整形外科・リハビリテーション科・リウマチ科・骨粗鬆症外来

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2024.03.26 整形外科一般

こどもの腕が抜けた?「肘内障」とは

こんにちは、院長の曽我部です。

お子さんの「腕が抜けた」「肘が抜けた」「肩が抜けた」「手首が抜けた」という訴えで来院されるかたはとても多いです。なかには何度も抜けていて「また抜けました」と言って来られる方もいます。

きょうはありふれた小児整形外科疾患である肘内障について、英語の文献の内容も含めて詳しく解説いたします。小さなお子様のいるかたにはとても参考になる内容ですので、ぜひご覧ください😊

肘内障って何?

肘内障は「肘の橈骨頭という骨が、輪状靱帯というわっか状の靱帯からポコッと外れそうになる疾患」です。橈骨に引っ張られる力が働いて、橈骨頭が末梢に移動し、輪状靭帯が橈骨頭と上腕骨小頭間に挟まれると考えられています 。

©About Kids Health, イラストを一部改変しました

肘内障はどうやって発症する?

典型的には手を引っ張った後に肘を痛がり、動かさなくなったということが多いです。ある報告によると、手を引っ張って発症した肘内障は全体の50%程度でした。

しかし転んで手をついた、肘をついた、寝返りをうった、体の下に腕を敷いたなど実に様々な発症機転があるようです。原因がはっきりしないものもあります。子供同士で遊んでいたら、いつの間にか痛がって動かさなくなったということも良くあります。

手を引っ張った時に抜けるのが典型的です

肘内障の検査は?

引っ張ってから動かさない、という典型的な受傷機転ではレントゲン(X線検査)は不要です。整復して終了です。原因がはっきりしない場合で、かつ肘が腫れていたり、熱を持ったりしていて骨折が否定できないときはレントゲン検査を行います。骨折があることに気づかず、無理に整復操作を行おうとすると、よくならないばかりか骨折部がずれてしまい、手術が必要になることもあり得ます。

肘内障の治療は?

前腕を内側にくるっと回して直す「回内法」、前腕を外側にくるっと回す「回外法」があります。私はもっぱら回内法を使用しています。整復がうまくいくと、「コリッ」という感覚(整復感)があり、その後すぐに手を動かせるようになります。バンザイ、バイバイができるようになったのを確認してから帰ってもらうようにしています。

重要なことは、典型的な肘内障ではない症例や、肘が腫れていたり、受傷機転がはっきりしないものに対してはいきなり整復を試みない、もしくは愛護的に整復操作を行うということです。

肘内障は再発する?くせになる?

肘内障は再発する可能性があります。特に再発リスクが高いのは「1~3 歳」で、全体の80%がこの年齢帯で発症するといわれています。2歳がピークです。6歳までは抜ける可能性があるといわれます。とくに何度も繰り返す子がいたり、反対側に起こることもあります。一度肘内障になると靱帯や軟部組織が緩くなり、その後しばらくは再発しやすくなりますので、注意が必要です。子どもの手をつかんで体を引っ張り上げたり、振り子のように揺すったりするのは避けましょう。特に発症してから2 週間の間は注意が必要です。

3 歳以後は関節や靭帯がしだいに強固になり、輪状靭帯から橈骨頭が抜けにくくなるので発症しにくくなります。

肘内障で後遺症が残ることはある?

小児の肘内障は予後が良好で合併症もほとんどありません。整復後のシーネ固定が再発を減少させたとする報告もありますが、私は必要ないと考えます。年長児で発症した時は手術が必要になる可能性があるとする文献報告もあります。

整復後に再診が必要なのは、また腕を動かさなくなった(肘内障の再発の可能性)、肘や手関節が腫れてきた(肘内障に合併した骨折や打撲の可能性)、高熱が出てきた(皮膚や関節の感染症の可能性)場合などで、ほとんどのケースでは、再診は不要です。

肘内障のように思えても、骨折が隠れていることがある

私が若手の医師のころ、救急外来の先生から、肘内障だと思うが整復しようとしても治らないので診察してほしいという依頼がありました。患者さんを診察すると、確かに手をだらんと垂らしていて、一見すると肘内障のようでした。でも少し肘が腫れていて、ご両親の話では、「見ていないところで転んだのかわかりませんが、気が付くと泣いていて、肘か手首?をいたがっていた」とのことでした。

ただの肘内障ではないかもしれないと考え、すぐにレントゲン検査を行ったところ、上腕骨顆上骨折という肘関節部の骨折を認めました。すぐに固定を行い、3週間後には骨折したことも忘れてほとんど元通りにまで動かせるようになりました。肘内障と決めつけず、怪しいと思ったらレントゲン検査を行うことが大切です。

肘内障かな?と思ったら整形外科を受診しましょう

肘内障は受傷機転がはっきりしないことも多い疾患です。引っ張った後から動かさないような典型的な場合ならよいのですが、転んだ後から痛がるとき、原因がわからない場合は肘内障だと決めつけてはなりません。レントゲン検査を行い、隠れた骨折や他の病気がないかを調べるのは大切なことです。まずは近くの整形外科を受診しましょう。

整形外科医の診察を受けましょう

参考文献)

・Welch R, et al:Radial head subluxation among young children in the United States associated with consumer products and recreational activities. Clin Pediatr (Phila) 56:707–715, 2017

・Macias CG, et al :A comparison of supination/flexion to hyperpronation in the reduction of radial head subluxations. Pediatrics 102:e10, 1998

・私の治療 No.5046 2021p1,9日本医事新報 43

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