整形外科・リハビリテーション科・リウマチ科・骨粗鬆症外来

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2022.10.20 整形外科一般

ストレスは腰痛を悪化させる

みなさまこんにちは。三国ゆう整形外科の院長の曽我部です

腰の痛み(腰痛)は当院に限らず整形外科を受診する原因でいちばん多い症状と言っても過言ではありません。重いものを持つ、前かがみの姿勢をとった、かがんだ、腰をひねったなどの原因があることが多いですが、あきらかな誘因がなく発症することもあるのが厄介です。

医師の診察、画像検査(レントゲン、 MRI など)で腰痛の原因がはっきりわかるものを「特異的腰痛」原因が特定できないものを「非特異的腰痛」といいます。

腰痛の約 85%はこの非特異的腰痛に分類され、ふつうは腰痛症というとこの非特異的腰痛のことを指します。
腰痛があって医師の診断を受けたのに、診断や説明がはっきりせず不満を持たれたことのある方は少なくないのではないかと思います。その原因の一つは、実は「そもそも医学的に原因のはっきりしない腰痛が大部分を占めているから」なのです。非特異的腰痛の中には筋筋膜性腰痛症、変形性腰椎症、腰椎捻挫(ぎっくり腰)などが含まれます。これらはレントゲンをとってもあきらかな異常がないか、骨の変形があったとしてもそれが原因とは断定できないという特徴があります。

非特異的腰痛の大きな原因は ①脊椎の不具合、②精神的ストレスによる脳の痛みを抑える能力の低下、であるといわれています。脊椎の不具合は、前かがみ(前傾姿勢)、猫背の姿勢、腰を反らした姿勢、不適切な持ち上げ動作(腰を落とさず、前屈みになってよっこいしょと荷物を持ち上げる動作)などによって腰に過剰な負担がかかり、クッションの作用のある椎間板の中の髄核という組織がずれることで生じるとされています。

前傾姿勢、猫背では、髄核が後ろにずれ、腰の重だるさや痛みを生じると考えられています。

髄核は椎間板の中央にあるゼラチン状の組織

Cosimo Ligorio et al. Self-Assembling Peptide Hydrogels as Functional Tools to Tackle Intervertebral Disc Degeneration. Gels 20228(4), 211

また、ハイヒールを履いて立ち続けるなど、腰を反らした状態が続くと髄核は前にずれ、腰に痛みを生じることがあるとされます。

原因のはっきりわかる特異的腰痛には、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、脊椎圧迫骨折、感染性脊椎炎、がんの脊椎転移、尿路結石、解離性大動脈瘤、動脈瘤破裂などの重篤な病気が原因となることがあり注意が必要です。ただの腰痛はレントゲンで大きな異常がないはずなのに医師が腰痛でレントゲンをチェックする理由は「これらの重大な病気を見逃さないようにする」という目的が大きいのです。

話を非特異的腰痛(以下、腰痛)に戻しましょう。

あまり知られていないかもしれませんが、腰痛は実は精神的ストレスと大きな関係があります。

腰痛と心理社会的因子の関係性を最初に報告したのは1995年のBoosらの報告で、さほど昔のことではありません。

以下、「慢性疼痛診療ガイドライン」より、腰痛と精神的ストレスについて記載された該当項目を確認してみましょう(一部わかりやすくするため補足)

働く世代だと、「仕事の満足度、仕事の単調さ、職場での人間関係、仕事量の多さ、精神的ストレス、仕事に対する能力の低い自己評価」はそれぞれ腰痛の発症と強い関連があるといわれています。

腰痛の心理社会的な予後不良因子として、「仕事に対する低い満足度、抑うつ状態、低い社交性、恐怖回避信念(理由もなくだんだん悪くなると信じ込むような破壊的解釈など)」があるとされます。

また「仕事に支障をきたす非特異的腰痛」の研究では、腰痛発症の危険因子は「腰痛の既往(以前にも腰痛を発症したことがある)、25Kg以上の重量物運搬、持ち上げ動作が頻繁、(一日の作業時間の半分以上が目安)、労働時間が週60時間以上、職場での対人関係のストレスが強い」ことなどがあります。また腰痛の遷延(症状が長引くこと)、慢性化(腰痛が三カ月以上続くこと)の危険因子としては働きがいの低さ、仕事や生活への不満、低い社会からのサポート、心理社会的因子(抑うつ、不安)、身体化(精神現象が身体症状として現れること)、腰痛が改善することへの期待の低さなどの心理社会因子があげられます。

破局的思考(痛みがもっとひどくなる、この痛みのせいで⼈⽣おしまいだ、痛みはどうにもできない、等の痛みに対する極端な考え)は腰痛の強度、持続期間、機能障害、治療の効果に影響し、急性期、亜急性期、慢性期のいずれの段階においても破局的思考は腰痛の強度、機能障害に影響しました。

慢性的な腰痛へ移行するリスク因子としては、精神的苦悩、抑うつ、および身体化があげられました。

腰痛に対する心理社会的要因は、仕事、教育レベル、社会的身分、補償問題(交通事故の被害者であるか)などの社会的因子、そして痛みに対する破局的思考や恐怖回避施行などの施行や受動的コーピングなどの多数の因子が相互に作用を及ぼしあっていると考えられます。

上記だけを読んでも、なんだかよくわかりにくいですね。

「精神的ストレスが腰痛の発症、増悪、慢性化に関与する」というのが大まかな結論になるかと思います。

ではなぜ精神的ストレスは腰痛と関係があるのでしょうか?

その要因の一つとして脳に本来備わっている、過剰な痛みを抑制するシステム「下行性疼痛抑制系」の機能を低下させてしまうからだと考えられます。これは脳幹から神経線維を伝わって脊髄内を下降し、過剰な痛みの伝達を抑制するシステムです。骨折や肉離れ、捻挫、内臓の損傷など痛みは脳に危機を認識させるための重要なシグナルです。痛みがあるからこそ異常に気付くことができるわけです。

しかし過剰に痛みを感じると生命活動そのものに支障が出るため、痛みをコントロールする機構が生来備わっていると考えられます。

下行性疼痛抑制系にはセロトニン系とノルアドレナリン系の二つの系があり、セロトニン神経はセロトニン、ノルアドレナリン神経はノルアドレナリンを放出し、痛みで興奮している神経の後角にある受容体に取り込まれて痛みを抑制する効果を発揮します。

ヒトには過剰な痛みを抑制する機構「下行性疼痛抑制系」が備わっている

ストレスによってこの下行抑制系の機能が低下することが長引く腰痛の原因であると考えられています

非特異的腰痛の治療について

痺れや麻痺などの神経症状のない非特異的腰痛に対して、以前は安静・臥床をとるように指示されていたこともありました。しかし現在の医学ではできるだけ活動性を維持すること、安静をとりすぎないことが疼痛の軽減のみならず、身体機能回復の観点からも推奨されています。薬物療法も疼痛の改善、身体機能改善の両面において有効でありNSAIDs(いわゆるロキソニン)が第一選択薬剤となります。その他にも有効な薬剤があり、症状に応じて使い分けをします。

薬剤のみでは治療効果が不十分である場合は、ストレスや抑うつ状態などの社会心理学的要因を改善するアプローチも試みる必要があります。

参考文献)

腰痛診療ガイドライン2019, 慢性疼痛診療ガイドライン2021, 今日の整形外科治療指針第8版

Cosimo Ligorio et al. Self-Assembling Peptide Hydrogels as Functional Tools to Tackle Intervertebral Disc Degeneration. Gels 20228(4), 211

非特異的腰痛とは|運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座 (lbp4u.com)

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