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首の痛み
頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)
頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)とは
頚椎後縦靭帯骨化症は、頚椎の椎体後面を縦走する後縦靭帯(こうじゅうじんたい)が骨化し、これにより頚髄や神経根などの神経組織が圧迫される疾患です。一方、後縦靭帯に骨化が認められても神経症状がない場合は、頚椎後縦靭帯骨化と呼ばれて区別されます。
本症には家族集積性がみられ、遺伝的素因の関与が強く示唆されています。日本人の約2%にOPLLが存在し、そのうち約15%で脊髄症を認めます。初発は50歳前後に多く、男女比はおよそ2:1です。また、糖尿病の合併や全身的な骨化傾向を伴うことが少なくありません。
圧迫性脊髄症は緩徐に進行する場合が多いですが、外傷を契機に症状が急速に増悪する例もあります。本症があるかたは頚の神経を痛めやすいので、頚部への外傷に注意する必要があります。

頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)の原因
頚椎後縦靭帯骨化を有する患者の約半数では、胸椎や腰椎にも後縦靭帯の骨化を伴うことが知られています。発生には遺伝因子と環境因子の双方が関与していると考えられ、肥満や糖代謝異常(糖尿病など)との関連が指摘されています。

頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)の症状
頚椎後縦靭帯骨化症は、脊髄の圧迫による症状(脊髄症)や神経根の圧迫による症状(神経根症)のいずれの原因にもなり得ます。初期には無症状のことも多く、あっても軽度の頚部痛や肩甲帯のだるさなど局所症状にとどまります。
神経根症では上肢の痛み、しびれ、筋力低下などが主症状となります。通常、神経根の支配領域に沿った片側上肢の痛みやしびれ、麻痺、筋萎縮が生じます。頚椎の後屈により上肢の痛みやしびれが誘発されることが多いです。
脊髄症では、上肢のしびれ・感覚障害、手指の巧緻運動障害、歩行障害が出現し、重症例では立位・歩行が困難となり、膀胱直腸障害を伴うことがあります。外傷を契機に発症あるいは急速に悪化する場合も少なくありません。また、頚椎後縦靭帯骨化症は頚髄損傷の危険因子であり、骨折を伴わない頚髄損傷(非骨傷性頚髄損傷)の発生リスクを高めます。手指の巧緻運動障害を生じると、ボタンのかけ外し、書字、箸の使用などの細かな手作業が困難になります。
上肢機能の簡易評価として「10秒テスト」(手掌を下にして10秒間できるだけ速くグーパーを繰り返すテスト)が有用であり、脊髄症患者では年齢差はあるものの概ね20回未満となります。また、歩行障害として、ふらつきや膝折れによる痙性歩行がみられ、とくに階段下降が困難になります。さらに、深部腱反射の亢進やバビンスキー反射などの病的反射が出現することがあります。
頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)の検査
頚椎後縦靭帯骨化症は、単純X線(レントゲン検査)の側面像における後縦靭帯の骨化像で診断可能です。ただし、骨化巣が小さい場合には正確な読影が困難となることがあります。骨化巣の評価にはCTが有用です。特に再構成画像では、矢状断像により骨化のタイプ、骨化巣の連続性、椎体との癒合の有無などを明瞭に描出できます。横断像では、脊柱管内における骨化巣の占拠率や局在を把握することができます。正確な診断には、単純X線像とCTの両方を組み合わせて評価することが重要です。

MRIでは、骨化巣による脊髄や神経根への圧迫の程度を評価できます。特にT2強調画像における脊髄内高信号は脊髄症の重症度と関連する重要な所見です。ただし、骨化の有無に関してはCTに比べ診断精度が劣り、MRI単独での判定は困難です。
頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)の治療
脊髄症状を伴わず、頚部痛や神経根症を主体とする場合、あるいは脊髄症が軽度な場合には、ロキソプロフェンなどの消炎鎮痛薬やプレガバリン、ミロガバリンなどによる薬物療法が行われます。加えて、頚椎の過伸展を避けることや、転倒・転落を防止するための日常生活指導はきわめて重要です。局所安静を目的とした装具療法や、頚椎牽引療法が選択されることもあります。
脊髄症を発症し日常生活に大きな支障をきたす場合、症状が進行性である場合、あるいは脊柱管狭窄が高度で脊髄圧迫が強い場合には、保存療法による改善は期待できず、手術療法が適応となります。手術法としては、前方除圧固定術、後方除圧術、あるいはインプラントを用いた後方固定術などが、症例に応じて選択されます。

参考文献)
・頚椎後縦靭帯骨化症. 整形外科看護 29(5): 424-427, 2024.
・Lineage Medical, Inc. All rights reserved. Ossification Posterior Longitudinal Ligament.