DISEASE DETAILS 疾患一覧
手首・手指の痛み
尺側手根伸筋(ECU)腱鞘炎
尺側手根伸筋(ECU)腱鞘炎|こんな症状の方はご来院ください
- 手首の小指側(尺側)が痛い、押すと痛む
- ペットボトルを開ける、雑巾をしぼる、荷物を持ち上げるなどで痛みが強くなる
- 前腕をねじる動き(特に回外:手のひらを上に向ける)や、手首を反らす動きで痛みが増す
- スポーツ(テニス・バドミントン・ゴルフ・野球・筋トレのプランクや腕立て)で小指側がズキッとする
- 小指側の腱が「コリッ」「キシキシ」と鳴る、引っかかる感じがある
- 握力が落ちた、物をしっかり握れない・振れない・支えられない
- 痛みが続いて日常生活や仕事・部活に支障が出ている(1〜2週間以上よくならない)
- 以前「TFCC損傷」や「尺骨茎状突起のケガ」と言われたことがある
三国ゆう整形外科では、症状の段階に合わせて、動作の見直し・リハビリ・装具・薬や注射を組み合わせ、早期の痛み軽減と再発予防をめざします。阪急宝塚線「三国駅」南口から徒歩約1分、国道176号線沿い。屋上に41台分の駐車場あり、受診の方には駐車券(無料)をお渡しします。
尺側手根伸筋腱鞘炎とは
手関節尺側、すなわち小指側の痛みで、尺側手根伸筋(extensor carpi ulnaris:ECU)腱の炎症や不安定、腱症、さらには断裂まで、単独あるいは混在して生じることがあります。道具を扱うスポーツに多くみられます。
尺側手根伸筋腱鞘炎の原因と起こりやすい動作
ECUは上腕骨外側上顆から起始して第5中手骨背側基部に停止し、尺骨遠位背側の溝の上で、伸筋支帯の第6コンパートメントと尺骨に付着する薄い線維性組織であるsubsheathの二重構造により線維‐骨性トンネルを形成します。前腕を回外した姿位では腱の遠位部で走行角が約30度変化するため機械的負荷が増えやすく、スポーツ場面では近位関節の可動域制限や筋緊張、握り方やフォームの不良などによって回外が強制され、腱鞘への負担が増大します。三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷に伴う遠位橈尺関節の不安定性が二次的にECU腱鞘炎を引き起こすことがあり、長期経過例や尺骨茎状突起偽関節を合併する場合には腱断裂の報告もあります。さらに、subsheath遠位に位置する比較的厚い線維組織(distal extension)部で狭窄が生じうることも示唆されています。
尺側手根伸筋腱鞘炎の症状
手関節の小指側(尺側)の痛みが中心で、物を握る・ひねる・持ち上げる・ラケットやクラブを振るなどの動作で痛みが強くなります。痛みは前腕の回旋(とくに回外)や手首の背屈を伴う姿勢で悪化しやすく、作業やスポーツの後に腫れやだるさ、力の入りにくさを感じることがあります。押して痛い場所は、尺側手根伸筋(ECU)腱の走行に一致しますが、前腕の向きで位置が少し変わり、回外位では手首の背側、回内位ではやや小指側・手のひら側寄りに触れることが多いです。症状が進むと、動かしたときに引っかかる感じや不安定感、きしむような違和感が出ることがあり、握力低下や日常動作(ペットボトルの開栓、雑巾しぼり、荷物の持ち上げ)がつらくなる場合があります。三角線維軟骨複合体(TFCC)などの周辺組織のトラブルが併発していると、痛みの範囲が広がったり、長引いたりすることがあります。
尺側手根伸筋腱鞘炎の検査
尺側手根伸筋腱鞘炎の検査では、まず痛みの場所と誘発される動きを確認します。手首の小指側を押さえると腱鞘に一致した圧痛がみられます。診察では、前腕を中間位から回外させて痛みが出るかを見る carpal supination test、胸の前で合掌して自分で回外して痛みを確認する回外合掌テスト、親指を外転させて抵抗をかけたときに小指側の痛みが強まる ECU synergy test などを行い、痛みが出るかどうかを確かめます。
画像検査は必要に応じて行います。レントゲンでは骨折や骨の変化(とくに尺骨茎状突起の骨折や偽関節)がないかを確認します。超音波検査では、腱鞘内の液体貯留や腱の肥厚、部分断裂の有無をその場で動かしながら評価でき、腱の不安定性の有無をみるのにも有用です。より詳しい評価が必要な場合はMRIを用い、腱鞘内の炎症や subsheath の損傷、腱断裂の有無を確認し、同時にTFCC損傷など他の小指側手関節疾患との鑑別にも役立てます。これらを組み合わせ、過不足のない検査で原因を特定し、治療方針につなげていきます。
尺側手根伸筋腱鞘炎の治療
スポーツに関わる方では、患部を長期に休ませ過ぎず、適切な負荷をコントロールしながら機能回復を図るアクティブな保存療法が基本になります。具体的には、肩・肘・前腕回旋など近位関節の可動域や筋の柔軟性を整え、握り方やフォームを見直しつつ、痛みに応じて段階的に負荷を高めるエクササイズを行います。日常や競技を続けながら治療するために、痛みが悪化しない範囲で活動を再開していきます。
手関節装具(スプリント)の併用は、過度な負荷を減らし、適切な負荷域を維持するのに有用です。症状や活動量に合わせて装着時間・固定範囲を調整し、必要以上の固定で筋力低下や可動域制限を招かないようにします。
エコーガイド下のステロイド腱鞘内注射は、短期的な疼痛緩和に有効です。一方で、皮膚の色素変化や脂肪萎縮、腱の変性・断裂といった合併症リスクがあるため、反復投与は避け、適応と回数を慎重に判断します。
これらを組み合わせ、痛みのコントロールと腱の耐用能(負荷に耐える力)の回復を両立させ、再発しにくい手首づくりを目指します。症状が長引く、腱の不安定や断裂が疑われる、TFCC損傷などの合併が強い場合は、画像評価を踏まえて手術治療を検討します。
参考文献)
・富田 一誠.腱鞘炎.関節外科.2022;41(12):1395-1404.