICE(Rest, Ice, Compression, Elevation)を行い、必要に応じてNSAIDsを投与します。固定はギプスやシーネを用います。初期固定をどの角度で行うかは報告によって異なりますが、早期からの荷重を重視する場合は伸展位で固定を行います。

③膝蓋骨装具
膝蓋骨装具は膝蓋骨に接触する外側に土手のような構造物が付いており、膝蓋骨が外側にシフトするのを防止する構造になっています。膝蓋骨装具を装着しても膝蓋骨のtilt angleや外方への移動量には効果が見られないという報告もありますが、軽度屈曲位では制動効果があるとされ、何よりも疼痛の軽減に効果があると報告されています。

④リハビリテーション
腫脹の軽減を図るため、受傷急性期には積極的な可動域訓練を行いません。固定装具から膝蓋骨装具に切り替えた後は積極的な可動域訓練を行い、完全な可動域を獲得します。受傷直後にシーネやハイブリッドシーネで固定し、疼痛が落ち着いたら特に制限をかけずに全荷重歩行を開始します。同時に、筋力低下を予防するため、シーネ固定したままでも行える筋力訓練を患者の疼痛具合に合わせて開始します。シーネ固定から膝蓋骨装具に切り替えた後に積極的なリハビリテーションを行い、特に大腿四頭筋筋力や内側広筋の回復を図ります。筋力の回復に伴い、スクワットなどの閉鎖運動連鎖運動を行います。

スポーツ復帰は、十分に筋力の回復が図られ、膝蓋骨の不安定性が回復した時点で、カッティング動作やサイドホップ、急激な方向転換などの下肢のバランス動作訓練を行います。これらがうまくできるようになった後に、元のスポーツ競技特性に合わせたトレーニングを始めます。スポーツ復帰時期に関しては、現在では何週間という時期で決めるのではなく、復帰可能な条件を満たした時点で復帰を許可するべきとされています。Menetreyらは、①疼痛の消失、②腫脹の消失、③膝蓋骨の安定、④正常な可動域、⑤85〜90%の筋力回復、⑥良好な動的安定性を条件として挙げています。一概には言えませんが、8〜12週程度で復帰を許可することが一般的とされています。

膝蓋骨脱臼・膝蓋骨不安定症の手術治療

内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)は膝蓋骨の外方偏位に対する主要な制動を担っており、膝蓋骨脱臼においてほぼ全例で断裂していると報告されており、3か月間の保存治療後に不安定感が残存する症例、あるいは反復性膝蓋骨脱臼例ではMPFL再建術を基本とした手術治療が検討されます。習慣性膝蓋骨脱臼では強い骨性形態異常を伴うことが多いため、MPFL再建術に外側支帯および外側広筋の切離術を行い、さらに脱臼傾向が改善しない場合には脛骨粗面内方移動術を検討します。新鮮な関節面骨軟骨骨折を認めた場合は、骨軟骨片固定術を追加し、吸収性ピンで整復固定します。膝蓋骨内側関節面に骨軟骨骨折を認めることが多いですが、大腿骨外顆前面の骨軟骨骨折の場合もあります。

術後の不安定感は、膝蓋骨がしっかりと安定化されていても、約10%の症例で残存します。これは、初回脱臼から手術までの期間が長い症例や高年の女性に多く見られます。再脱臼は依然として4%程度の症例に生じているとの報告があります。

参考文献)

・診断と治療 voL 111-no.62023(22)

・MB Orthop.33(9):59-67,2020, 膝蓋骨脱臼・膝蓋骨不安定症の診断と治療. 北 圭介.

・整形外科 Surgical Technique vol.10 no.1 2020. 外傷性膝蓋骨脱臼に対する保存的治療. 増田裕也.

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