DISEASE DETAILS 疾患一覧
手首・手指の痛み
更年期の関節痛・手指の痛み・こわばり
更年期の女性において、関節や筋肉の痛み、手指のこわばりは、肩こりや腰痛と並んで頻度の高い症状です。更年期後半では、約半数の方が関節の痛みがあるという報告もあり、手足のしびれを伴うことも少なくありません。

これらの症状には、加齢・閉経に伴う女性ホルモン(エストロゲン)の低下が深く関わっています。また乳がん治療におけるホルモン療法によっても同様の関節症状が現れることがあります。
更年期に関節が痛みやすくなる背景には、加齢変性による軟骨の摩耗(変形性関節症:OA)が多く存在しますが、中には関節リウマチ(RA)のような全身性の病気が隠れていることもあります。単なる加齢・更年期症状と決めつけず、適切な検査を行うことが大切です。
治療としては、消炎鎮痛薬や漢方薬による薬物療法に加え、手指の痛みやこわばりを和らげる「エクオール」の摂取が有効です。寒冷暴露を避けるなどの生活習慣指導、リハビリテーションも効果が期待できます。当院では診断から治療まで、一貫した診療ができます。
更年期の整形外科的症状
更年期では、疲れやすさ(易疲労感)やめまい、動悸、頭痛といった自律神経系の乱れからくる症状だけではなく、冷えやしびれ、むくみも見られます。特に日本人女性においては、肩こりや腰痛、背中の痛みといった運動器系の症状がでやすく、これらは日常生活に支障が出ることもよくあります。関節の症状で特に多いのが「手指」の関節症状(メノポハンド)です。

更年期の手指関節炎:メノポハンド
更年期に現れる手指の不調は、総称して「メノポハンド」と呼ばれます。
主な症状は、朝方の「こわばり(動かしにくさ)」や関節の痛み、しびれなどです。これらは左右対称に現れたり、複数の関節に広がる「多関節痛」として自覚されたりするのが特徴です。
こうした不調は、関節を包む「滑膜(かつまく)」の腫れから始まります。進行すると、指の第一関節が腫れて変形する「ヘバーデン結節」や、第二関節が腫れる「ブシャール結節」へとつながることもあります。
アンケート調査では、典型的な更年期症状であるホットフラッシュよりも、こうした手指の不調に悩む女性が多いという結果も出ています。有症状年齢も40代から70代までと幅広く、多くの女性にとって身近な悩みといえます。

更年期の関節痛(更年期関節炎)の原因
更年期関節痛の原因は、卵巣機能の低下に伴うエストロゲン(女性ホルモン)の減少にあります。エストロゲンは体内の炎症抑制や免疫機能に関係しているため、その減少が痛みの原因となります。そこに加齢による身体的変化、精神・心理的ストレス、そして社会環境などの外的要因が複雑に絡み合うことで発症すると考えられています。
女性ホルモン減少にともなう関節痛のメカニズムを裏付ける例として、乳がん治療に用いられる「アロマターゼ阻害薬」の副作用が挙げられます。アロマターゼ阻害薬は体内のエストロゲン生成を抑制する薬剤ですが、その際に生じる関節痛は更年期の関節痛と非常によく似た特徴を持っています。このことからも、エストロゲンの減少が関節の症状に影響を及ぼしていることが推察されます。
エストロゲンの減少は炎症の増加、筋肉量の低下、関節軟骨の摩耗、骨密度の減少、細胞再生の減少を引き起こし、関節痛につながると考えられています。

