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けが(外傷)
上腕骨近位端骨折
上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)は、二の腕の骨(上腕骨)の肩に近い部分で起こる骨折です。若年層と高齢層に多く発生し、特に65歳以上では女性の発生率が男性の2〜3倍に上るため、足の付け根の大腿骨骨折と並んでご高齢の方に注意が必要な外傷です。適切な治療を行わないと、骨がずれたまま固まる「変形治癒」や、血流障害による「壊死」などを引き起こし、肩の動きに深刻な後遺症を残す恐れがあります。長期的な日常生活の質(QOL)を守るためにも、早期診断と慎重な治療が求められます。

記事監修:曽我部 祐輔 医師 (三国ゆう整形外科 院長/日本整形外科学会認定 整形外科専門医)
上腕骨近位端骨折の症状
受傷直後から肩周辺に激しい痛みと腫れが生じ、自力で腕を動かすことが困難になります。数日経つと胸のあたりまで広範囲に青あざ(皮下出血)が広がることも多く、骨のズレが大きい場合は外見からも肩の変形がわかりることがあります。
さらに、ズレや肩関節の脱臼を伴うような重症例では、まれに周辺の神経(腋窩神経など)や血管を損傷するリスクがあります。神経や血管に損傷が及ぶと、指先にしびれが出たり力が入りにくくなったりするほか、動脈硬化が進行している方では急激な内出血を引き起こすケースも報告されているため、肩だけでなく指先の感覚や血流状態にも注意を払う必要があります。
上腕骨近位端骨折の原因
受傷原因は、年齢層によって大きく異なります。
若年者の場合は、交通事故やスポーツ中の激しい衝突、高所からの転落といった非常に強い衝撃(高エネルギー外傷)によって引き起こされることが大半です。
一方で、高齢者の場合は骨粗しょう症による骨の脆弱化が背景にあることが多く、立った高さからの転倒といった日常的な軽い衝撃(低エネルギー外傷)でも骨折に至ってしまいます。近年は高齢化に伴い、後者のような脆い骨に起こる複雑な骨折が増加傾向にあります。
骨の強さと骨折の関連:「骨粗しょう症」検査のすすめ
上腕骨近位端骨折は、骨粗しょう症と非常に深い関わりがあります。骨密度が低い方ほど、受傷時に骨がいくつにも割れる「粉砕骨折」になりやすく、手術が必要になるなど体への負担が大きくなることがわかっています。また、腕の骨折は「連鎖する骨折(ドミノ骨折)」の危険なサインでもあり、足の付け根(大腿骨)など寝たきりにつながる別の骨折を起こすリスクが高まります。
しかし実際には、骨折して初めて骨粗しょう症に気づく方が多く、受傷前に骨粗鬆症の治療を受けていた方は約2割にとどまるというデータもあります。
骨粗鬆症の治療をしっかりと行うことは、骨折そのものを予防するだけでなく、万が一骨折した際の重症度を下げることにもつながります。「最近背中が丸くなってきた」「転ぶのが怖い」という方や、これまで一度も検査を受けたことがない方は、当院で骨密度検査を受けることをおすすめします。簡単な検査で評価が可能ですので、お気軽にご相談ください。
上腕骨近位端骨折の検査
まずはX線(レントゲン)検査を多方向から行い、骨折の有無や大まかなズレ、関節の脱臼がないかを確認します。転位が少なく、手術が必要とならないケースではCTなどの追加検査は不要で、治癒するまでX線検査フォローを行います。
骨折線が複雑な場合や手術が検討される場合にはCT検査(3D-CT)を追加し、骨の割れ方やズレを立体的に把握し、最適な治療法を決定するための「Neer分類」の評価や、骨片への血流予測を行います。レントゲンにははっきりと映らない軽いヒビ(不全骨折)が疑われるケースや、この骨折の約40%に合併するとされる肩のインナーマッスル(腱板)の断裂が疑われる場合には、MRI検査を実施してより正確な状態評価に役立てます。

上腕骨近位端骨折の治療概要
当院では、年齢や受傷前の生活状況(ADL)、骨の折れ方やズレの程度、脱臼の有無などを総合的に判断して治療法を決定します。
