DISEASE DETAILS 疾患一覧
肘の痛み
ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)
こんな症状がある方はご相談ください
- 肘の「内側(上腕骨内側上顆付近)」に痛み・圧痛がある
- グリップを握ったり、肘を曲げたりした時に痛みが出る
- 前腕内側に沿って痛みが広がる・動作で悪化する
- 薬指・小指にしびれや違和感がある
- キーボード作業、工具使用、ゴルフ・テニスなど同じ動作を繰り返すと痛む
- 痛みが長引いて、日常動作やスポーツで支障を感じる
三国ゆう整形外科では、症状の段階に合わせて、動作の見直し・リハビリ・装具・薬や注射を組み合わせ、早期の痛み軽減と再発予防をめざします。阪急宝塚線「三国駅」南口から徒歩約1分、国道176号線沿い。屋上に41台分の駐車場あり、受診の方には駐車券(無料)をお渡しします。
ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)とは
ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎、Golfer’s elbow)は、肘の内側の近くに痛みが出る疾患です。上腕骨の内側上顆に付着する前腕の回内・屈筋群、特に円回内筋と橈側手根屈筋の共同腱に炎症が生じます。発症の背景には、反復する牽引ストレスによって前腕筋群の付着部に微小損傷や線維化が起こることが関係しています。発症の頻度は、上腕骨外側上顆炎(テニス肘)と比べると少なく、全体の約10〜20%を占めます。好発年齢は30〜50代で、男女比はおよそ2:1と男性に多くみられます。一般人口での有病率は1%未満ですが、手作業や力仕事を行う労働者ではより高頻度にみられます。危険因子としては、手関節の反復する屈曲・回内動作、力作業、喫煙、肥満、心理的ストレスなどが挙げられます。また、約半数の患者さんでは尺骨神経症状(しびれや感覚異常など)を伴うことが知られています。

ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)の原因と病態
ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)は、肘の内側に痛みが生じる疾患で、上腕骨内側上顆に付着する前腕の回内・屈筋群、特に円回内筋と橈側手根屈筋の共同腱に繰り返し負担がかかることで発症します。原因としては、ゴルフやテニス、野球、ウェイトトレーニングなどのスポーツのほか、工事現場や介護・清掃などでの反復動作による職業性負荷が挙げられます。キーボード操作や工具の使用など、日常生活の繰り返し動作でも起こることがあります。
リスク因子は、40歳以上、長時間の反復作業(1日2時間以上)、喫煙、肥満、心理的ストレスなどです。前腕屈筋群の付着部に外反ストレスと遠心性負荷が繰り返し加わることで微小損傷が生じ、血管線維芽細胞性増殖(angiofibroblastic hyperplasia)を経て、線維化や石灰化へと進行します。
病態について詳しく(やや難しい内容です)
内側上顆では、円回内筋と浅指屈筋の間に発達した腱性中隔が存在し、この構造が滑膜性関節包や内側側副靱帯前方線維と連続しており、病変の形成に関与します。これらの構造は血流に乏しい線維軟骨で構成されており、修復力が低く慢性化しやすい特徴を持ちます。また、外側(テニス肘)に比べて関節包構造が単純な一方で、尺骨神経との近接があり、20〜60%の症例で尺骨神経障害を合併することが知られています。肘部管での絞扼、神経の逸脱、外反ストレス、屈筋群変性の波及などがその機序とされ、明確な神経症状がない場合でも潜在的な合併を念頭に置く必要があります。
さらに、内側上顆は滑膜組織を含む “enthesis organ” として構成されており、この滑膜組織(synovio-entheseal complex)が炎症反応や疼痛発現の中心的な役割を果たしています。こうした解剖学的特性と生体反応が重なり、ゴルフ肘は慢性化・再発しやすい病態を形成します。

ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)の症状
肘の内側に痛みや圧痛が生じるのが特徴で、痛みは前腕の内側に沿って広がることもあります。多くは特定の動作で痛みが強まり、肘の動かしにくさや握りこぶしを作ったときの痛みを伴います。尺骨神経が刺激されると、薬指や小指にしびれが現れることもあります。痛みの出方はさまざまで、突然強く出る場合もあれば、徐々に悪化していくこともあり、ゴルフクラブを振る、タオルを絞る、ドアノブを回すなどの動作で悪化することがよくあります。
ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)の検査
ゴルフ肘の診察では、肘の内側上顆前方の圧痛が特徴的で、前腕を回内したり手関節を屈曲させると痛みが誘発されます。特に、抵抗を加えた状態で前腕を回内させたり、手関節を曲げると疼痛が明確に出現します。また、尺骨神経障害を伴うことが多いため、Tinel徴候(肘部で神経を叩打してしびれが出るか)や肘屈曲試験(一定時間肘を曲げて神経症状の出現をみる)などを行い、薬指・小指のしびれや筋力低下、尺骨神経の脱臼などを確認します。
画像検査では、X線検査(レントゲン)で変形性肘関節症や遊離体などを除外し、屈筋・回内筋起始部の石灰化が見られる場合もあります。慢性例ではMRIで起始部のT2高信号域(炎症や変性を反映)を認めることがあります。さらに、超音波検査では低エコー域として描出され、CTでは腱付着部の石灰化(約25%にみられる)が確認できることもあります。これらの検査は、尺側側副靱帯損傷や骨軟骨損傷などの鑑別にも有用ですが、すべての症例で異常所見が得られるわけではありません。したがって、画像検査はあくまで補助的診断として位置づけられ、臨床所見との総合的判断が重要です。
ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)の保存治療
治療の基本は、まず患部への負担を減らすことです。握力を強く使う動作や、手首を何度も曲げ伸ばしする作業を避け、安静を保ちます。あわせて前腕の回内・屈筋群のストレッチを行うことが大切です。
急性期には、1日3回、15分程度の冷却(アイシング)が有効です。氷嚢を薄いタオルで包み、皮膚を保護しながら冷やします。痛みが強い場合は、肘の内側を5分ほどアイスマッサージすると効果的な場合もあります。また、カウンターフォースブレース(肘サポーター)は、腱や筋肉への負担を軽減します(当院での処方ができます)。
痛みが強い場合には、上腕骨内側上顆へのステロイド注射が有効ですが、繰り返し行うと腱や筋肉を損傷する恐れがあるため、頻回の注射は避ける必要があります。一方で、ヒアルロン酸注射は副作用が少なく、滑膜組織の保護や抗炎症効果が期待できる新しい治療法として注目されています。
リハビリテーションでは、ストレッチや筋力訓練を段階的に行い、腱や筋肉を徐々に慣らしていきます。痛みが軽減してきたら、スポーツや仕事への復帰を段階的に進めます。
ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)の手術治療
多くの症例は休息、冷却、鎮痛薬などの保存療法で改善しますが、6〜12か月以上の保存療法でも改善がみられない場合は手術を検討します。手術では、内側上顆の回内・屈筋群の起始部を部分的に切除し、瘢痕組織を除去して修復します。近年では鏡視下手術も報告されており、70度斜視鏡と複数の内側ポータルを使用して、関節包や屈筋・回内筋起始部を選択的に切離し、内側側副靱帯前方線維(AOL)を温存する手技が報告されています。症例数はまだ限られていますが、術後の成績は良好です。

参考文献)
・上腕骨外側・内側上穎炎の診療と最近のトピックス. MB Orthop. 28(9):9-14, 2015.
・落合 信靖.上腕骨外側・内側上顆炎の病態について.関節外科.2024;43(8):786-792.
・篠原靖司,熊井司:スポーツ選手の上腕骨外側・内側上顆炎に対する注射の有用性.MB Orthop. 28(9):59-65,2015.

先生から一言
ゴルフ肘はテニス肘についでよく見る肘の痛みを伴う疾患です。スポーツだけではなく、工事現場の作業などの職業性負荷が原因となって発症する方が多い印象を受けます。安静、ストレッチ、クーリングで徐々に改善していきますが症状が長引くことも多いです。