更年期関節炎の身体診察
閉経前後の手指の関節痛やこわばりは、それが単なる更年期障害によるものか、あるいは関節リウマチ(RA)や膠原病といった器質的疾患によるものかを鑑別することが重要です。特に関節リウマチは潜行性に発症するケースが多く、手指のPIP関節(第2関節)やMP関節(付け根)、足趾のMTP関節といった小関節に加え、肩や膝などの痛み・こわばりから症状が徐々に進行していきます。
リウマチでは「滑膜炎(腫脹)」が目立ち、炎症が強い場合には柔らかい腫れや熱感を伴いやすいため、関節の圧痛や運動時痛、腫脹、「朝のこわばり」を確認します。こうした局所的な関節症状だけでなく、全身倦怠感や易疲労感、食欲不振、体重減少といった全身症状を伴うこともあります。
更年期関節炎の検査(血液検査、画像検査)
更年期障害に伴う多関節痛は、関節リウマチ(RA)と極めて似た症状を呈するため、自覚症状のみで両者を正確に判別することは困難を極めます。そのためレントゲン検査、症状が長引いているときには血液検査を行います。
単純X線検査では、骨びらんや関節裂隙の狭小化、骨性強直といった器質的変化の有無を確認します。触診だけでは滑膜炎の有無を確定できない場合には、関節エコー検査による評価が有効です。
血液検査ではリウマチ診断の要となる「抗CCP抗体(ACPA)」や「リウマトイド因子(RF)」の測定に加え、全身の炎症状態を把握するために「CRP」を確認します。さらに、膠原病のスクリーニングとして「抗核抗体(ANA)」、関節滑膜の腫脹を反映する「MMP-3」を測定します。
関節リウマチ以外の鑑別疾患について詳しく
シェーグレン症候群:
圧倒的に女性に多く、RAと共通点の多い疾患です。RA同様にリウマトイド因子(RF)が陽性となり、赤沈値も上昇しますが、関節症状は「痛み」が主体で進行性の骨破壊は稀です。また、抗CCP抗体が一般的に陰性であることや、目や口の乾燥症状、抗SSA/SSB抗体の陽性反応が判別の鍵となります。
変形性関節症(OA)
日常診療で最も頻繁に遭遇する疾患です。RAでは侵されにくい指の第一関節(DIP関節)に腫れや痛みが出る「ヘバーデン結節」が特徴です。触診では滑膜炎のような柔らかい腫れではなく、骨そのものの硬い突出が確認され、血液検査で炎症反応(CRPなど)が認められない点も大きな違いです。
全身性強皮症
レイノー症状(冷えによる指先の変色)や皮膚の硬化が特徴で、抗セントロメア抗体などが陽性となります。
全身性エリテマトーデス(SLE)
出産可能期の女性に多く、抗核抗体が100%陽性となり、補体価の低下を伴うのが典型的です。これらは関節痛を伴いますが、通常は骨破壊をきたしません。
多発性筋炎・皮膚筋炎
筋肉痛や間質性肺炎を伴いやすく、関節痛が初発症状となることがあります。
乾癬性関節炎
指の第一関節(DIP関節)に炎症が出る重要な疾患でへバーデン結節と誤診されることがあります。関節炎とともに、皮膚の乾癬や爪の変化が早期から認められるのが特徴です。
リウマチ性多発筋痛症
また、50歳以上の高齢者に急激に発症するにも注意が必要です。首、肩、腰、太ももといった体の中心に近い部位(近位部)に強い痛みとこわばりが現れ、微熱や倦怠感を伴います。これは血管炎の一種である巨細胞性動脈炎を合併することがあるため、側頭部の痛みや眼の症状のチェックも欠かせません。
感染症に伴う反応性関節炎(パルボウイルス感染症など)や血管炎、痛風など
更年期の関節痛の治療
治療の基本は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンを用いた対症療法が中心となります。痛みが強い場合には、ステロイド注射を行うこともあります。すでに変形が進み日常生活に支障が出ている場合には手術も検討されますが、まずは初期段階で関節への負担を減らし、悪化を食い止めることが治療の柱となります。更年期における関節痛の治療として、女性ホルモン補充療法(HRT)もありますが、全てのケースで有効とは限らず、乳がんや子宮体がんのリスクもあり、関節痛のみでの投与は一般的ではありません。
肩こりや冷え、血流不全を伴う痛みに対しては、漢方薬も有効です。冷え症で疲れやすく、むくみやめまい、頭重感を伴う場合には当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)が適しています。一方で、血流の滞り(瘀血)が原因で、冷えとのぼせが混在し、頑固な肩こりや頭痛がある場合には桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)が効果を発揮します。また、精神的なイライラや不安感など、多岐にわたる不調を伴う場合には加味逍遙散(カミショウヨウサン)が用いられます。
エクオールの効果と安全性
更年期の不調に対する新しい選択肢として、大豆イソフラボンの代謝物である「エクオール」が注目されています。
日本人女性を対象とした臨床試験において、1日あたり10mg以上のエクオールを摂取することで、首や肩のこわばりが和らぎ、手指の痛みや有痛関節数が減少することが報告されました。特に関節の変形が進む前の段階から取り入れることで、高い予防効果が期待できます。
また、長期的な安全性についても前向きなデータが示されています。発がん性への懸念よりもむしろ抗がん作用を示唆する証拠が多く、乳がん患者の予後を改善する可能性についても報告されています。
標準的な鎮痛薬や漢方薬にエクオールを組み合わせることで、長期間安心して治療を継続しやすくなります。

参考文献)
・平瀬雄一.”メノポハンド” は未病の段階 早めの気づきと対応がポイント.ドラッグマガジン.2025, vol. 68, no. 7, p. 12-15.
・有光小百合. 早期関節炎に対する早期診断と治療介入. Loco CURE. 2022;8(3):218-226.
・種部恭子.更年期障害.産科と婦人科.2015;82(suppl):352-355.
・望月善子.更年期症状.産科と婦人科.2013;80(suppl):294-298.