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「関節の痛み、こわばり」は「更年期障害」の症状のひとつです
三国ゆう整形外科の院長の曽我部です。
更年期の関節のこわばりや痛み、実は更年期障害の症状のひとつであることをご存じですか?
更年期障害は閉経を迎える前後10年程度に起こる症状のことを指し、日本人女性ではおおむね50~51歳が平均の閉経年齢であるといわれています。
よく知られている症状は、のぼせやほてりなどのホットフラッシュ、不安感やイライラなどの気分の変調です。しかしながらあまり認知されていませんが、肩こり、頚の痛み、膝などの関節の痛み、指のこわばりや疼痛、腱鞘炎なども歴とした更年期障害の症状のひとつなのです。
そしてその発症頻度はかなり高く、整形外科の診療で更年期の年代の女性の関節痛、手指の不調による受診はかなり多く見受けられます。また産後授乳期にも同様の症状は増加します。またこれらの症状は「職業や利き手に関係なく発症する」ことも報告されています。
関節の不調は女性ホルモン,とくにエストロゲンの変化と濃厚に関連していることが明らかとなりつつあります。特に更年期前後において短期間にエストロゲン濃度が大きく変化(多くの場合は急激に減少)することは関節に関節にネガティブな影響を及ぼすのです。
更年期症状としての関節痛、手指の痛み、腱鞘炎は更年期障害の症状のひとつ
なぜ女性ホルモンの変動が関節の不調を引き起こすのか?
エストロゲンはエストロゲン受容体と結合することによってその作用を発揮します。
エストロゲン受容体には「α」「β」の2種類があります。
αは子宮,卵巣,乳腺,腎臓副腎などに存在し、βは骨,脳,肝臓前立腺,血管壁,肺,甲状腺膀胱などに加え「関節包、腱鞘、靱帯、滑膜」に存在します。滑膜は軟骨の働きを助ける薄い膜で関節を裏打ちしており、潤滑油である関節液を分泌して、軟骨へ栄養を補給します。エストロゲンが不足すると滑膜の働きが低下し、体が重く感じたり、手がこわばったりします。またエストロゲンには腱の保護作用があることも判明しています。
すなわち、エストロゲン受容体「β」に結合するエストロゲン量が減少することが更年期の関節の不調に大きく関わっているといえます。女性のエストロゲン分泌は25歳をピークに減少し始め、平均50歳前後で最終月経を迎え、大きく減少します。
更年期の関節の不調に対する治療
のぼせやほてりなどに代表されるホットフラッシュなどの更年期障害の症状に対しては、エストロゲ ンを補充するホルモン補充療法(Hormone replacement therapy:HRT)が有効です。
同様に更年期にホルモン補充療法を導入することにより,将来的な変形性手指関節症の発症を予防する可能性については海外での報告がありますが、手指の疼痛や腫脹などの症状そのものに対するホルモン補充療法の有用性はまだ確立されていません。
女性ホルモン減少が症状の引き金となっていることから、今後有効な治療方法として確立される可能性はあり、少数ながら本邦での報告もあります(2022年、鹿児島大学整形外科)。しかしながらエストロゲン補充療法には乳がん、卵巣がん発症リスクを増大するのではという不安も付きまといます。そこで現在最も有効な代替療法として注目されているのは「エクオール」です。
エクオールは大豆イソフラボンの代謝の過程で産生される物質であり、豆腐などの大豆食品が腸内細菌によって代謝されてできます。エクオールは体内でエストロゲン受容体βと結合し、閉経後はエストロゲンに類似した作用を発揮します。これによって閉経によるエストロゲンの減少を補い、更年期症状としての関節症状を抑制することが期待されます。自費診療なので月々4320円(大塚製薬、エクエル)とやや高額ですが、値段以上の価値はあると考えています。お肌や髪がつやつやするなど、女性として見た目が若返ると嬉しい効果もあります。肌を美しく保つという意味合いでも、高額な化粧品の代わりに検討する価値は十分すぎるほどにあると思います。
指の変形を食い止めることはできるのか?
手指の不調で整形外科を受診しても「使い痛み」「加齢によるもの」と言われ有効な治療方法を提示されないことも多くあります。手指、手関節の変形は短期間で急激に起こるものではなく、更年期症状として始まった関節炎や滑膜炎が長期間にわたって持続し続けることが変形の原因になると考えられています。平瀬らは「最初は指関節の腫脹や痛みだけであったものが未治療のままおかれることで、7~10年程度経過して関節の変形などの非可逆的変化が現れること」を報告しています。
そうであるならば、更年期の手指の痛み・腫脹を適切に治療すれば、長期的には続く手指の変形性関節症の予防につながる可能性があるといえます。
当院では手外科の手術経験の多い院長が診療にあたり、症状の改善、将来的な変形予防に向けた治療を包括的にデザインします。また関節リウマチ、その他の膠原病など、更年期の手指の不調とよく似た症状を引き起こす疾患を除外することも大切ですが、その多くは血液検査で鑑別が可能です。
また、手指の疼痛や更年期障害に有効な漢方薬の処方も積極的に行っております。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、抑肝散(よくかんさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などが一般的な更年期障害に対する漢方薬になります。当院ではこれに加えて、手指の関節痛に有効な桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう、冷えると悪化しやすい関節痛)、桂枝茯苓丸加ヨクイニン(ケイシブクリョウガンカヨクイニン)、ヨクイニン(慢性的な関節痛)を病状や、からだの状態に合わせて処方を行います。一般的ではないですが、治打撲一方(じだぼくいっぽう)や疎経活血湯(そけいかっけつとう:漢方の中でも苦みが強く、内服にはすこし勇気がいります)が有効なこともありますので、試してみる価値はあります。「いわゆるお薬はできるだけ飲みたくないけど、漢方薬なら飲んでみたい」、「西洋薬ではなく漢方薬を使いたい」という方も、ぜひ当院にお越しください。
手指の痛みは、人にはなかなか分かってもらえずつらいものです。
自分で抱え込んで悩まず、まずは院長にご相談ください😊
参考文献
平瀬雄一ら.更年期と手の障害.LOCOCURE, voL8, No.3, 2022.
イキイキからだのつくり方 手指編. からだにいいこと.
婦人科漢方. 寺内公一ら. 薬局 74(1): 104-110, 2023.
吉田祐文. 整形外科における関節痛の診断と漢方治療 .中医臨床 44(3): 316-320, 2023.