基本的には、骨のズレが小さい場合は「保存療法(手術をしない治療)」、ズレが大きい場合は「手術療法」を選択します。なお、手術や入院が必要と判断される重症例につきましては、連携する地域の総合病院へ速やかにご紹介いたします。
保存療法(手術をしない治療)
保存療法は、骨折のズレが小さい方に適応となります。まずは三角巾とバストバンド(胸に巻くバンド)を用いて、骨折した腕を体に密着させるように固定し、安静を保ちます。
受傷後1〜2週間はしっかりと固定したまま安静に過ごしていただきますが、その後は腕を下に垂らし、振り子のように前後左右に動かす「振り子運動」というリハビリを開始します。なお、リハビリを行っている時間以外は、引き続き固定を継続することが非常に重要です。
受傷から6〜8週ほど経過し、骨がくっついてきた(癒合傾向)ことが確認できたら、徐々に腕を上げる練習を始めます。最終的に骨が完全にくっついた段階で、腕に体重をかけることが許可されます。
全体の約85%は、骨のズレが比較的小さい安定した骨折であり、手術を行わない保存療法で良好な結果が得られます。保存療法では長期間の固定を避け、受傷後2週間以内を目安に早期のリハビリテーションを開始することが機能回復に有効とされています。
手術療法(連携病院へご紹介)
骨のズレが大きい場合や、複数の破片に分かれている複雑な骨折の場合には、手術療法が検討されます。手術が必要と判断される重症例は、速やかに連携する地域の総合病院へご紹介いたします。手術には主に3つの方法があります。-
1つ目は髄内釘(ずいないてい)手術です。これは骨の中に一回り細い棒状の金属(インプラント)を埋め込み、ネジで固定する方法です。肩の外側や二の腕に小さな傷をつくるだけで済むため、体への負担が少ないという特徴があります。その反面、傷が小さいため複雑な骨折を正確に元の位置に戻すことが難しい場合があり、また手術の際に肩の筋肉の腱(腱板)を切開するため、術後の肩の動きに影響が出る可能性もあります。
2つ目はプレート固定法です。骨の外側に金属の板(プレート)を当てて、複数のネジで固定します。10〜15cm程度の傷をつくり、骨折部を直接見ながら手術を行うため、骨のズレを正確に戻すことができるのが利点です。さらに、医療用の糸を使って小さな骨の破片や筋肉の腱をプレートに結びつけ、強固に固定できる点も大きなメリットです。
3つ目はリバース型人工肩関節全置換術です。近年、65〜85歳の方で非常に重症な骨折(3-part、4-part骨折と呼ばれる複雑な割れ方)に対して選択されることが増えています。ご自身の骨をつなぎ合わせることが難しい場合に、肩の関節そのものを人工関節に置き換える手術です。肩のインナーマッスル(腱板)が機能しなくなっていても、外側にある大きな筋肉(三角筋)の力を使って腕を挙げられるようになるのが最大の特徴です。
手術後のリハビリについて
手術後のリハビリテーションも、術式によって流れが異なります。髄内釘やプレートなどの金属固定を行った場合は、基本的に術後早期から理学療法士とともに肩を動かすリハビリを開始します。なお、固定に使った金属は、術後1〜2年経過した後に抜くための手術(抜釘術)を行うことがあり、これは執刀医と相談のうえ決定されます。人工関節の手術を行った場合は、術後に専用の装具(肩関節外転装具)を使用し、理学療法士のリハビリを経て、術後1ヶ月程度から自力で腕を挙げる練習を始めていきます。
手術先の病院を退院された後の継続的なリハビリテーションにつきましては、当院でもしっかりとサポートできる体制を整えております。
参考文献)
・安藤治朗:上腕骨近位端骨折の治療.整形外科看護 30(7):654-659,2025.
・安藤治朗:上腕骨近位端骨折の病態.整形外科看護 30(7):650-653,2025.
・Pandey R, et al. Proximal humerus fractures: A review of current practice. J Clin Orthop Trauma. 2023;43:102233.